第30話 肉のエリア

 朝、1人で目覚めるのに慣れて来た……


 今日は買い出しをして、明日からまたダンジョンに入る予定です。仕事熱心な?ジークです。


「ジーク、おはよう。市場に行ってきます」

「あっ、ちょっと待って。一緒に行くから」


 えっ? ジークの過保護癖が、戻って来た? ちょっと、嬉しい。


「ジーク、私1人で大丈夫よ。子どもじゃないから~」

「だから、危ないんだよ?」


 えっ? もしかして、誘拐されて、奴隷に売られるとかあるのかな? ジークに聞くと、この国には、犯罪奴隷はあるらしいです……


「ミーチェ、ダンジョンの魔物はどこまで調べた?」

「え~っと、30階までは読んだけど、自信はないよ」

「分かった。明日からは、取りあえず15階のワープ目指すね。ここのダンジョンは、ボス戦がないから楽だよ」


 そうなんですよ! <迷宮都市>のダンジョンであった10階毎のボス戦が、ここは、ないんですよ! あのドキドキ感が無ければ、宝箱もない! 大事なことだから、2回言うよ! 宝箱がない! 残念です……


「楽だけど、宝箱開けたいね~」

「そうだね。幸運持ちの見せ場だよね。ミーチェは、可愛いね」


 ジークは、そう言ってクスクス笑う。


「えっ?」


 今、可愛いって言ってくれた? 泣きそうなんだけど……


 市場への買い出しも終わり、屋台で食べ歩いて、お店をブラブラ……すれ違う獣人さんに目を奪われブラブラ……これデートじゃないの、記憶のないジークと……楽しいからいいけど。


 翌朝、宿の食堂で朝食を食べて、ダンジョンに向かう。入口の警備に、この前の騎士さんがいた。


「この前の冒険者だね。今日はどこまで潜るんだい?」

「15階の予定だよ」


 ジークは、相変わらず素っ気ないです。


「そうか、13階辺りから、迷いやすくなってるから気を付けて」


 青い短髪でグレーの瞳、30歳位の親切な騎士さんです。


「分かった」


 ジークは、右手を上げて行く。私は、ペコリと頭を下げて、ダンジョンに入って行った。


 10階にワープする。ここからは、草木はなく、岩壁の迷路になっていて、新しい魔物も出て来る。毒グモ・キノコ・ハイオーク。


「ジーク、あれ見て! き、きのこが、歩いてるよ!」


 何処かで見たキノコの魔物とは、ちょっと違う。あれだ……スーパーの野菜売り場にある、キノコの包装に描かれている感じのヤツです。顔と手はないけど……これが……キモカワイイって感じなのかな……


「フフ、ミーチェ。落ち着いて、戦うよ」 


 そう言って、ジークは突っ込んで行った。慌てて、強化魔法をかける。一撃でした。


「相変わらず、ジークは強いね~。あれは……大きなキノコ?」


 ドロップしたのは、大根ぐらい大きなキノコだった。ちなみに、売値は500エーツ。


 進んで行くと、オークだけど筋肉ムキムキなのが出てきた。


「あれが、ハイオーク?」

「そうみたいだね。オークより強そうなんで、気を引き締めるよ」


 オークより一回り大きくて、筋肉ムキムキです。ジークと私の魔法で、交互に攻撃して3発で倒せました。


 このハイオークは、上質肉という明らかに高級豚肉……レア肉を落とすのです。


「ねぇ、ジーク。ハイオークが、ドロップする上質肉が食べてみたいんだけど~。15階のワープ取ったら、ハイオーク狩りをしたいです!」


 タダで手に入る高級肉は、手に入れないとね!


