第66話 港街イースルー
<港街オース>を出港して7日目、クラーケンの襲撃を受けたものの、船に大したダメージもなかったので、予定通り<獣王国>の東にある<港街イースルー>に到着した。
<港町イースルー>は、南国の街らしく、どこか甘い果物の香りがして、青々とした木々に覆われている。そして、行き交う人は獣人ばかりです……人もいるけど視界に1~2人かな。
船を降りる頃には、感知魔法で広域捜査するとジークの居場所が分かるようになった。今は、獣王国の王都に向かっている途中のよう。
シーダンを迎えに行き、飼育係のジョンにお礼を言う。
「ジョン、シーダンの世話をありがとう」
「ああ。ミーチェ、仲間を取り返せたらいいな! そっちの連れも、顔が良いから攫われるぞ。ミーチェも気を付けろ!」
ルシーを攫える人なんているのだろうか? 確かに、みんなルシーを見ているけど……私に気を使ってくれて、ジョンは良い人だ。
「ジョン、ありがとう。気を付けるね」
船を降りる時、熊の乗組員さんが声を掛けてくれる。
「嬢ちゃん! 気をつけてな!」
「ありがとうございます」
手を振って答える。獣人にも良い人がいるんだなぁ……分かっているけど、まだ構えてしまう……
「ミーチェ、行くぞ」
「はい、ルシー」
ルシーは、あれから毎日来てくれる。有り難いです。
2人でシーダンに乗ってジークの後を追う。何度も、感知魔法で見るけど、ジークとのキョリは一向に縮まらない……
街道は木々が多くて、魔物も良く出て来る。ゴブリン程度なら、シーダンが蹴り飛ばしている。いつの間にそんな芸当が出来るようになったの?シーダンは、日に日に強くなっている気がする……
「ブルルルッ、ヒヒーーン!」
「シーダン疲れた? ここら辺で野営しようか。ルシー、ここで野営してもいいですか?」
「私は付き添いだからな、ミーチェの好きにするといい。夕食は食べるぞ」
<港街イースルー>を出て5日目、今日も野営の準備をする。
街で宿に泊まろうとすると、どこからともなく女獣人が湧いて来て、ルシーに絡んでくる……心身ともに肉食女子だよ?凄い光景よ……まぁ、ルシーほどの美形を見たら。肉食女子の? それとも獣人の? 血が騒ぐんでしょう。
『うるさい、近寄るな』
ルシーは、片手を少し上げて群がる肉食女子、もとい女獣人を魔法でなぎ倒す……
ルシーは女獣人に容赦がない。ちょっと可哀そうなので、私はルシーに近寄れないように結界を張る。なぎ倒されるよりは良いでしょ?
『ミーチェ、命は取ってないぞ』
『はい。ルシーは、悪くないです……』
こういうやり取りが繰り返されるので、街で泊まるのは止めて野営にしています。街では、必要な食材を買うだけ。ルシーも、入門チェックを受ける前に私の影に入ってしまい、街から出るまで出て来なくなった。
シーダンに『ヒール』を掛けて、野菜と干し草を出しておく。
「ルシー、食事の用意をするので、座って待っていて下さい」
夕食を手早く作って、バッグに入っている料理も出す。ジークやノアールにも食べさせて上げたい……ん? ここは海じゃないよね……
「あの、ルシー? 陸に上がったから、ノアールを呼ぶことが出来ますか?」
「ああ、出来るはずだ。やってみると良い」
早く、気が付けば良かった……言ってよ、ルシー……
「ノアール! ジークに危険が無いなら顔を見せに来て~!」
すると、すぐにノアールが現れた!
