第2話

 まじか、西園寺さいおんじとわが来た~。

 しかも一応、ちゃんと体育着。

 でもあれ、ブルマだよな……程よいムチムチ感のある足、迫力のあるおっPAI……

 なんか、ちょっとエロいのだが…まあ、いいか。エロいのはこっちからすると嬉しい…というのは冗談でー。

 西園寺さいおんじが来て、皆がこそこそ話始め、体育館中が騒がしくなった。

 「お、西園寺さいおんじー。来たか。整列しろ。」

 先生が体育館の前から後ろまで届く声で、西園寺さいおんじに声をかける。体育館が静かになった。

 「嫌です。私は整列しません。」

 まじかー、なんでだー。教師に反抗するのかー。

 野々原ののはら先生、割と仏だけど、そういう人って堪忍袋かんにんぶくろが切れたら、そうとう怖そうだよなー。

 あ、てか、本当にやばそう…。

 「西園寺さいおんじ……」

 「はい?その前に私の話も聞いていただけませんか?」

 「う、しょうがない……。」

 あれ、なんか、野々原ののはら先生が怒ってるのに、優しいのはなんなんだ?

 先生の顔が赤い……?なんかニヤけてる……!?

 あ、あれは、たぶん西園寺さいおんじを鑑賞して楽しんでいるな……。

 「わたくしはこの学校での学びに飽きてしまいました。それで、私を楽しませてくれる相手がいればと思いましたの。」

 あいつ、言葉遣いだけはお嬢様なんだよな。

 「それでですね、わたくしと一対一でテニスの対戦をお申込みしたいのです、矢崎やざきくん。」

 えー、まじか。テニスはそこまででもないんだけどな。ま、いっか。

 「わかった、俺はしてもいいぞ。

野々原ののはら先生はどう思いますか。」

 「めんどくさいな、まあ今回は特別に許可しよう。西園寺さいおんじの実力を見ることができる機会はなかなかないからね。」

 あ、そこはすんなり許可してくれるんですねー。

 「野々原ののはら先生、ありがとうございます。では、道具はこちらで準備してあるので、早速やらせていただきます。」

 西園寺さいおんじってそういう礼儀もあるんだな。やっぱりお嬢様なのか?

 「それでは、矢崎やざきくんもよろしくお願いします。」

 「あぁ、手加減はしなくていい。」

 テニスなら負ける可能性もあるが、ついカッコつけて言ってしまった。これで負けたら最悪だ……。

 「あら、矢崎やざきくん、ありがとうございます。ですが、手加減など絶対にしませんわ。矢崎やざきくんの方こそ、私をなめてかからないほうがよいですよ。」

 なめられてるのは絶対俺の方なんだけどな。


 俺と西園寺さいおんじはそれぞれ位置につく。

 「時間もないし、先に5ポイントを先取した方が勝ちな。」

 野々原ののはら先生はそれだけ言って、俺たちの試合をただ外から観戦する態勢を整えていた。

 「たったの5ポイントですって。そんなの私の勝ち確定ですわよ。」

 たしかに、常識からして5ポイントは少ない。

 テニスのルールで1ゲームは、相手より先に4ポイント取れば勝ち。そして、相手に対して2ゲーム以上の差をつけて先に6ゲームを取ると、セットの勝者となる。さらに、3セットマッチの場合、先に2セットを取れば勝ちだ。

 ということは、かなり短い試合になるということだ。

 まあ、そんなのどうでもいいんだけど。

 「では、いきますよ。あ、サーブはやらせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 もう始めるのか。まあ、勝てばいいんだ。

 「どーぞ。」

 なんか、さっきと雰囲気が違くなった。強いオーラが凄い。

 サーブが、来た。速いな。でも、あれぐらいなら打てるな。

 バシッ、パシッ、ドカッ、バチッ、パチッ

 「えっ、矢崎やざきとあれだけやれてんのかよ。」

 「西園寺さいおんじ、強くね?」

 体育館がザワついている。

 たしかに西園寺さいおんじは強いが、負けない。

 あのボール…西園寺さいおんじ、ミスったな。

 ボールはコートよりも奥に飛んでいった。初めて得点が決まった。俺が先制した。

 「先制したからって、勝てるなんて思わないでくださいね。」

 西園寺さいおんじはそれでも冷静そうな顔を保っていた。たぶんあのタイプだから、本当は凄く悔しいんだろうけど。

 けど、次もラリーは少し続いただけで、すぐに西園寺さいおんじがミスをしてボールがコートの外に出た。

 その次のサーブも前より弱気になっていて、俺が思いっきり打ち返してポイントを得た。

 さらにその次は最初みたいにいいラリーができていたと思っていたら、急にネットに引っ掛けるし。次のポイントで俺の勝ちになる。

 でも、西園寺さいおんじはまたラリーの途中で態勢を崩し、結局俺にポイントが入った。

 結果、俺が勝った。

 「矢崎やざきくん、ありがとうございました。」

 西園寺さいおんじは最後にさっきよりも弱気な笑顔で俺に言って去ろうとした。

 「待て。西園寺さいおんじってテニス上手いんだな。」

 「いえ、そんなことはないですよ。」

 「いや、ホーム綺麗だったし、サーブは俺より全然上手かった。」

 「それは当たり前です。」

 そう言いながら振り向いた彼女の目は少しうるうるしていた。

 「矢崎くん、この授業の後、少しお時間よろしいでしょうか。」

 「あぁ。」

 「では、私はこれで。」

 西園寺さいおんじは行ってしまった。クラスメイトはただボーっと俺らの様子を見ていた。

 ん?というか西園寺さいおんじ、授業は……?なんてこと俺以外は誰も考えていない様子だった。

 だから俺は別のことを言った。

 「先生、授業を進行させてください。」

 「あ、あぁ、そうだな。」

 て、先生もそんなかよ。


 そのあとほんの少しだけ授業を行って、授業時間は終了した。

 大体の生徒が、6時間目が終わり帰れるということしか頭になさそうだった。

 「今日の片づけは矢崎やざき山田やまだなー。」

 だるっ。正直なところ、花園はなぞのとがよかった。

 「これで授業を終わります。礼。」


 「矢崎やざきー、俺は先に帰ってるな。」

 喋りかけてきたのは野崎のざきだ。

 「わかった。」

 正直、報告されなくたって、わかってることだけど。

 彼はなにがあっても早く帰りたい主義の人間だから、部活がなくて俺の用事があるとき、いつも先に帰る。

 彼にとっては、帰宅大なり友情だ。まあ、それでこそ彼らしい部分でもあるが。


 俺は山田やまださんと二人で体育館に残った。

 「じゃあ、片づけますかー。」

 「は、はい。そうですね。」

 山田やまださんは普段、眼鏡をかけていて、おとなしい印象の子だ。友達と話しているのは見たことがない。休み時間はずっと小説を読んでいるが、カバーをしているため、どんな小説なのかはわからない。


 だいぶ片付けも終わって、残りはボールの入った箱が二つになった。

 二人は、最後にそれを体育倉庫に片付けに行った。

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矢崎くんと山田さん~本来モブであるはずの彼女をヒロインにした結果~ 黛あめ @mayuzumiame6

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