第69話 泣いている場合じゃない

「ミーチェ!」


 ジークの声が聞こえる! 声のする方を見ると、檻の中にジークが見えた!


「ジーク!!」 


 走り寄って、檻越しに腕を絡ませる。やっと会えた、やっとジークに会えた……嬉しくて、嬉しくて……涙が込み上げて来る。涙が溢れてしまう……あぁ、ジークの顔が良く見えないじゃない……


「ミーチェ、泣かないで……」


 ジークはそう言うけど、無理!抑えられません……ぐすっ、ジークに『キュア』と『ヒール』を掛ける。何度も掛ける……


「ジーク! やっと会えた……うぅっ」


 ジークは、愛おしそうに見つめて、


「あぁ、ミーチェ。迎えに来てくれてありがとう」

「うぅ、ジーク……ぐすっ」


 そんなの当たり前じゃない。うぅぅ……


「ミーチェ、ジーク、その檻を壊すから少し離れろ」


 ルシーに言われるがまま檻から離れると、ルシーは一瞬で檻を丸くバラバラに切り取った。


 シュッ! ガラガラ……ガラン……ガラン……


「ルシー、ありがとう。ぐすっ」

「他愛もないことだ」


 ジークが、檻から出て強く抱きしめてくれた。うぅ。


「ミーチェ、会いたかった……」

「うぅぅ、ジーク。私も会いたかった……ぐすっ」


 ジークは優しくキスをして、私の涙を拭ってくれる……


『ニャ~ン!(2人とも良かったね~!)』

「ノアールありがとう。ぐすっ」


 ルシーが、私達の様子を見て声をかける。


「さて、めでたく再会したが、王女を懲らしめなくていいのか? 番を引き裂くとは、万死に値する。どうするのだ?」


 ハッ! そうだ、誘拐犯の王女を問い詰めてやる! ぐすっ。


「ルシー、そうでした。誘拐犯の王女に謝ってもらわないと……ケジメがつきません。ぐすっ」


 泣いている場合じゃない。ちゃんと終わらせないと……


「ミーチェ待って、ちゃんとフードを被らないとね。それと、大事な剣とアイテムバックを回収したいんだ」


 ジークが私の頭にフードを被せる。


「……うん、荷物ね」


 そっか、荷物は取り上げられているのね。


『ニャ~オ(こっちだよ~)』


 ノアールに案内され、ジークの荷物を取りに行った。そこは、誰かの部屋らしく、部屋の片隅に無造作にジークの荷物が置いてあった。


「僕の荷物を返してもらうよ。虎さん」


 ジークの荷物を回収して、王女がいる部屋へ向かった。1度会ったことがある人は感知魔法でマーキング出来るので、迷わずに進める。感知出来る範囲も広くなったしね。


「ミーチェの魔法は、便利だな。特定の人物の場所が分かるのか」


 ルシーが感心して言う。


「鑑定さんのお陰かな?ダンジョンコアかも知れないけど……」


 ルシーは、私とダンジョンコアが共存していることを知らないから、簡単に説明しておく。


「ほお~。それは珍しいな」

「ほんとに便利だよ。ミーチェのミサンガのお陰で、薬の入った物を食べずに済んだしね」


 ええっ! ミサンガにそんな仕様があったの? 鑑定さんの仕業? それともコア? ジークが、助かったようだから良かったけど……むしろ、褒めるべきよね? ……ん? 薬の入った食事?


「えっ!? なんですって! ジークに毒を盛ろうとしたの? あの王女、何てことを!」

「毒だけじゃなくて、媚薬もかなぁ。あぁ、そうだ。ミーチェ、ミサンガが1本、いつの間にか無くなっていたんだ。ごめんね」


 び、媚薬って……惚れ薬? それとも興奮剤? ムカー!


「ほお~。見下げた王族だな」


 あの誘拐犯!どうしてくれよう……殺すのはイヤ、他に何かペナルティーを与えたい……私に何が出来る?


