第8話 迷宮都市へ

 あの後、宿に帰って夕食を食べながら、今後の話をした。


 ジークが前に組んでいたパーティーは、<迷宮都市>を拠点として活動していたそうで、詳しく教えてくれた。


 <迷宮都市>へ行くには、直接向かう馬車と、<王都>経由で乗り継いで向かう2通りがあるそうです。<迷宮都市>行は10日位に一度、商人が馬車を出す。<王都>行きは3日ごとに定期馬車があるそうです。


 <迷宮都市>まで、早くて10日ほどの旅になるので、気をつけることや必要な物など聞いたけど、半分も覚えてない。ジークのキラキラした顔にドキドキして……頭に入らなかったよ。


 あ……私ダンジョンに落ちて、この世界に転移して来たから、<迷宮都市>のダンジョン入ったら、元の世界に転移するってことないのかな……?


 私、戻りたいのかな……?

 もし、戻ったらジークと、もう会えないのよね……?



 今朝、ジークがギルドに届けを出しに行った。私は部屋でお留守番。MPが上がっていたので、ショルダーバッグ(小)を(中)に拡張すべく魔力を込める。


 結果、バッグ(中)にはならず、時間が止まった……えっ? う、うん、これはこれで嬉しい。


 ジークが帰ってきた。運よく、明日出発する<迷宮都市>行きの馬車を予約出来たそうなので、二人で買い物に行った。


 食料は多めに買う。バッグの時間が止まったので、野菜もお肉も気がねなく買い込んだ。ジークにも報告済みです。


 ジークはびっくりした顔をして、


「ミーチェ。空間の上位魔法もいいけど、隠匿の魔法もがんばって覚えてね」


 と、微笑んだ。……宿題出された気分です。


「はい……」


 そっか、時間止まる魔法は、空間魔法の上位だったのね。次は隠匿ね。考えても分からないので、時間あるときに、ステータス画面を睨んで鑑定さんだね。



 出発の朝、お世話になった宿の女将さんに挨拶して、東門の広場に向かった。ジークに、ケビンさんに挨拶しなくていいのかと尋ねたら、


「昨日済ませたから。ミーチェは、しなくていいからね」


 と、言われた。私も挨拶ぐらいしたかったのに……。


 東門広場には、馬車を止めて置くスペースがある。<迷宮都市>行の乗り合い馬車の周りには、御者2人と護衛らしき冒険者が5人ほどいた。


 馬車には、すでに何人か座っていて、私達も乗り込む。後から来た商人2人と合わせて乗客は8人。


 乗客が全員揃ったので出発。馬車は、東門を出て北東に街道を進む。


 馬車が進みだして1時間も経たないうちに、お尻が痛くなる。10日間これ??キツ過ぎる……我慢できず魔法を駆使して、魔法エアークッションを開発しました。あぁ~、かなり良い感じ。我ながら、良く出来ました。


 ジークにもと、悪戯心が湧いて何も言わずに、エィ! とエアークッションをかける。ビックリしたジークが、私の顔を見た。私がニコニコしていたので、目を細めて……顔を近づけて来る。