「いいよ、僕も食べたことないから、ミーチェ料理してね。クスクス」


 ジークは、肩を揺らして笑ってますよ。だって、折角だし味見してみたいじゃない。


 この辺りも、間引かれているようで魔物が少ないです。昼頃には、13階の奥まで来ました。ここまで、ハイオークとの遭遇は3体、上質肉は1つ……


「ねぇ、ジーク。お昼に、さっき出た上質肉を味見したいんだけど~、ダメ?」

「えっ? もう食べるの? いいけど」

「やったぁ、お肉の味が、良く分かるように串焼きにするね!」


 早速、近場にある小部屋でお昼休憩にする。野営するみたいに、魔除け石置いて、テーブルセットも出す。手早く魔法で料理する。味付けは塩のみ。焼き肉タレも用意しておく。


「ジーク。焼けたよ~、食べよう!」

「いい匂いだね~。いただきます」


 上質肉は、見た目は霜降り肉でした。脂身に甘みがあり、豚肉にしては柔らかい。前を見るとジークの目が、キラキラしてます。


「ミーチェ! 美味しいね~、これは凄い!」


 実は、ジークも早く食べたかったんでしょ~。


「味見して良かった~。この味を知ってしまったら……ハイオークに逢いたい! 狩りが楽しみになるね!」


 休憩後、2時間程で15階のワープクリスタルに着いた。


「ミーチェ、バッグの食料ってどれぐらいある?」

「肉は売るほどあるよ。上質肉は、売らないけどね~、ふふ。食材は、2週間分とか余裕に入ってます」

「フフ。じゃぁ、16階へ行ってみようか。そして、15階に戻って野営しよう。ミーチェ、いい?」


 ジーク、少し打ち解けて来たのかな。笑うことが増えて来たよ。


「はい。了解です」


 1時間ほどで、16階に降りた。ここからは、ランクBの魔物が出て来る。ジェネラルオーク・コカトリス・ワイルドホーン、キノコとハイオークも出るので、肉の宝庫ですよ。わ~い!


「ミーチェ、何だか楽しそうだね?」

「うん。ここから、お肉が3種類もドロップするエリアだから、ちょっと楽しみ~」


 その返事に、ジークがクスクス笑う。


「ミーチェは、可愛いね。クスクス」


 はぅ~、また言ってくれたよ。嬉しい……


 感知魔法でハイオークを探す。早速、見つけた!


「ジーク! 右手100m奥に、ハイオークがいるよ」

「ミーチェ、なぜ分かるの?」

「え? ……感知魔法よ?」


 僕は、まだ知らないことがあるんだね、とジークが言うから、うん、まだあるよと答えて置く。


「ジーク、コカトリスは私が先に魔法打つね!」


 ビリビリ! ドッーン!! ……ピクッ、ピクッ、


 雷撃を放つ。ジークに知ってて欲しい魔法だからね。ジークが、魔法と同時にコカトリスに向かっていく。二振りで沈めるとコカ肉がドロップした。


「ミーチェの魔法は、凄いね」

「そんなこと、初めて言われたかも。ふふ」


 いつもは、呆れられていた気がする……


 ジークは、電撃魔法を気に入ってくれたようで、ワイルドホーンにも同じように攻撃をし、1時間程で15階に戻った。


 野営でジークと話し合い、このまま20階を目指すことになった。夕食に鹿肉を食べたけど、私はコカ肉の方が好きかな~。なので、私の優先順位は、一番ハイオーク、二番コカトリスに決定です。


 ジークと別れて、テントに入る。今日はお風呂を試します。猫足風呂に魔法でお湯を張る。レモンもどきを浮かべて、湯船に浸かる…。


「はぁ~。いい湯だぁ~」


 思わず、声がでる。あぁ、私の野望がようやく叶いました。お風呂で、ゆったりしていると、声が聞こえた……


「ミーチェ?」


 ん!? ジークの声が聞こえる……


「ちょ、ちょっと待って!」


 慌てて、お風呂から上がり、服を着る。お風呂場のカーテンを開けると、ジークが立っていた……えっ?


「ミーチェ。これはどうなっているの? 是非、教えて欲しいんだけど……」


「ジーク……」


 悪戯を見つかった子どものようだわ……


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