&α 向こう側

 起き上がろうとして。

 身体が、何かに。

 引っ掛かる。ふたりとも。


「あれ」


「え?」


「待って。どういうこと?」


「どうしてここに」


「俺も分からない。ここは俺の部屋で」


「ううん。わたしの部屋だよ?」


「ベッドは俺のだけど」


「枕とシーツはわたしのやつ。ピンクだし」


「目覚まし時計は?」


「ええと」


 午前四時。


「奇跡かも。逢えた」


「そうだね」


「似たような部屋に住んでたんだな」


「ちょっと残念。夢の中でなら、ずっと、ふたりきりなのに」


「寝てみればいい。いま」


「そっか」


 ふたりして、さっきまで寝ていたベッドに潜り込む。


「寝れないね」


「そりゃあ、そうだよな。寝れないよな。だってさ」


「夢の中でしか会えなかったのに」


「目の前に急にいたらさ」


「緊張するよ」


「ね。緊張する」


 ふたりとも、ベッドのなかで、絶妙に距離を保ったまま。眠りを待つ。

 きっと。眠りの先でも。ふたりは一緒に。

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オーバーザワールド 春嵐 @aiot3110

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