第29話 森の迷宮

 ダンジョンの入口で、警備兵にギルドカードをチェックされた。


「うん? 2人初めてか? なら10階までにした方がいい。ランクCの魔物が出るからな。ワープクリスタルは、5階と10階だ」


 30歳ぐらいの警備兵さんが、丁寧に教えてくれる。


「分かった」


 ジークは、相変わらず素っ気ない……


「ありがとうございます」


 親切に教えてもらったから、お礼を言っておく。


「気を付けてな」


 はい、いい人だ。



 ジークについて、ダンジョンに入る。石壁の迷路になっているが、蔦や草花が生い茂っている。これは、見ていて癒されるんだけど……


「ミーチェ、とりあえず、5階のワープを目指すからね」

「うん、分かった」


 1~5階までに出て来る魔物は、一角ウサギ・キラービー・バッド・シルバーウルフ・スパイダーの5種類。<迷宮都市>の10階からの強さ。


「ミーチェ、2体以上出てきたら、片方よろしくね」 

「はい、左側から攻撃するね」


 昨日、ギルドで30階までの地図を買ったので、迷わないで進めるはず。私は、ジークの後をついて行くだけだけどね。


 定期的に騎士団が、間引いてるからか、魔物の数は少なかった。4時間ほどで、5階のクリスタルに着いた。1階までワープして確認し、5階に戻る。


「ジーク、キラービーが落とす蜂蜜が嬉しいね」


 キラービーは、蜂蜜をドロップするんですよ。<王都>で買ったけど、高かった。銀貨3枚ほど払った気がする。


「蜂蜜が好きなんだね。沢山出るといいね。ミーチェ、階段でお昼を食べるよ」


 そう言って、ジークは階段で腰を下ろす。


「はい、ジーク。ハンバーガーと果実水」

「えっ、干し肉じゃないの? いつの間に、これ買ったの?」


 あぁ……バッグの説明もしないといけないのね。


「ジーク、あのね。私のアイテムバックね、時間も止まるのよ。だからね、作れる時に沢山つくって、バッグに入れておくの」

「えっ! 凄いね……もしかして、君の言ってた秘密なのかな?」

「うん、秘密の1つ。私ね魔法が好きなのよ。上手くはないけどね」


 他にも秘密があるんだね。と言いながら、ハンバーガーを美味しそうに頬張っている。イケメンが口いっぱい頬張るって、可愛い……ふふ。


 食事が終わって、10階目指して進む。新しく出て来る魔物は、バッド、毒蛇、オークの3種類です。もう、オークが出て来るんだ……


 私が強化魔法をかけると、ジークが、


「ねぇ、ミーチェは魔法使い? それとも回復魔法使い?」 

「うん? 魔法使い目指してるけど、回復魔法も少し使えるよ」

「凄いね。両方とも使える魔法使いって……ねぇ、杖は使わないの?」

「うん……次に買うつもりです……」


 ジーク、わざと言ってないよね?


 バッドを火と氷で倒していく。ジークが、


「氷魔法使えるんだ……」


 う~ん、もうステータスを見せようかな……悩む。


 他のパーティーを回避して進む。8階で野営することになり、小部屋を探して準備する。部屋の入り口を土魔法で塞いで、魔除け石を置く。その様子を、ジークがじっと見ているので、いつものことだよと言い、にっこりと微笑んだ。


