第44話 穏やかな時間

 次の日は、ジークと剣を見に行った。試作品のナイフが、良い感じになったから、次は剣で作ってみるんです。


「ねぇ、ジーク。まだ試作段階なので、今ジークが使ってる剣より、1つ下のランクの片手剣で作ってみようと思うの。どれがいいかな?」


 ジークが、驚いて聞いてくる。


「ミーチェ、もう魔法を使えるようになったの?」

「まだだけどね、いつでも出来るように準備しておくのよ。ウサギのクッションが出来上がったら、次に取り掛かるつもりなの」


 武器屋で、ジークに片手剣を選んでもらった。鋼鉄の片手剣、これって結構いい剣なんじゃないの? 私が実験で使う物だから、支払いは私が出します。金貨30枚でした。いいお値段よね。


「ねぇ、ミーチェの作る物って料理から剣まで。幅広いよね?」

「ふふ。ジーク、魔法が使えるようになるのは、鑑定さんが手伝ってくれているからよ」


 そう、こんな魔法とイメージして魔力を込めると、直ぐには出来ないけど、何度も繰り返せば出来るようになるの。鑑定さんのおかげです。


 お昼は、屋台で食べ歩き。午後は、部屋に戻ってのんびりする。私はクッション作り。ジークは、装備品の手入れをしていた。


「ミーチェ、そろそろ夕食を食べに行こうか」

「うん。今日は、何を食べようか~?」

『ニャー!』


 ええっ!? 窓を見ると、ノアールがいた。


「えっ! ノアール? どうしてここに?」

「フフ。ミーチェの手料理が、食べたくなったんだよ」


 ジークは、嬉しいことを言ってくれる。


「そうなのかな?」


 窓を開けて、ノアールを招き入れる。


『ニャ~ン!』

「ほら、ノアールがそうだって、言ってるよ。フフ」


 ジークが、ノアールを見ながら微笑んでいる。


「う~ん、料理はバッグに入ってるけど。ジーク、ここで食べる?」

「そうだね。ノアールを下に連れて行けないしね。飲み物を貰ってくるよ。あぁ、ミーチェ、結界石を置いた方がいいよ」

「結界石を?」

「魔物の気配を感じる人もいるからね」

「あぁ、感知魔法みたいなのね。なるほど~。ノアール、中に入っておいで。結界石を置くからね」


 私の感知魔法では、ノアールは引っかからないんだけどな。


『ニャ~』


 その晩は、バッグの料理を出して、部屋で食べました。食べ終わると、ノアールは窓に行き、振り返って一鳴きした。


『ニャ~ン!』


 そして、窓の外に消えて行った。


「あれは、ご馳走さまと言ったのか、又来ると言ったのか……どっちだと思う? ジーク」

「あはは。両方じゃないかな」



 翌日は、朝から市場に買い出しです。調味料とパンを多めに買った。高級店を冷やかして、お昼は高級店街にある、オープンカフェみたいなお店で食べました。


「ジーク。このお店オシャレね~。何を食べようかな。ふふ」


 オシャレなお店に入ると、ワクワクして、テンションが、上がってしまう。ドレスコードとかがあって、入店拒否されるかと思ったけど、VIPカードを見せたら、笑顔で案内されました。


「ミーチェ、楽しそうだね。フフ」


 ジークが、私の様子を見て微笑む。穏やかな時間が過ぎる。


 宿に戻ってからは、ウサギのクッション作りの続きです。やっと、2つ作り終えてジークに見せる。


 ジークは微笑んで、


「ミーチェ、上手く出来たね。次は、剣の試作品を作るの?」

「うん。時間かかりそうだけど作る」


 夕食は、宿の食堂で食べた。


「ミーチェ、そろそろダンジョンに入って、16歳まで上げてしまおうか?」

「うん、そうね。ゆっくり出来たし。明日からでも良いよ」

「じゃぁ、そうしよう」


 部屋に戻ると、ノアールが来ていた。


『ニャー?』


 どこに行ってたの?と言ってるの?


