凸待ち
あなたは凸待ちというものを知っていますか。
配信者が自分の電話番号やインターネット電話のIDを公開し、そこに電話をかけてきた視聴者と交流するというライブ配信特有の文化です。電話を取るまではかけてきた相手が誰かわからないため、特有のドキドキ感やハプニングを楽しめることで、長く人気のある配信コンテンツです。
実は私も昔はライブ配信者をやっていたことがあり、これはその時にあった話です。
私の配信は視聴者数もそこまで多くはなく、だいたいの場合は常連が5、6人くらい、多い時でも10人くらいでした。それでも身内でワイワイやる配信というものは好き勝手自由にできたので楽しんでいました。
私が配信をしていた時はライブ配信サービスがはじまったばかりで、他の配信者もどうやったら面白くなるか試行錯誤していた頃でした。
そんな時、配信者たちの間で凸待ちというものがちらほら流行り始めました。私もなんとなく面白そうだな、くらいにしか思っていなかったのですが、視聴者の数名から「凸待ちしないんですか?」と聞かれ、需要があるならとやることにしました。
そして私は凸待ちをするにあたって自分の携帯電話の番号を配信で公開しました。今やったら問題になるかもしれませんが、どうせ数名の常連しか見ていない配信でしたし、動画を後から見るアーカイブもそこまで整備されていませんでしたので、そのためだけにインターネット通話サービスのIDをわざわざ取るのも面倒だと思ったのです。
凸待ちを開始すると常連の視聴者たち数名から電話が続けてかかってきました。常連のことは身内と言っても直接会ったことは一度もありませんでしたので、ちょっとしたオフ会みたいな気分で楽しかったです。
一通りの視聴者と話し、ちょうど夜も遅くなってきたので配信を切ろうとした時、私の携帯電話の着信音が鳴りました。相手は非通知。これまでかけてきた人も半分くらい非通知だったので、私は特に気にすることもなく電話に出ました。
私は配信を盛り上げるために「こんばんはー!」とバカでかい声で挨拶をしたのですが、電話先の人は無言のままでした。配信が無音になっては困るので相手に色々と話しかけたのですが全く反応はなく、私は電話を切ろうとしました。
私が無言になった時、ふと物凄く小さな音が電話から流れていることに気づきました
私は電話の音量を最大まで上げ、なんとか相手が何を喋っているかを聞こうとしました。
音声はノイズまみれで不明瞭でしたが、水滴が垂れるような音だったと思います。そしてさらに耳を音に集中させると少年の声で「助けて。ここから出して」と言っているように聞こえてきました。
その瞬間、私はこの電話が悪戯だと思いました。そしてそのまま電話を切り、配信の方も終了させました。
翌日の夜。学校から帰って来てテレビを点けると、近所の河原で少年の死体が見つかったというニュースが流れていました。その少年が箱に入って川に流されていたということを知り、ふと昨日の電話のことを思い出してしまいました。
もしかしたら川に流された少年が助けを求める声を何かの間違いで受信してしまったのではないか、と。
気になった私は、その日の配信で前日の凸待ちの最後に悪戯電話をかけてきた人がいただろうと冗談めかして言いました。しかし、視聴者たちは誰もかけていないと言い張り、結局はあの電話がなんだったのかわからずじまいでした。
今でも、あの時の電話は単なる偶然で視聴者の誰かが私に悪戯したのだと思っています。それ以外の可能性については考えたくありません。
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