第67話 獣王都

 <港街イースルー>からジークを追いかけて10日目、開けた場所に<獣王都>が見える。やっと着いた……もうすぐ、ジークに会える! 込み上げて来る感情を抑えて、門に向かう。


「ルシー、途中の街と同じで、王都の門でも身分証のチェックがあります」

「ふむ。では、私はミーチェの影に入るとしよう」


 そう言って、ルシーは途中の街と同じように私の影の中に消えた。凄いね、ルシーは何でも出来るのね……。


 南門前に着くと、シーダンから降りて<獣王都>に入る為に並ぶ。門の警備兵は、熊の獣人でした。いかつくて、かなり獣寄りの顔立ちで可愛くない……某、熊のキャラクターとは程遠い……。


 獣人は、人の顔に耳が付いている獣人と、獣顔の獣人がいるそうです。持っている魔力の量で風貌が変わるらしく、魔力が多いと人間顔、少ないと獣顔だと、以前ジークに教えてもらいました。


「次、前に来い!」


 シーダンを連れて熊顔の警備兵さんの所に行く。そう、この熊さんは武闘派(脳筋)顔ってことです。


「ん? 一人か? 何をしに<獣王都>に来た?」

「はい。知り合いを探しに……ここに来ました」


 本当のことは言えない。


「身分証は持っているか?」

「はい、冒険者カードを持っています」


 そう言って、ギルドカードを見せる。


「<東の王国>のランクDか、小さいのに良くここまで来たな。よし、通っていいぞ。街中では、貴族以外の乗馬は許されていないからな。気を付けろ」


 小さいって、冒険者カードの年齢は隠しているのに……そう言って、いかつい熊の警備兵さんは、ニッカと笑った。うっ? 笑うと、まさかの可愛い? 別人みたい……これがギャップ萌え……?


「はい、分かりました。ありがとうございます」


 頭を下げて、そそくさと門をくぐった。




 ルシーが、影から出て来て尋ねる。


「ミーチェ、これからどうするのだ?」

「早速、王宮に行ってみようと思います。どうせ、すぐには取り次いでもらえないでしょうから……」


 ルシーが優しく微笑んでくれる。


「分かった」


 ジークはすでに王宮にいるが、王女の相手をしないからと牢屋に入れられているらしい……食事も碌に与えられておらず、ノアールに毎日お弁当を届けてもらっている。


 ジークを取り返したら、あの誘拐犯の王女……どうしてくれよう……。





 ◆    ◆    ◆




 馬車が止まった、<獣王都>に着いたようだ。


 両手を結んでいる紐などすぐにでも切れるんだが、荷物を取り上げられているから身動きが取れない。ノアールに荷物の場所を見て来てもらったが、虎獣人の所にあるようだ。


 ノアールと2人で逃げ出せそうだが、ミーチェが来るまで待つことにした。追手が掛かるなら、ミーチェと合流してからの方が良いと思ったからだ。


『ニャ~ン!(誰か来たよ~!)』


 ノアールが、僕の影に入る。すると、馬車の扉が開き、狼の護衛が顔を見せる。


「出ろ。カミラ様がお呼びだ」


 両手の拘束が解かれ馬車から降りると、そびえ立つ城の前だった。ここは王宮……?


「付いて来い」


 王宮前で待っていた虎の護衛に、王女の私室へと連れて行かれた。きらびやかな部屋には、気だるそうにソファーに踏ん反り返った王女がいた。


「お前、気持ちは変わったのかしら? フフフ。余り食事を取ってなかったらしいけど、私の相手をしたくなったでしょう? クスッ」


 王女は、面白そうに言う。


「気持ちは変わらない。断る」


 即答した僕の言葉に、王女は苛立ちヒステリックに言い放つ。


「何ですって! 私の言うことを聞かないなんて、生意気な! ジャック! こいつを、地下牢に入れておきなさい!」

「カミラ様、他国の者です。ここから追い出した方が宜しいかと……」


 虎の護衛が助言するが、王女は聞き入れない。


「お黙りなさい! ジャック! 私に2度も、恥をかかせたのよ! 許さないわ! こいつを連れて行きなさい!」


 ジャックと呼ばれた虎の護衛は、渋々、僕を地下牢へと連れて行く。


「お前は頑なに断るが、このままだともっと酷い目に合うかもしれんぞ? 1度相手をすれば、牢に入ることもないだろうに……」


 この虎の護衛、僕を気遣ってくれているのか? それよりも、あの王女を何とかしろよ。


「僕には、永遠の愛を誓った番がいる」

「あの時にいた少女か?」


 ミーチェ、僕を追いかけて来てくれている……今、君は何をしているんだろう……


「ああ。彼女しか触れたくない。王女であろうと、他の女なんて御免だ。僕がいないから、きっと寂しがっているよ……いや、彼女は怒っているかな……彼女を怒らすと怖いんだ。怒っても可愛いけどね。クスクス」

「お前、こんな状況で惚気るのか……呆れた奴だ、それとも肝が据わっているのか?」


 虎の護衛ジャックは、呆れたように言う。


「王女は、彼女に王宮まで来いと言ったそうだね。彼女が来るまでに解放して欲しかったけど、無理そうだね」

「もし、あの少女が来たとしても解放されないだろう……」

「そうだろうね」


 それを知ったら……ミーチェは、どうするだろう? ミーチェを守って、ルシーが暴れたら……


「そうだ、お前の荷物は、私が預かっているからな。解放される時に返そう。王女の相手をする気になったら、いつでも言え」

「それは無いよ。剣もバッグも僕の大事な物だから、よろしく頼むよ」


 ミーチェとノアールはともかく、ルシーが面白がって暴れたら……この国、大丈夫だろうか……古の迷い人が、抑えることしか出来なかったんだよ。


「無事に済めばいいけど……」


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