矢崎くんと山田さん~本来モブであるはずの彼女をヒロインにした結果~

黛あめ

第1話

 俺は頭がよくて、イケメン、運動神経抜群。そう、モテる男の三銃士そろっているのだ。

 まあ、正直モテている。

 学校内でも圧倒的なヒラエルキーを持ち、物語の主人公的な存在だ。と、自分で思っている。

 俺の彼女になる奴は美人で家庭的。まさにヒロインのような存在……そんな妄想をしている。

 いつになったら現れるんだろうか、ヒロインよ。俺は気長に待ってるぜ。とか思いつつ、もうそろそろ現れていいんじゃないかなんても心の隅の隅ではおもっている。

 だって、もう高校一年の十一月だぞ。もう、青春だぞ!

 個人的に目をつけているのは、花園はなぞのリカ。あいつは俺に次ぐ成績二位。女性らしい可愛さをもっており、男子からも注目の的である。

 長く美しい髪、彼女の動きに合わせて揺れる短めのスカート、明るいながらも落ち着いたあの声、気品のあふれる振る舞い……。なにより、胸が…おそらくDくらいか……なんてことは気にしていないが、とにかく全体的に可愛いんだ。

 実際、俺も入学式のときに一目惚れだ。

 あんな彼女ができたら嬉しい。俺の理想のヒロインだ。


 ──キーンコーンカーンコーン

 

 「みんなー、席についてー」

 担任の女教師の掛け声で、みんな席に着く。

 あの教師も胸が……なんてことで人を判断するわけがないが、可愛い容姿で男女関わらず生徒からの支持を得ている。

 生徒からは苗字の楠木くすのきから、『くっすー』と呼ばれている。

 「それでは、みなさんおはようございまーす!」

 それにしても、透き通った綺麗な声だ。実はアニメ好きで、声優好きな俺の判別だと、ダイヤモンドぐらいの価値がある声だと思っている。

 まるで、カウンセラーでもやってそうだが、そのイメージと真逆に担任は数学担当の教師である。

 「では、今日も一日頑張っていきましょう!」

 朝のニュースの挨拶のような担任のお決まりの言葉で朝礼が終わった。


 今日は朝礼が早く終わって、十分ほど時間がある。

 少し図書室にでも行くか、と考えていたら誰かが俺に話しにきた様子だった。

 「なあ、矢崎やざき!」

 体育会系の彼が、その勢いで俺に話しかけてきた。親友の野崎絢斗のざきあやとだ。

 野崎のざきもクラス内ではわりと高めの成績を収めている。そして、運動に関しては、俺に勝る能力の持ち主である。

 俺も完全完璧って訳ではないし、流石に化学部の俺とバスケ部の彼では演習量が違いすぎるからな。

 「でさー、って聞いてないだろ。」

 「ごめん絢斗あやと、聞いていなかった。」

 「ひでーな、もう一回話すから、次は聞いてろよ。」

 彼がいつものようにふざけているような口調で言う。

 「わかった、ちゃんと聞く。」

 「『ペアコン』ってあるだろ。」

 「あぁ。」

 『ペアコン』とは、うちの学校の恒例行事で、男女がペアになって、最高のペアを競い合う。

 毎年、三月の高校三年生が卒業式を終えたころに高校二年生が行う。

 他の学校でいう、ミスコンとかミスターコンのようなものだろう。

 特に賞金はないが、俺としては選ばれたいというプライドがある。

 「でさ、例年だとこの時期にペアにする相手を選び始めるらしいんだよ。」

 確かに、高二になってすぐアピールタイムが始まるから、それを考えると相手を決める時期なのかもしれない。

 「それで、矢崎やざきはどーすんのかなーって。俺は花園はなぞのさんかなーなんて思ってるけど……。」

 「まず、前から言っているが俺のことは矢崎やざきじゃなくて翔音しおんでいい。」

 「あーごめん、ついついねー。」

 「なんだか距離を感じるんだが、そんなことはないか?」

 「そんなことはないよ。俺らは親友だろ。で、翔音しおん、ペアは誰ねらいなの?」

 「俺も花園はなぞのだな。そもそも、それ以外に際立って良いやつは見当たらないぞ。」

 「そーだよなー、俺は花園はなぞのさんはタイプではないけど、選ばれるにはあいつしか……」

 意外だ。絢斗あやと花園はなぞのみたいなタイプが好みではないのか。しかも、選ばれるために気になりもしないやつをペアにしてもいいと思っているのか……。

 「まあ、絢斗あやとと勝負する機会はなかなかないからな。ライバルとして本気で競い合いたいしな。」

 「そうだな、負けられねーな!」

 俺の好きなやつが花園はなぞのってことは、クラストップの俺のイメージをキープする為に言わないでおいたほうがいいだろう。

 一旦、会話に区切りがついたところで、時間割を見た。次の授業は体育だ。着替えを済まさなければならない。

 「絢斗あやと、着替えにいくぞ。」

 「あぁ、そうだな。急いで着替えなきゃ。」


 俺は絢斗あやとと更衣室で着替えを済ませた。

 そのまま直行で体育館に向かったが、ほとんどの生徒が準備を済ませ、仲間と会話をして時間を潰していた。まだ、整列はしていなかった。

 「俺たちは整列して待つか。」

 「ああ、そうだな。」

 俺たちは普段、授業の三分前には整列している。今日は話をしていてギリギリになってしまった。

 他の生徒は、だいたい号令がかかった後に整列する。それは今日もだ。


 「はーい、じゃあ始めるよー。」

 体育の教師である野々原ののはら先生が言うと、すぐに、クラスメイトが整列した。

 時間の前から整列しておけばよいのに……。

 まあ、野々原ののはら先生、見た目のわりに優しいからな…それだったら、女の教師がよかった…なんて、思うやつはいないだろうがな。

 「で、西園寺さいおんじとわはいるかー?」

 あー、またアイツかー。あのギャルー。まあ、くるわけがねー。

 西園寺さいおんじとわは学校には来ているが、すぐに消える。問題児だ。

 みんな、どこにいるのかわからずに困っている。俺はどこにいるか知っているが、深くかかわりたくない。

 まあ、いないのが西園寺さいおんじだけだったら、勝手に授業を始めても……って、あれは……

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