第52話 お家騒動
その後、教えて貰った話では、シャーロットさんは3歳年下の侯爵家の元婚約者、セバスさんは公爵家の統括執事だそうです。やっぱり、執事さんでした。元婚約者のシャーロットさんは、ちょっと気になります……
「ねぇ、ジーク。シャーロットさんとは、一緒に遊んだりして、仲良くしてなかったの?」
「所謂、彼女は政略結婚の相手だしね。母が亡くなるまでは、会うこともあったけど、婚約解消後は1度も会っていないよ。もしかしてミーチェ……やきもちを妬いているの? フフ、嬉しいなぁ」
「うっ、ジーク……」
ジークの過去は知らないからね、色々あったと思うよ……それだけのイケメンなら、何も無い方がおかしいです。
ジークは、何とも思っていないように見えるけど、シャーロットさんは、思いが残っているからジークを探していたのよねぇ。でも、それなら婚約解消した後、ジークが国を出るまでに会えばいいのに……内気そうには見えない彼女が、なぜ今頃?
「セバスさんの話を聞かなくてもいいの? 何処までも付いて来そうよ?」
「ミーチェ、聞きたくないんだよ。どうせ碌な話じゃないだろうしね。見つからないように、冒険者のランクも上げなかったのにね。こんな所で会うとは……」
なるほど~、ランクBに上がりたくなかったのは、そういう理由だったのね。
「ミーチェ……今まで話さなくてごめんね」
ジークが申し訳なさそうに言う。
「いいのよ。ジークの立場だったら、私も話してないと思うから謝らないで。話してくれてありがとう」
ジークとイチャイチャしていたら、ノアールが来た。
『ニャ~!(ミーチェ、お腹が空いたよ~!)』
ノアールが、可愛く鳴いて部屋に入って来た。
「ノアール、今日は来ないのかと思ったよ~」
「何があっても、ミーチェのご飯は食べに来るだろう?」
『ニャ~ン(ジークの言う通りだよ~)』
ふふ。可愛いなぁもう~。バッグから手料理を出して3人で夕食にしました。ノアールは、明日の夜も食べに来ると言って帰って行った。
翌朝、淡いオレンジのワンピースを着るが、ジークにフードを被らされる……厩舎のシーダンの様子を見てから、ジークと港を見に行った。
港は街の東側にあり、朝から凄い活気で賑わっている。港には、大きな木造船が並んでいて風情がある。そして、獣人さんが目に付く……<森のブラージ>に比べて獣人さんの割合が多いです。しかも、みんな強そうですよ……
「そうだ、ミーチェ! この港街に来た記念に服を買うよ」
えっ? お土産代わりに服を買うの?
「ジーク、記念の服なの?」
洋服屋さんに入って、ジークがあれこれ見る。ジークって、女の私より良いセンスしているのよね~。そして、着せられたのは、水色からブルーにグラデーションになっていて、袖と胸元に白いレースをあしらったワンピース。
「うわぁ~。ジーク、これステキね!」
「うん。ミーチェ、とっても似合っているよ! 可愛いね。これにしよう。前に着ていた水色のワンピースが凄く可愛かったからね。あれはもう小さくて着られないでしょ? フフ」
ジークがニコニコして褒めてくれます。あぁ~、ジークの方が可愛いんだけど……
「ジーク、ありがとう!」
いつものように、着ていた服をバッグに入れる。そして、買った服を着てデートの続きです。ふふ。
高級店街を冷やかしていたら、感知魔法が知らせてくれる。昨日の2人が近付いて来た。2人は、行く手を阻むように立ちふさがり話しかけて来た。
「ジークハルト様。どうか、お話を聞いて頂きたいのです。でなければ、帰ることも出来ません」
「ジークハルト様。セバスの話を聞いてあげて!」
しつこそうだ……ジークを見ると、呆れた顔で2人を見ていた。
近くにある高級レストランで、個室を借りた。お店のオススメのランチを4つ注文し果汁水も頼む。料理が来てから、セバスさんはテーブルの中央に結界石を置き、私をチラッと見て話を始めた。
「まず簡単に、公爵家の今の状況をお話します。ジークハルト様が家を出られてから数年後、嫡男のオスカー様が当主となられました。そして、昨年、次男のグレイソン様が、当主オスカー様の命を狙い返り討ちにあいました……」
うわっ、まだお家騒動が続いていたのね。ジークを殺そうとした次男は死んだってことかな?
「そうか」
ジークは、いつも通り素っ気ないです。
「はい……そして、オスカー様が、ジークハルト様を探して戻って来るように伝えろと、私セバスが仰せつかりました。そして、戻られましたら、侯爵家のシャーロット様と再び婚約を結ぶことになります」
えっ! 婚約解消したのに再び? そんなのありなの?
「セバス。帰って兄上に伝えてくれ。今更、僕は戻ることは絶対に無いし、侯爵家とも婚約はしない。彼女はグレイソンの婚約者だったじゃないか。まだ、結婚していなかったのかい?」
ええ! 何それ…、ジーク→次男→ジーク? 公爵家と侯爵家は、どうしても縁を結びたいのかな? そのジークの言葉に、セバスさんは俯き、シャーロットさんが我慢できずに喋り出す。
セバスさん! そこ俯かずにちゃんと説明してよ~! シャーロットさんは、結婚していたの? バツイチなの?
「ジークハルト様! どうしてですの? 戻って来て私と結婚すれば、我が侯爵家が、後ろ盾になりますのに!!」
シャーロットさんは、凄い剣幕です……セバスさんは、ジークの問いには答えず、冷静にジークを説得する。
「ジークハルト様、オスカー様が待っておいでです。考え直して下さいませんか?」
ホント、ジークの言う通り碌でもない話だわ……
「公爵家のジークハルトは、13歳の時に終わったんだよ。兄には、そう伝えてくれ。今は、ランクCの冒険者で、ミーチェと2人パーティーを組んでいる。この幸せな時間を邪魔しないでくれないか」
そう言って、ジークは愛おしそうに私を見つめる。ブッ、飲みかけていた果汁水を吹き出しそうになる。幸せな時間って……ぐふっ、顔が赤くなって来た……
「ジ、ジーク……」
「フフ。ミーチェは可愛いね」
ううっ、人前で言わないで……恥ずかしい。
「失礼ですが、そちらのお嬢さんは?」
セバスさんが聞いてくる。そりゃあ気になるよね。シャーロットさん、睨まないでよ。名前を名乗られていないから、私からは話さないよ……
「僕の大切なパーティーメンバーのミーチェだよ」
ジークが耳元で、ミーチェは名乗らなくていいからねと囁き、頬にキスをした。うぐぐ~、ジークそれは2人に見せつけているの?
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