「あ! ノアール、今日も来たのね。ちょっと待ってね、バッグから料理だすからね」


 ノアールは、普通に一人前食べるのですよ。あの小さい体のどこに入るのか……結界石を置き、料理を出す。


『ニャ~ン。ゴロゴロ……』

「ノアール、明日からダンジョンに入るから、ここに来てもいないからね」

『ニャー!』 


 ノアールは食べ終わると、私を見て、尻尾を振って出て行った。ふふ、可愛い。


「ミーチェ。明日からダンジョンだから、僕もかまって欲しいな~」


 ジークが後ろから、抱きしめて来た。そして、首筋にキスをする。うぐっ、不意打ちは困ります。


「えっと……ジーク、お風呂入ってからでいいかな?」

「う~ん、仕方ないね。ミーチェ、早く来てね」


 そう言うのに、ジークは解放してくれない……


「う、うん。ジーク……放して?」




 翌朝、ダンジョンに向かった。ジークが、入口の警備騎士さんに、言伝をする。


「もし、魔法陣の部屋の件で、クライブさんが探していたら、ダンジョンに籠っていると、伝えて欲しい」

「あぁ、お前たちがそうなのか。分かった」


 ジークは、右手を上げてダンジョンに入っていく。私も頭を下げて、ジークに付いて行く。


「ミーチェ、今日も21階で狩りをするよ」

「はい。気を引き締めます!」


 20階に飛んで、強化魔法と感知魔法をかける。1時間程で、21階に降りた。昼は階段で休憩を取り、夜はいつもの5階で野営をする。


 昼と夕食、毎回ノアールがやって来る。なので、毎回料理を多めに作って、バッグにストックする。


「ねぇ、ジーク。ノアールは、どうして私達がいる場所が、分かるんだろうね?」

「う~ん。ミーチェが魔人と契約しているから、分かるんじゃないかな~」

「なるほど~。主の契約が目印になってるのね。あぁ、そう言えば、私は、迷い人の匂いがするって魔人さんが言ってったな……」


 ガタッ!


 ジークが立ち上がった。


「ええ! 魔人は、ミーチェの匂いを嗅いだのか!」


 ええ! そんなことしてないよ、ちょっとキスされただけ……


「違うよ! 魔法陣飛ぶ時に、抱っこして貰った時だよ……」


 なんか、墓穴を掘ってしまった……


「ねぇ、ジーク。血に連なる者って、どういう意味だと思う?」


 ジークは、隣に来て私を膝に乗せる。ジーク、不安になったの?


「う~ん、素直に考えると、血縁者って意味じゃないかな」

「そうだよね……」


 私のご先祖様に、この世界に来た人がいたってことね。そして、魔人さんの知り合いだったのね。


「ミーチェ、魔人がそう言ったの?」

「うん。でも秘密だと教えてもらえなかったの」


 ただの偶然で、関係ないと思う。そういうことにしておきます。



 3日程かかって、やっと16歳に戻りました。テントで過ごす時に、クッションをソファーに配置したり。テントを拡張して、トイレを設置したり。片手剣とにらめっこしたり、有意義な時間でした。


「ジーク! ステータスが16歳になったよ~!」

「フフ。ミーチェ、ダンジョンを出ようか。ドロップ品も多くなって来たしね。明日の朝一番に出るよ」


 夕食を食べに来た、ノアールに、


「ノアール。私達、明日ダンジョンから出るからね。危ないから、ダンジョンから出ない方がいいよ」

『ニャ、ニャー!』


 これはきっと、危なくないよ!と言ってる気がする……


 翌日、朝食を食べてダンジョンを出た。入口の警備騎士さんに、クライブさんの所に行くようにと言われる。


「えっ! ジーク、領主さんの所にだって……」

「う~ん、王都から調査団が来たんだろう。取りあえずギルドかな。ミーチェ、行くよ」


 ギルドに向かい、テッドさんに換金してもらいました。


「今日も凄い量だな~、帰還石はないのか?」

「帰還石は、持っておく。どうしても、いるなら……2つ売るよ」

「おお! ありがとな! 在庫が全くないんだ。王都から、調査団も来たからな~、少しは在庫を置いておきたいんだ。助かったぜ、ありがとよ!」


 今回も、換金額が多く、2枚の白金貨と129枚の金貨でした。


「そうだ、お前ら! このまま、ギルド長の部屋へ行け」


 ジークと顔を見合わせた。

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