途切れたふたりの初詣
羽野京栄
第1話
「オンライン上で参拝ができるんだ!」
あゆみは心躍った。これならジュンと2人で初詣ができる…
大晦日の夕暮れ時。お正月に向けてきれいに掃除を終えたばかりの自室。やや潔癖と自認するあゆみが、2日かけてきれいに整えた部屋は、澄んだそよ風が常に流れているかのようだ。
普段なら今頃、お出かけの準備に忙しい。ジュンとの初詣デートが、1年の最初の恒例になっていたからだ。
しかし今年の年またぎはいつもと違う。世の中は初詣どころでない。自粛の嵐が年の暮れにも吹き荒れて、神社にお参りに行くことができない。いつもきまって2人で出向く「坂宮神社」に。混雑による「密」を避けるため、元旦は閉門し立ち入り禁止になってしまった。
老舗化粧品店に勤めるあゆみは。その年最も売れた香水を肌にふりかけて、初詣に出かける。流行りの香水を新年最初に身にまとうのはあゆみ流のゲン担ぎであり、ジュンと灯している大切な炎がずっと燃え続けますようにとのおまじないだ。
だが今年は人気ナンバーワンの香水の出番はない。あたりが暗くなりいよいよ大晦日の夜を迎えても、あゆみはこの清浄な部屋とは裏腹に、心にはもやが射し込み、落ち着かないでいた。
ジュンとの初詣はできない…付き合って7年もの間、1度も欠かさなかった新春の「儀式」が、ついに途切れてしまう。寂しさとともに、しずしずと不安もよぎり始める。カウントダウンが近づくとともに、ジュンがいない元旦という現実がつきつけられる。
ジュンと過ごせる喜びを表現するはずの香水は化粧箱に眠ったまま目を覚ますことはない。「ティファニー オードパルファム」の芳醇な香りを閉じ込めたまま、寂しさを押し殺すかのようにSNSで紛らわす。
何気なくタイムラインをたどりながら目に入ってきたのが「オンライン参拝」の文字。どうやらトレンド入りしているらしい。羅列されたつぶやきを読んでいくうちに、なんとグーグルアースを利用して、参道を歩くシーンから本殿参拝までの一部始終を疑似体験できる、というではないか。
これなら遠距離のかなたにいるジュンと、オンラインで初詣ができる。2人同時にグーグルアースを開き、同じ地点を開いて、同じ道筋を画面上で進んでいく。そして、2人一緒に本殿に到着し、ともに手を合わせることができる。2人の願い事を重ね合わせることもできる。
なんと素敵なアイディアだろう。あゆみは早速ジュンにLINEをする。きっとジュンも乗ってくれるはず。寂しさが一気にしぼみ、希望の光が日輪となって、あゆみの真白いほほをゆっくりと照らし始めた。
しかし…
LINEの返事が来ない。そればかりか既読にもならない…電話をしても出ない。
「どうして出てくれないの?今どこにいるの?」
そうこうしているうちに、時間は過ぎていく。2021年が迫っている。午前0時が近づいてくる…
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