第45話 王都の調査団

 テッドさんに、ギルド長の部屋へ行けと言われ、ジークと2階のギルド長の部屋に行った。ノックをすると、声が聞こえた。


「入れ!」


 ドアを開けて中を見ると、ギルド長が、机で1人書類を書いていた。


「おお!お前らか、そこに座れ」


 入ってすぐの場所の、ソファーセットに座る。


「今まで、ダンジョンに籠ってたのか? おお! ミーチェ君、大きくなったな。元に戻ったのか?」

「はい、ミーチェの呪いを解く為に、籠ってました。ミーチェは、やっと元に戻りましたよ」


 ジークは、ギルド長に説明しながら私に微笑む。


「ジークのお陰で元に戻りました」


 ジークに、にっこり微笑む。本当に、ジークのお陰よ、ありがとう。


「そうか! それは、良かった。それでだ! ここに来てもらったのは、君たちに、頼みがある。王都から、調査団が来たんだ。面倒だが、又説明してほしいんだが……」

「その件は、数日前にクライブさんから聞いてます」


 そうね、楽しかった食事が、クライブさんのせいで一気にテンション下がったのよ。


「王都の調査団は、昨日来て、既に20階の魔法陣の部屋に入っているが、君たちの話を聞きたいそうだ。連絡を取るので、悪いが2~3日、街から出ないでくれるかな?」

「分かりました」

「どこの宿を使っている? 面会の日時が決まったら、連絡させる」


 ゆっくりするつもりだったから、いいけど。呼び出されるのね……


「今から、『森の箱庭』に行くつもりです」

「おお? いい宿に泊まってるな! 分かった、もういいぞ。ゆっくり休め」


 ギルド長の話はすぐに終わり、『森の箱庭』へ向かう。


 その日の夜、ギルドから連絡があった。明日の朝、ギルドの応接室に来るようにと……


「ジーク、王都の調査団って、偉い人も来るかな?」


 迷い人だって、バレないよね……魔人さんには、匂いで? 一発でバレたから不安です。


 ジークは私の様子を見て、優しく微笑んで言う。


「そうだね、責任者は確実に貴族だね。ねぇ、ミーチェ。心配しなくてもいいよ。僕が、守るから」


 ジーク、いつも私を見ていて安心する言葉をくれる。私には、本当に勿体ない人ね。イケメンだし……


「ジーク! ありがとう」


 思わず抱き着いてしまった。守ると言う一言が、とても嬉しかったから……ジークは、優しく抱きしめてくれた。大丈夫だよと……


 ジークが、記憶を失くした時に感じた寂しさ……


 この温もりを、もう手放したくない。





 翌朝ジークが、


「ねぇ、ミーチェ。もしかしたら、王都からの調査団に鑑定の出来る人が、来ているかも知れない」

「えっ!」

「鑑定Sのミーチェを、見られるとは思わないけど。隠匿している方のステータスを手直ししておいた方がいいと思う。MPが低めだったよね?」

「うん。MPは200にしていたはず」

「ミーチェのステータスをランクCの冒険者位に手直ししよう。一緒に考えるからね」


 ジークに手伝ってもらって、隠匿用のステータスを書き換えました。


 名前   ミーチェ

 年齢   16歳

 HP/MP  108/450  

 攻撃力   67  

 防御力   63

 速度    85    

 知力    93   

 幸運    50    

 スキル

 ・生活魔法 ・火魔法B

 ・風魔法B  ・水魔法C  

 ・短剣D


 そのままでもいいステータスは、そのままにした。


「MPが少ないと、魔法陣に反応しないからね。ミーチェ、しばらくの間はこれで行こうか」

「うん」


 ジークとギルドに向かった。ちょっと緊張している。


 私の様子をみて、ジークは優しく微笑みながら、


「ミーチェ、緊張してる? 大丈夫だよ。何かあったら、今度は海に行くんだろ?」


 思わず、目を見開いてジークを見た。


「うん! ジーク、次は海ね!」


 そうだ、面倒になったら、他の街に行けばいいのよね。そう思えば、少し気が楽になった。ふふ。


「ミーチェ、可愛いね。次は、海に行こうね。クスクス」


 ジークは、とってもイケメンよ!中身もね。ふふ。



 ギルドに入って、受付のお姉さんについて行く。2階に上がり、応接室に通された。まだ、誰も来ていなかった。


「そちらに座って、待っていてください」


 お姉さんが、にっこり微笑んで、出て行った。ジークが私の手を繋いで、微笑む。


「ミーチェ、大丈夫だよ」


 私、ジークに頼ってばかりね。


「うん」


 すぐに、ギルド長が入って来たので、挨拶をする。


「ギルド長、おはようございます」

「おう! もうじき、お偉いさん方が来るからな」


 やっぱり、偉い人が来るんだ……思わず俯いてしまうと、ジークは私の手をギュッと握る。ジークを見ると、優しく微笑んでいる。釣られて微笑む。


 しばらくすると、扉が開いた。クライブさんが先頭で、他に2人入って来る。40代位の背の高い人と20代の小さい人、2人ともお揃いの黒いマントを着ている。3人は、向かい側のソファーに座った。


