第53話 プチン……

 ジークと私のイチャつきに、セバスさんは無表情です。シャーロットさんは顔を引きつらせていました。


「ジークハルト様、そちらのお嬢様を連れられて、ハミルトン家にお戻りになられてはいかがですか?」


 セバスさんは、淡々と話す。


「セバス。何故、母の命を奪い、僕の命を狙った家に戻らなくてはいけないんだい?」


 ジークは、セバスさんに冷たく言い詰める。


 えっ! それって、ジークのお母さんは公爵家の誰かに毒を盛られたの? 最悪だぁ……


「ジークハルト様、オスカー様が戻るようにと……」

「セバスが、ジークハルトは死んだと報告すれば良い話だろ?」


 確かに、それで丸く収まるね。又、シャーロットさんが我慢出来ずに口を挟んで来た。


「ジークハルト様! 酷いですわ! 私はずっとお慕いしておりましたのに……」


 ええ――! そんなことを言えちゃうんだ! 婚約を二転三転しているのに……ジークとの婚約解消後、一度も会ってないのに……こっちの世界の女性は逞しいね。欲しい物に一直線だ、良く言えば素直ね……


「何を言っている? シャーロット嬢、誰かと間違っていないかい?」


 ジークの辛辣なお言葉です……でも安心する。


「そんな……ジークハルト様! 私と帝国に戻ってください! そして、婚約を……」


 うん? シャーロットさん結婚を焦っている? 確か、ジークの3つ年下だから~、まだ18か19歳なのに。やっぱりバツイチ状態?


「シャーロット嬢、グレイソンと結婚していたのだろう? ハッキリと言っておく、僕は貴方と婚約するつもりはない。私は、既に大切な人を見つけたからね」


 ジークは私の髪を一房取って、キスをする。そして、私を抱き上げて膝の上に座らせる。


 ええ――! この場でそんなことをするの? ぐっ、恥ずかし過ぎる……これは、2人だけじゃなくて私にもダメージがあるんだけど……


「ジークハルト様! そんな小娘に騙されて!」


 騙す……? ムッカ! プチンと何かが切れる音がした……気がする……


「小娘ではありません……ジークと私、相思相愛なの! 横槍を入れないでください。邪魔をしないで!」


 私はシャーロットさんを睨んでいた。あっ、しまった……マズイとジークを見ると……


「フフフ。ミーチェ、とても嬉しいよ」


 ジークが、瞳を輝かせて私を見つめる。そして、また私の髪にゆっくりと……キスを落とす。


「な、な、生意気な! 礼儀をわきまえなさい!」


 シャーロットさんがキレてるけど、悪いのは貴方よ。幼い頃からの恋心じゃなくて、打算的なシャーロットさんにはジークを渡さない! ジークのお母さんも絶対にイヤがるはず!


「こんな所まで追いかけてきて、冒険者相手に礼儀を求める方がおかしいですよ!」


 また言ってしまった……もっと素敵な人だったら……違う、私はジークと生きると決めたのよ……


「プッククッ。僕のミーチェは、なんて可愛いんだろう! ククッ、シャーロット嬢、僕達のことに口を挟まないでくれるかな。迷惑だよ」


 ジークは、片手で顔を隠して笑いをこらえている。笑いすぎですよ……


「そんな……ジークハルト様……」


 シャーロットさんは、ジークをすがるように見つめている。そして、時々私を睨みつけて来る。


「ジークハルト様、どうしても、戻っては頂けませんか?」


 セバスさんが、窺うように聞く。


「セバス、僕を公爵家の者だと思っているなら、兄上に僕は死んだと報告してくれ。そして、シャーロット嬢を連れて帰ってくれ。それともセバス……僕を殺す様に兄上から言われているのかい?」


 な、なんですって! セバスさんは暗殺もするの? もしかして、他にも暗殺者が来ている? 慌てて、強化魔法と感知魔法を掛けた。それにジークが気付き微笑む。あぁ、私もジークが大切よ。誰にも傷つかせない……


「まさか! オスカー様は、ただ戻って来るようにと、おっしゃっています!」


 セバスさんは、ジークの言葉を必死に否定している。


「セバス、兄上に伝えてよ。北の帝国には、二度と足を踏み入れるつもりはないから、安心してくださいと。それと、もうジークハルトとは呼ばないでくれるかな。今は、ジークだよ」


 ジークは、自分の気持ちを淡々とセバスさんに伝える。


「ジーク……様……考えは変わらないのですね?」

「ああ、変わらない。僕にはとても大切な、守りたい人が出来たからね」


 あぁ、ジーク凄く嬉しい……ジークが優しく微笑み、見つめ合う……が、恥ずかしくて俯いてしまう。うぐっ、私の負けです……


「セバス、お前の話は聞いたよ。これで終わりだ。もう、僕達の前に顔を出さないでくれ」


 ジークは私を連れて部屋を出ようとした。


「畏まりました。ジーク様、公爵家でお待ち申し上げております……」


 セバスさんは、執事らしく頭を下げてジークを見送る。所が、シャーロットさんは、身体を寄せて、胸にジークの腕を抱きしめるように絡みつく……


「ジークハルト様、行かないでください!」


 うわぁ~~、隣にいる私の存在は無視なのね……貴族のご令嬢にしては、はしたない……


「シャーロット嬢、貴方との縁は13歳の時に切れたのですよ。もう会うこともないでしょう。さようなら」


 ジークは、冷たく言い放つ。周りから見たら冷たいとか、もう少し言いようがあるんじゃないのとか、言われそうだけど、私の立場から見ると、とても誠意を感じるし、嬉しい……


「そんな……ジークハルト様!」


 シャーロットさんは、ウルウルと瞳を滲ませてジークを見つめる。


「離してくれるかな。貴方に僕を止める権利はないよ。ミーチェ、待たせたね、行くよ」


 ジークは、シャーロットさんを振りほどくと、私に優しく微笑む。そして、私の腰を抱き寄せて部屋を後にした。


 ジーク、凄くカッコイイ……惚れる……




 店を出て、ジークと仲良く腕を組んで歩く。一仕事終わったような気分です。


「ねぇ、ミーチェお腹空いたね。屋台で何か食べようか?」


 私は、少し甘えた声を出して言う。


「うん! ジーク、私はエビが食べたいなぁ~」


 ジークが、優しく微笑んで言う。


「ミーチェ……くだらない話に付き合ってくれて、ありがとう」

「ん? ジーク、くだらなくないよ。ジークの過去を知っている人との話だしね。ちゃんと話をして良かったと思うよ。追いかけられても困るしね~。ふふ」


 ジークは、ちゃんと断ってくれたから嬉しいの。ふふふ。


「もう、追いかけて来ないだろうから、ランクBになっても問題ないかな。フフ」

「えぇ~! 遂にジークは、上級冒険者になるのね!」






   ◆   ◆   ◆



(ジークの視点)



 ミーチェが、珍しく怒った……


『小娘ではありません。ジークと私、相思相愛なの! 横槍を入れないでください。邪魔をしないで!』


 嬉しいな~。僕達、相思相愛なんだね。フフ、僕はなんて幸せ者だろう。ミーチェ、君のこの髪に永遠の愛を誓うよ。


『こんな所まで追いかけてきて、冒険者相手に礼儀とか求める方がおかしいですよ』


 アハハ! ミーチェの言う通りだよ! ミーチェが、ハッキリと誰かに意見するなんて初めてじゃないかな? 僕の為に……可愛いなぁ。


 あぁ、その『言ってしまった……』みたいな顔しないで、可愛すぎるよ。笑いをこらえるのが大変だから……プッククッ。


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