「ジーク、ミサンガは港で落ちていたわ……代わりのミサンガを付けるね」


 バッグから新しいミサンガを出して、ジークの手首につける。


『ニャ~ン!(ミーチェ、すごく怒っているね~)』

「ミーチェ、また魔力が溢れているぞ」


 ルシー、沸々と怒りが沸き上がって来るのです。


「うぅ、ルシー。あの王女を殺さないで、何か罰を与えたくて……考えているんです」

「ほお~。ミーチェ、どんな罰を考えているのだ?」


 ルシーは面白そうに聞く。


「そうですね~、まず謝ってもらいます。そして、ジークが監禁されていた日数を地下牢に入ってもらいます。食事も毒と媚薬入りだけしか通さない牢を作って、ジークが受けた痛みを味わってもらいます」


 目には目を……と、言うヤツです。特殊な結界を付けた牢屋を作ろう、鑑定さんと寝ているコアに手伝って貰おう。コアは、今ジークに力を与えていないから魔力が余っているだろうしね。


「ほお~。同じ目に合わせるのだな」

「ミーチェ、あの王女は謝るかな? そんな素直な性格じゃないよ」


 ジークは怒っていないのかな?冷静に見えるけど……


「取りあえず、会って話をするわ」




 王女のいる場所へ向かう大廊下で、近衛兵とローブを着た魔術師らしき獣人達が、前を塞いだ。


 近衛兵の先頭に、偉そうな金ぴか装備の獣人がいる。私達をじっと見据えて大声で叫ぶ。


「私は、獣王国第一王子ルーカスだ! お前たちは何者だ!」


 ん~、面倒そうなのが出て来た。王子だって……人顔の虎の獣人。あの王女の兄弟なのね……


「誘拐犯のカミラ王女に酷い目に合った者です! 嘘つき王女に謝ってもらうの。あなたは関係ない! そこをどいてください、怪我をしますよ」

「何? 誘拐犯? ああ、又、カミラが攫って来たのか……しかし、ここは王宮だ。このような所業は許されないぞ!」


 又、とか言っている……。あの王女、何人も誘拐しているの?信じられない!ここが何処だろうと関係ない。私は、覚悟を決めたの。


 頭を傾げて聞いてみる。


「所業? 王女が誘拐するのは、許されるのですか? <東の王国>で攫われたのですよ?」

「なんと! <東の王国>でか……」


 ルーカス王子は驚いている。


「ここまで来たら解放してくれると言いながら、地下牢に入れて毒を盛る。挙句の果てには、帰りたくないと言っているなどと、嘘をつく有様……王女の所業は許されるのですか?」

「カミラが、そのようなことを……?」


 あぁ~、また怒りが込み上げて来た……我慢の限界が……来そう。


「そこをどいてください。邪魔をするなら、敵対行為と見なして排除します」 


 通してくれないだろうね。魔力を込め始めよう……


「ここを通すことは出来ない! 何があったのかは、後で聞いてやろう。だから、おとなしく捕まれ!」


 鑑定さん! 私の中でニートしているダンジョンコア! 力を貸して! 死なせない加減で魔法を放つからね!


【了解】


【……】


「邪魔をするんですね。残念です」


 4人に強化魔法と結界を張り、魔力を込めて雷撃魔法を大廊下全体に放つ。


 ビリビリビリ! ドッッカーーーーン!! ……ピクッピクッピクッピクッ


「ワハハハ! ミーチェ! 豪快だなあ。私も手伝ってやる!」

『ニャ~ン!(ミーチェを怒らせたら怖いよ~!)』


 ええっ!! ほとんど倒れた? 思っていた以上に威力が強かった……これは、鑑定さんとコアの力が凄いのね……


「ミーチェ……、凄く怒っているんだね……」


 ジークが、労わるように言う。


「大丈夫よ、ジーク。手加減したから誰も死んでいないはず……」


 倒れずに攻撃しようとする獣人を、ルシーが薙ぎ倒す。ノアールも楽しそうに攻撃している。もしかしたら、2人がとどめを刺しているかも知れないけど……


 反撃する者がいなくなり、王女の所に向かおうとすると、


「ま、待ってくれ……頼む! カミラを、妹を殺さないでくれ……」


 第一王子が、息も絶え絶えに訴えて来る。


「王子、勘違いしないで下さい。誘拐犯に、謝ってもらって罪を償ってもらうのです。敵対行為をしてきたら、ここみたいになりますけど……見届けます?口を挟まないと、約束するなら付いて来てもいいですよ」

「ああ、約束する。つ、ついて行く……うっ」 


 そう言って、必死に立ち上がろうとする。そのまま、寝ていれば良いのに……しかたないなぁ~。『ヒール』を掛ける。


 王子は、驚いて私を見る。


「助かる……」

「王子、邪魔はしないで下さいね」


 王子を睨んで、釘をさしておく。


「ああ、分かった……」

「はぁ~。ミーチェは優しいね。王子は、僕が見ているよ」


 ジークは、私ににっこりと微笑んでから、冷たく王子を見る。


『ニャ~!(僕も見る~!)』

「私は、襲ってくる輩を排除しよう。フフフ」

「みんな、ありがとう」


 4人と王子で、誘拐犯の所に向かう。



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