『ニャ~ン!(ミーチェが呼んだ~。主もいる~!)』
「ノアール! おいで~!」
ノアールを抱っこして、頬ずりする。うぅ、久しぶりのノアールだぁ。
「ノアール、ありがとうね。ジークの様子はどう? 傷つけられていない?」
『ニャ~、ニャオ~ン! ゴロゴロ……(大丈夫~。ジークは、ミーチェに会いたいって~! 僕も会いたかった~! ゴロゴロ……)』
「うん、私も会いたかったよ~、よしよし。ジークにも会いたい……」
ノアールをいっぱい撫でる。なんだか、ジークに少し近付いた気がする。
3人で食事をしながらノアールの話を聞いた。
『ニャ~ン!(ジークは2日間も寝ていたんだよ~!)』
「えっ! 薬の効き目って、そんなに長いの?」
ミサンガは、効かなかったの? 睡眠は弱体扱いじゃないのかな? 魔法じゃないから? 1本切れて落ちていたけど……
『ニャニャ~ン(ジークは、女の獣人に私の相手をしなさいって、言われていたよ~)』
「なっ! なんですって……」
「ミーチェ。あの番は、お前しか見えていないではないか。気にする必要はないぞ」
ルシー、そんなことを言っても、薬を使って
『ニャ~ン!(ジークは断るって、言ったよ~!)』
2人は、私の気持ちをよそに料理を堪能しています……
「ミーチェの作る料理は美味いな。ノアール、お前いつもこんな美味いのを食べているのか……」
『ミャ~オ!(主~、ミーチェの作る料理は美味しいよ~!)』
私は、ジークと獣王女が気になって食べられない。そうだ! ノアールにお弁当を持って行ってもらおう。ジークの好きな、たまごサンドと唐揚げを籠に詰める。
「ノアール、このお弁当をジークに持って言って欲しいの」
『ニャ~ン(良いよ~)』
「ジークに伝えて。必ず、迎えに行くからって。ノアール、ジークを守ってね」
『ニャ~ン!(分かった~!)』
ノアールは、お弁当の籠を咥えて消えた。
「ミーチェ、旨かったぞ。明日の朝来るからな。結界を張っておくから安心して寝るがいい」
ルシーは、夜になると帰って行き、朝に来てくれる。
「分かりました。ルシー、ありがとうございます」
ルシーは、優しく微笑んで闇に消えた。今のルシーは、優しくて穏やかな魔人。ルシーとノアールがいて良かった……
2人が帰ると、シーダンにブラッシングをする。そして、リボンに魔力を込める。
「ブルルルッ!」
「シーダン、おやすみ」
ベッドに入ると、色々と考えてしまい眠れない……そうだ、バッグを大きくしよう。クラーケンを、丸々一匹入れても余裕があるようにね。眠たくなるまで頑張ろう……
明日もノアールを呼んで、ジークにお弁当を持って行ってもらおう。
ジークに会いたい……
◆ ◆ ◆
ノアールが急に消えた後、宿の部屋に狼の護衛が入って来た。
「ん? 食事をほとんど残しているな」
「変な薬が、入っていそうだからな」
食事をしようとすると、ミーチェのミサンガが反応する。きっと、毒か媚薬が入っているんだろう。だから、反応しない物だけを食べる。フフ、ミーチェに守られているよね。
それで気が付いたけど、ミサンガが1本しかない。どこで切れたんだろう……ミーチェに謝らないと……
「美しいカミラ様と良い思いが出来るのに、バカなヤツだ。カミラ様に報告しないと」
ブツブツ言って、僕の両手を前に縛って狼の護衛が部屋を出て行く。船から降りると、逃げないように両手を縛られた。食事の時だけ自由にされる。
ミーチェ以外の女になんて、触れる気にもならない。バカなのはお前だ。
しばらくすると、ノアールが籠を咥えて帰ってきた。
『ニャニャ~ン(ジーク、帰ってきたよ~、おみやげだよ~)』
「おかえりノアール。お土産?」
『ニャ! ニャ~ン(うん! ミーチェからのお弁当だよ~)』
ノアールから、お弁当の籠を渡された。
「なんだって! ノアール、ミーチェに会いに行ったのか! ミーチェは無事だったかい?」
『ミャ~、ニャ~ン!(主が守っていたよ~。ジークを追って来ているよ~!)』
「そうか、ルシーが守っているのか……」
ミーチェのお弁当は、僕の好きなたまごサンドと唐揚げ。美味しい……
ミーチェが僕を追いかけて来てくれている。嬉しいよ……
早く、ミーチェに会いたい……
愛しいミーチェ。
◇ ◇ ◇
狼の護衛が王女に報告をする。
「カミラ様。あの男、食事をほとんど食べません」
「なんですって!?」
「しかも、薬を入れた皿は、一口も手を付けていないようです」
虎の護衛が、面白そうに口を挟む。
「ほお~。勘が良いのか? それとも、分かるのか?」
王女はイライラと、狼の護衛にヒステリックに言い放つ。
「小賢しいヤツね! 次からは、全ての料理に薬を入れなさい!」
「はっ! かしこまりました」
狼の護衛が部屋を出ると、王女は虎の護衛に言う。
「しかたないわね~。今日もお前が相手をしなさい」
虎の護衛は即座に答える。
「カミラ様、光栄です」
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