第76話 息ぴったり?

 俺のアドバイスで、マルセル弟は短時間の成長を見せた。騎士団長様の剣を弾くのにも慣れ、最後には組み合った剣を、柄を使って空に斬り上げた。


 そして、騎士団長様の首に一太刀浴びせた。




「ナイスッ!」


「お兄様それは呪いの呪文ですか?」


「褒めてるんだよ」


「ほんとですか! お兄様、顔怖いんですけど。ちなみに、サクサクはみんな笑顔になれる不思議な呪文ですね」




 リフニア国の騎士団長様をマルセル弟のカールが討伐した。


 これにより、士気の高まった俺のノスリンジア軍はやっと国土に足を踏み入れる。


 それまでに国家回復師の半分も、グールの餌食にしたかな。


 だって、国家回復師って鎧を着てない女性が多いんだもんな。女


 性の悲鳴ってやっぱりいつ聞いても最高だな!!! マルセルがいないのは、残念だけど。




 俺の青ドラゴンのアイブルーンドに城門をくぐらせる。またがった俺は両腕を広げて叫ぶ。




「待ってたかリフニア国! 勇者キーレのお出ましだぞ! 処刑パレードを開催する!」




 サクサク、処刑サクリファイス! サクサク、処刑サクリファイス




 頼んでもないのに、俺の軍は合唱してくれる! もう、楽しくって仕方がないな。


 毒の沼地のリフニア国は足の踏み場もないぐらい毒まみれだ。緑の毒が地面を流れている。まあ、毒対策は全軍ばっちりだし。


 城門をくぐった瞬間、戦闘魔術師が炎上魔法を門の両側から放ってきた。


 総勢千名が、門の両側を固めていた。




 俺は不死鳥のグローブがあるし、ドラゴンに乗っているから平気だ。問題は馬に乗っている騎士団が焼き殺されたことだ。




「カール、俺がドラゴンで両サイド焼いてやる。進軍を続けろ」




「来たな、元勇者! 我ら戦闘魔術師の獄炎、上級魔法を使える者はドラゴンの息と同じほどの熱を放つ! 貴様のドラゴンとてひとたまりもないわ!」


 戦闘魔術師の師団長様が号令をかける。眼下から竜巻のように炎が吹き上がる。


「アイブルーンド! こいつらを焼き払え!」


 アイブルーンドの吐く炎は、ドラゴンの中でも珍しい青い炎。青白いと、ガスを含むから、より高温の炎だ。あいつらの獄炎? ないない。




「赤い炎は温度が低いっての」




「ぐばああああああああああああああ」


 一瞬で、骨も残らず消え去ったな。


「くははははははは! 炎対決で負けるかよ! 地獄はどっちだ? 言ってみろ? 右か左か? それとも、まさかここって言うんじゃないよなぁ?」


 今ので、城門右側の約三百は逝った! 


「あ、あの元勇者! 魔王軍よりえげつないな!」


 俺を見上げて歩兵どもがほざいてるな。流し目でそれを、やんわり確認して次はどいつを焼こうか品定めする。


 残り七百の戦闘魔術師か。おっと、かわいい回復師ちゃんたちを投入してくるのか。


 っておばさん多いな。




「死体もないのに何を蘇生させるって言うんだ? ははははははははは! 骨も残ってないだろ?」




 俺の仲良しの村もこうして焼かれたんだぞ? どこの国もクズ、クズ、ゴミクズ。特にリフニア国はゴミ以下の灰。




 回復師が、今は亡き戦闘魔術師三百人の散った焼け跡に立つ。


 蒸発してなくなったとはいえ、血や骨のあった場所に立つその勇気、褒めてやるよ!




 回復魔法師の足元を中心に黄色い光が走る。


「ふーん、魔法陣か」


 直径二十メートル以上の巨大魔法陣。騎士団戦で時間稼ぎをしていたとは、このことか。でも、今の三百人は、召喚魔法の生贄にされちゃったかも。




 鳴り響く地鳴り。リフニア国の城門が左右に倒れる。残っていたわずかな城壁も崩れ落ちる。人の住んでいない住居が崩れていく。リフニア国を平地にでもするつもりか? 




「魔物、ゴーレムか!」


 地面から黒い岩がせり出して、岩の塊の化け物が現れる。


 ゴーレムは身長二メートルが平均身長だが。こいつは三階建ての建物に匹敵する大きさ!


 地面から出てくるなり俺のドラゴンをつかもうと狙ってきた。




「よけろ」


 ドラゴンはひょいと上空に舞い上がる。ゴーレムの頭も地面から出てきた。黒い穴の空いた目。奥に金色の宝石のような目がらんらんと輝いている。




「人を生贄にするって、相変わらず趣味が悪いな、リフニア国」




帯電たいでん魔法!」


 え、戦闘魔術師のみなさん、ゴーレムに属性付与しちゃう感じ? 面倒だからそういうのやめてくれよ。


「覚悟しろ元勇者!」


 しょぼい弓兵まで帯電魔法使ってきてるじゃん。お前らは、軍にカウントしてないっての。




「やれ、アイブルーンド」




 弧を描くように炎を吐かせる。弓兵、回復師、戦闘魔術師。うん、順調に減らせたな。


 見まわしたとき、ゴーレムの腕が俺の上空をかすめた。ドラゴンが勘でよけてくれたからよかった。


「うわ、あいつあのでかさで、飛ぶのか」


 十階建てビルぐらいまで飛んだんじゃないのか、今のジャンプ力。


「いいね。遊ぶか?」


 巨大ゴーレムは、俺を無視して、岩の足で戦場のノスリンジア軍を踏みつぶしはじめた。


「あいつら、俺と同じこと考えてやがるな!」


 戦力の削り合い。あの、ゴーレムに加え、まだ戦闘魔術師が炎上魔法で騎士団を押し返している。


 グールは好き勝手に鈍器で殴って、食ってるけど。たまに巻き添えで焼け死んでいる奴もいるな。


「魔弾の弓兵は投入したかカール!」


 眼下のカールは、戦闘魔術師を二人、斬り殺したことろだ。


「とっくに! 向こうの戦闘魔術師とこっちの魔弾の弓兵は、実力的には同じです。あ、ちなみに、お兄様が見せしめにしてた、俺の部下ですが腸、解きましたよ。お兄様むごすぎです。後で回復魔法かけてやってくださいよ!」




「俺、回復は無理」


「勇者なのに!?」


「回復魔法使えるやつ、少しはいるはずだろ」


「ニ人か、三人は」


「とにかく、目先のことに集中しろ。あっちは炎と雷が好きみたいだ」


「では、あのゴーレムですが、穴を掘って埋めなおしましょう!」


「お、それいいな♪」



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