「ミーチェ、これは君の仕業かな?」


 小声で、耳元で囁く。うぅ、くすぐったいんですけど……。


「うっ、ご、ごめんね驚かして」


 悪戯はもうしません……。



 お昼は、街道沿いにある開けた場所で休憩する。護衛のリーダーらしき人が、近付いて来た。


「俺は護衛のリーダーをしているガイだ。見たところ冒険者のようだが、戦闘になったら当てにしてもいいのか?」


 背が高いスキンヘッドの厳ついおじさんが近付いて来た。


「僕はジーク。冒険者だが、お金を払って乗っている。守るのは彼女だけだよ」


 ジークは淡々と答える。あぁ、愛想のないジークだ……


「彼女も冒険者じゃないのか?」

「ついこの前、ランクEになった新人なんだ。護衛依頼も受けたことがない。長旅も初めてで、教えることが沢山あるんだ。だから悪いが、当てにしないでくれ」


 いつもは、人懐っこいジークだから、変な感じ。もし、私がこの対応されたら……辛くて泣くかも。


「そうか新人か、分かった。邪魔したな。しかし過保護だなあ」


 そう言って、リーダーのガイさんが離れて行った。う~ん、私弱いしね。ジークの言う通りお金払っているしね。


「ああ、過保護なんだ」


 ジークは、にっこりと私に向かって言った。うぁ……ジークの面倒見スキルが発動している……いいえ、これは……イケメン・スキルですね。


 道中、暇なので魔法の練習と料理を頑張りました。後は、休憩中に薬草いっぱい集めましたよ。


 ジークに言われていた隠匿魔法を覚えて、ステータスを名前以外ほとんど全部隠す。ジークに宿題終わったと伝えて、後は魔法の応用!


 やってみたかったのが、私の1人用テントの快適化。寝る時、テント内の空間を広げるようにイメージして魔法をかける。チョットだけ広がった気がする。防音効果も付けたい。


 このテントをこのまま収納できるように、バックも拡張しないとね。気長に頑張ろう~。


 食事は狩りに行く時と同じ、夜は頑張って沢山作る。そして、時間が止まって傷まないから半分バッグで保存する。時間ないときに手抜きが出来る。便利だ~。


 朝はスープとパン。お昼はバッグから屋台の食事出すか、作り置きのハンバーガー。


 ジークが、アメジストの瞳をキラキラさせて、


「美味しい。ミーチェ、美味しいよ」


 と、毎回褒めてくれます。フフ、美味しいと言われると嬉しい。そして、可愛いを挟んで来るようになった。……えっ?


「ミーチェ、美味しい。可愛いね、ミーチェ」


 あの日から、ジークが……距離を詰めて来ます。お姉さんは、ジークの甘い言葉にドキドキさせられっぱなし……


「ねえねえ、ミーチェ。悩み事ない?」

「えっ? 突然、何言うの?」


 ジーク、鋭いなぁ……。


「悩み事ないならいいけど。何かあるなら、ちゃんと僕に教えてよ?」

「うん。ちゃんとジークに言うよ」


 <迷宮都市>着いたら、相談してみよう……



 途中の村で補給をして、<迷宮都市>へ向かう。道中は、ゴブリンと狼が数回出た程度で順調です。この街道には、強い魔物はあまり出ないらしい。なので護衛の冒険者はランクD以上の依頼になるそうです。


 夜、食後にジークに教えてもらった。<迷宮都市>には、大浴場や部屋風呂付いた高級宿があるそうです。


「おおぉ! お風呂あるんだ~。ジーク、1泊でいいから泊まりたいなぁ」


 ちょっと甘えて言ってみた。日本人として……お風呂は逃してはいけない!


「ミーチェ、お風呂好き? それなら、部屋風呂がついてる宿に泊まろう。大浴場の方がいい?」

「やった~! お風呂大好き!部屋風呂のがいい。ゆっくりできるし、でも高いんでしょ?」

「1泊、金貨1枚からかな」

「うわぁ、高いね……」

「大丈夫だよ。始まりの街で稼いだから、かなり余裕があるよ。だから、心配しないで」


 と、ジークはにっこりと微笑む。ジークの私を見る目が、日増しに甘くなってる気がする。


「ジーク、私……最近すごく甘やかされてる気がするんだけど……」 

「うん。甘やかしてるよ。だって…、ミーチェが、大切な人だって分かったから」

「え? えっ!?」


 一瞬で、顔が熱くなった。なんで、そんなセリフが……恥じることなく出てくるの……


「ミーチェ、顔が真っ赤だよ? 可愛い。フフ」


 ジークは、にっこりと笑顔でそう言った。


 ジークの言葉の破壊力がすごくて……私の心臓は、止まりそうです。もう、お姉さんとは言えない。手のひらで転がされてます……。


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