 テントを出して、夕食の準備をする。オーク肉のタレ串焼きとウサギ肉の具だくさんシチューにした。


「ジーク、テーブルセット出して~」

「ん? 僕、テーブルセット持ってるの?」 


 そうよと言うと、ジークは、バッグにあったと驚く。オーク肉のタレ串焼きに、目をキラキラさせて、齧り付いていた。そこは、いつものジークと変わらないのね。ふふ。


「思ったんだけど……ミーチェ、君が倒した魔物、全部魔石を出してない?」


 ジークが、聞いて来た。あぁ~、やっぱり気付くよね。もう、ステータスを見せた方が早いね。


「うん。出ていると思う……」


 ジークが、やっぱりと言う。


「ジーク、本当は見せちゃダメなんだけど、私のステータス見る? ジークの疑問が、解決すると思うし」

「えっ? いいの?」

「うん、いいよ。どうぞ見て……」 


 名前   ミーチェ

 年齢   16歳

 HP/MP  98/750 

 攻撃力   62

 防御力   58

 速度    85

 知力   132

 幸運    96

 スキル

 ・鑑定A ・料理A ・生活魔法 ・空間魔法A

 ・火魔法A ・土魔法A ・風魔法A ・水魔法A

 ・光魔法A ・闇魔法A ・無属性魔法A  

 ・雷魔法A ・氷魔法A ・聖属性魔法A 

 ・短剣D  ・回復魔法A ・時空間魔法A


「えっ! 何、このステータス……凄いね。幸運が……これが、魔石100%の正体なんだね」

「そうみたいね」


 魔石は、幸運数字の四捨五入で、ドロップするみたいなんだよね。


 ジークが、戸惑いながら聞く。


「これ、僕に見せてもいいの?」

「ジークには、見せていたのよ。それでジークが、他の人に見せたらダメって言ってたの。でも、忘れたからどうしようかと……ジークとパーティーを解除することになるなら、見せない方がいいんだけどね……ジークは黙っていてくれそうだしね」


 私は、にっこりと言った。


「えっ、何故パーティーを解除するの?」


 ジークが、キョトンとする。


「だって、気まずいでしょ? 知らない子と2人パーティー組んでいるんだよ?」


 パーティーを解除しても、不思議じゃないよ。


「もう、知らない子じゃないから、このままでいいよ。君と……ミーチェとパーティー組んだのは、僕にとって意味があるんだろうしね」


 キュン……と胸が痛む……思い出して、ジーク……


「あっ、ミーチェはパーティーを解除したい? 記憶を失くした僕とパーティーを組むのは嫌かい?」


 ジークが、寂しそうに言う。


「そんなことない! ジークがこのままで良いのなら、これからもよろしくね」


 ジークのこと、嫌になるはずないじゃない。ただ、寂しいだけよ……


 ジークが、優しく微笑んで言う。


「ああ、よろしくミーチェ。それで、僕のステータスも見る?」


 えっ、困る!


「だ、大丈夫よ! 知ってるから。ついこの前、見せてもらったよ! ジーク」


 今、それ見ると(+)が見えちゃう。説明出来ないから見せないで!



 自分のテントに入り、お風呂の設置を始める。


 さて、どこに置こうかなぁ~。


 右手奥に土魔法でタイルを敷き詰めて、6畳ほどの広さにする。猫足風呂を置いてみる。いい感じだ~♪


 残りのタイルと土魔法を使い、壁を作る。扉代わりにカーテンを付け、猫足風呂と脱衣場所の間にも付ける。石鹸や籠なども置き、結界石も置く。バスマット代わりに、シルバーウルフの毛皮を敷く。


 出来た~! 試し風呂は今度にします。遅くなったから……



 翌朝、軽く朝食を済ませる。


「そうだ、ジーク。ギルドに売るアイテムを渡しておくね。いつも、そうしてたから。それと、一角ウサギの毛皮と蜂蜜は、売らないで私が持っていてもいかな?」

「いいよ、いつもそうしてたんだ。蜂蜜は分かるけど、ウサギの毛皮はどうするの?」

「時間ある時に、クッションを作ろうかと思ってね」 

「へぇ~、何でも作れるんだね」


 そんなことないよと言いながら、10階のワープを目指す。


 出て来る魔物の数が少ないので、思ってたより早く、10階のクリスタルに到着した。少し早いけど、ダンジョンを出ることにする。


 送迎馬車に乗り込んで、ギルドに向かう。買取りカウンターに向かい、ジークが、アイテムを出した。


 そのアイテムの量を見て、職員さんが、


「凄い数の魔石とアイテムですね……次回からは、奥の専用カウンターでお願いしますね。こちら、専用のVIPカードになります。ギルドカードと一緒に提示して下さい」


 ん? 奥って、上級者扱いなんじゃ? 目立つよ……でも、1度で全部売ってもいいのなら、助かるかな?


「そして、異動届を出される時、こちらのVIPカードは、お返し下さい」


 なるほど、VIPカードは<森のブラージ>だけのシステムなのね。


「分かった」


 いつもの素っ気ないジーク。私なんて、VIPの言葉にちょっとドキドキしてるのに。


 今回の買取り額は、金貨19枚と銅貨1枚でした。


「ミーチェ、配分は50%でいいかな?」

「うん、最近そうなったよ……」




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