第68話 噓つき
南門をくぐって、街の中心にある王宮へ向かう。街中には緑が多くて、通りの建物は木造の作り。行き交う人は獣人ばかりで、活気がある。人族?は、ほとんどいない。
なので、私とルシーはものすごく目立っている。みんなルシーを見ているんだけどね。
「ルシー、獣人ばかりですね。私達、目立っていますよ……」
「そうだな、獣王国だからな」
振り返ると付いてくる女の獣人もいる。立ち止まったら、女の獣人に取り囲まれそうよ……ルシーにこそ! フードが必要だと思うよ! 言えないけど……
こんな所で騒ぎを起こしたらダメよね。ルシーに結界魔法を張り、足を止めずに中央にある王宮を目指す。
王宮前の警備の詰所まで来ると、立っている警備兵に声を掛ける。
「あの~、王女カミラ様に王宮に来るように言われたのですが、取り次いで貰えないでしょうか?」
「ん? その男を連れて来いと言われたのか。少し待て」
ん? ルシーを貢物だと勘違いしている?
「いえ、違います。既にパーティーメンバーがこちらに連れて来られていまして、カミラ様に王宮まで引き取りに来いと言われたのです」
「ん? 既に、王宮に囲われている者を引き取りに来たのか? 分かった。カミラ様のお付きの者に問い合わせてみる。しばし待て」
「ありがとうございます」
囲われている者って言い方……他にもいるの? ジークだけじゃないの?
警備兵さんは、詰所に声を掛けて、王宮へと入って行った。
しばらく待って、警備兵さんが一人で戻って来た。
「今、カミラ様の側付きの者に確認して来たが、お前が言っている者は、帰りたくないそうだ。帰ってくれとのことだった」
なんですって! 地下牢に閉じ込めているくせに……嘘つき!
「それは嘘です。約束が違います! 王女は、私がここに来れば帰してくれるって、言ったんです!」
怒りが込み上げて来た……ジークを攫った挙句に嘘までつく……バカにして……
「そう言われてもなあ、諦めて帰るんだな」
ジークを諦めて帰れと……? 諦める訳ないじゃない! 王女だから何でも許されると思わないで!
「ミーチェ、ジークを迎えに行くのだろ?」
ルシーが、優しく促すように声を掛けてくる。
「はい、ルシー。このままジークを迎えに行っていいですか?」
ルシーが、付き添ってくれると分かっているけど、敢えて聞く。自分の気持ちを確認する為に……
「ミーチェ、私が番の所まで付き添ってやると言っただろ」
私は、あの王女を許さない!迷い人だって、バレてもかまわない。覚悟を決める。
「ルシー、ありがとう。このまま押し通ります。そして、ジークを助け出します。ルシー、手伝ってくださいね」
「ああ、頼るがいい。ミーチェの番を取り戻すぞ」
ルシーと私、そしてシーダンにも強化魔法を掛ける。
「シーダン、ここでしばらく待っていてね。誰かに酷いことをされそうになったら、蹴ってもいいし、逃げてもいいからね」
「ブルルルッ、ヒヒーーン!」
シーダンを撫でながら、リボンに魔力を込める。
警備兵が、私達の会話を聞いて慌てている。
「ええっ!? おい! お前達、ちょっと待て! ここから先には通さないぞ! 一歩でも敷地に入れば、捕まえるぞ!」
警備兵さんが、何か言っているけど聞こえない。ノアールに伝言しよう。
「ノアール聞いて! 今から、ジークを迎えに行くって伝えて! ノアール! ジークを守ってね」
ルシーが、前を歩きだし楽しそうに微笑んで聞く。
「ミーチェ、行くぞ。どっちだ?」
「はい。まず、王宮の中に入って左側奥です。ルシー、私が先導します。」
感知魔法を確認しながら進む。王宮の敷地に入ると、詰所から警備兵が数人飛び出してきた。
「待て! 侵入者だー!!」
「「捕まえろー!!」」
警備兵は、私達を捕まえようと剣を抜いて取り囲んだ。
「警備兵さん、ケガをしますよ……邪魔しないで下さい。悪いのは誘拐した王女ですから」
しかたない、警備兵が近寄らないように、雷撃魔法を周りに放とう。警備兵に当たらないように抑え気味にして……
ビリビリビリ! ドッカーン!!……ピクッピクッピクッ
「「「うわぁー!」」」
警備兵が、みんな倒れた。
あれ?そうか、雷だから金属に……剣に落ちたのね……獣人だから大丈夫よね?そこで寝ていて。
ルシーと歩きながら、周りに雷撃魔法を放つ。
ビリビリ! ドッカーン!!
誰も近寄らないで……
「ここは王宮だぞ! 何者だー!」
「「「捕まえろー!」」」
城に入ると、近衛兵達がバタバタと四方から走って来た。
「奴らはうるさいな。ミーチェ、静かにさせるぞ。クックッ」
ルシーは、楽しそうに風魔法で走って来る近衛兵を、片っぱしから薙ぎ払っている。その威力は凄くて、誰も起き上がって来ない……ルシー、死んでないよね?
ジークの元へと歩きながら、私は定期的に雷撃魔法を周りに放つ。足跡を付けるように……誰も近寄らないで!
ビリビリ! ドッカーン!!
ジークの居場所を確認しながら、階段を下りて行く。
「ルシー、この階段を下りた先にジークがいます」
階段を下りた辺りにも警備兵がいたので、軽く雷撃魔法を放つ。
ビリビリ! ドッーン!!
もうすぐジークに会える。やっと、会える……
◆ ◆ ◆
『ニャニャ~ン(ジーク、ミーチェが今から迎えに行くって言っているよ~)』
「えっ! 今からって……ミーチェは、どうやって来るのかな?」
ドッカーン! グラグラ……
爆発するような音と、地響きがする。アレかな……
『ニャ~ン(ミーチェ、怒ってる~)』
ドッカーン!! グラグラグラ……
「あれは、ミーチェの雷撃魔法だね……怒っているね……」
ミーチェの魔法は、ランクA以上に威力がある。けれどミーチェは、自分の強さを自覚していないからね…。
ドッカーン!!! グラグラグラグラ……
『ニャオ~ン!(ミーチェ、すご~く怒っているね~!)』
「ああ……ミーチェは、何を言われたんだろう……」
音が段々近づいてくる……
『ニャ? ニャ~ン(ん~?何だか楽しそうだね~)』
ノアール……アレが楽しい音に聞こえるのかい?
「ノアールまで行ったら、過剰戦力だよ。ここで、僕と一緒にミーチェを待っていよう」
ノアールが行かないように膝の上に乗せ、撫でながらミーチェが来るのを待つ。
『ニャ~ン!(もうすぐだよ~!)』
あぁ、ミーチェの顔を早く見たい……
檻の向こうを眺めて、ミーチェが来るのを待ち焦がれる……
「ミーチェに会えると思うと、ドキドキするよ……」
『ニャ~?(ドキドキするの?)』
ノアールを撫でながら答える。
「そうだよ、とても会いたかったからね」
階段を下りて来る足音が聞こえる……
ビリビリ! ドッーン!!
『ニャ~!(来たよ~!)』
雷撃魔法の光の後、会いたかった姿が見えた。
漆黒の黒髪がキラキラと輝いていて、パッチリとした大きな黒い瞳がとても愛らしく、可愛くて愛しい顔……あぁ、僕のミーチェだ……なんて可愛いんだろう。
ミーチェ? フードを被っていない……可愛い顔を見せたらダメじゃないか。
「ミーチェ!」
僕の愛しいミーチェ……
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