「あっ! 君は、あの時の……」


 背の低い方の人が、私を見てそう言うが、覚えがないです。私が、頭を傾げていると、


「王都で、ぶつかったじゃないか~。覚えてない?」


 そう言えば、フードを被った人にぶつかった覚えはある。でも、お互い顔なんて見てないから、分かるはずがないのに……


「誰かに、ぶつかった覚えはありますが、顔は見ていないので……」

「あぁ、そうだったね。僕は魔力の色が見えるからね。君みたいな、温かいオレンジ色の人って、珍しいから覚えていたんだよ」


 なんか、怖いことを言ってる……オーラが見えるってやつかな……


「そっちの君も、あの時いたね」

「はい。ここブラージに来る前、数日王都に居ましたよ」


 ジークは、素っ気なく答える。


 クライブさんが、様子を窺って話し始めた。


「調査団の方に紹介します。この2人が、魔法陣を見つけた2人です。2人とも自己紹介をしてくれるかな」

「ランクC冒険者のジークです」


 ジークは、素っ気なく挨拶をして私を優しく見る。次はミーチェだよと言うように。優しいね、ジーク。


「ランクDの冒険者、ミーチェです」


 クライブさんは、頷いて話し出す。


「こちらは、王都からの調査団の団長のイグラムさんと副団長のライルさんだ」


 私は、軽く頭を下げた。クライブさんは続けて、


「呪いで、魔力を奪われた彼女は、既にほぼ回復してますが、報告した時には、確かに幼女でした」

「ほお~。どうやって呪いを解いたんだね?」


 背の高いイグラム団長が、聞いて来た。それに対して、ジークが答える。


「僕は、鑑定スキルを持っているんですが、彼女のMPが、食事をした後に少し回復していることに気付いたんです」

「ほお――! それで?」


 団長のイグラムさんが、目を輝かせて聞いてくる。


「魔物の食事をして回復するなら、魔物を倒せば回復するのではないかと思って、一緒に狩りをしたんです」

「なるほど! 魔素か! 何を食べたんだ?」

「魔素の吸収を試したんだね!」


 副団長のライルさんも、身を乗り出して聞いてくる。2人とも、なんだか、無邪気です。怖そうな人じゃなくて良かった。


「はい。ランクの高い魔物の肉を使った料理です。上質肉の串焼き、コカ肉のきのこシチューを食べました」

「旨そうなのを食べてるな……なるほど、良い着眼点だ! それで、呪いがかかった時、幾つまで幼くなったのだ?」


 細かく聞いてくるなぁ……


「今は、ぶつかった時と変わらないみたいだけど……」

「ミーチェは16歳でしたが、僕が、鑑定で見た時は10歳でした」


 ジークは、淡々と答える。


「なんと! ん? 我々が、王都から来る間に戻ったのか?」


 団長のイグラムさんの質問が、止まらない……


「はい、連日ダンジョンに籠ってました」

「何層で、狩りをしていたんだい?」


 ライルさんが、隙をついて質問をしてくる。


「初めは、10~20階で狩りをして、戻り難くなってからは、20~22階で狩ってました」

「ランクBの魔物の魔素を集めたのか! ランクCとDの2人だけでとは、凄いな。そうか! 2人だから、早く戻ったんだな!」


 団長のイグラムさんは、一人で感心して納得している。忙しい人ね……


「君は、本当にランクCなのかな?」


 副団長のライルさんが、言う。


 ジークは、ギルドカードを見せた。慌てて、私も見せようとカードを出したら、




「あはは。君は見せなくてもいいよ。どう見ても、ランクAやBには見えないからね」


 副団長のライルさんが、笑いながら言った。む~、どうせ弱いですよ……


 その後も、根掘り葉掘り聞かれたけど、ジークが答えてくれたり、知らない、覚えてませんを繰り返した。


 2時間ほど話を聞かれて、やっと解放された。


「ミーチェ、疲れたね。何か食べて帰ろうか」


 ジークは、優しく微笑む。笑顔が出るジークが凄いよ。私はクタクタなのが、顔に出ているかも……


「うん。ジークもお疲れ様です」


 テンション高めの調査団2人と話をするのは、本当に疲れました……



 1階に降りると、サイモンさん達がいた。調査団の護衛だそうです。高ランクだと、指名依頼で拘束されるのね。


 その後、ジークと気分転換に買い物に行く。そして、気分を上げるために、あのオープンカフェに行った。


「今日は、どれにしようかな~。ねぇ、ジークはどれにする?」

「ミーチェの機嫌が一気に良くなったね。クスクス」

「ジーク! ストレス解消は、買い物と美味しものを食べるのが、1番効果があるのよ~。特に甘い物よ!」


 ただ、ここには甘くて美味しい物がないんですよね。王都なら、探せばあったかな? クッキーとかプリンとか食べたい。食べたい……しかたない、作るか……


「決めた! ジーク! 私、食べたい物があって、作ろうと思うの。この後、雑貨屋行って、市場で買い出しして、ダンジョンで作りたい!」

「ミーチェ、何を作るの?」

「プリンを作ろうと思うの。きっと、ジークも気に入ると思うよ」


 にっこり微笑む。プリンはみんな好きになるはず。


「分かった。でも、ダンジョンに入るのは、明日からでいいかな?」

「うん。明日からでいいよ」

「ありがとう。僕も食べたいのが、あるからね。フフ」


 ジークが、そっと耳元で囁く。


「ミーチェが、食べたいんだ……」


 ええっ! ドキッとして、一気に真っ赤です。な、な、なぜ……こんな場所で言うかな……




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