第77話 俺に似てきた

 カールは魔弾の弓兵に命令する。




全魔弾ぜんまだん弓兵きゅうへい! 魔弾の千矢だ!」




 村一つを陥没させるという、『魔弾の千矢』。


 実際は、二千人で射るから二千矢なんだけど、千矢と呼ばれている。


 魔弾の弓兵の矢は石をもえぐる威力なので、一本でも危険だ。




 千本を同じ位置に撃ち込むと、地面に穴が空くとか。




「今回は、百本単位で、釘のように撃て!」


 千本同時に撃つとは言ったが、広さや、幅を調整できるらしい。百本を撃ち、後続の百本が前の刺さった矢の後ろから金づちのように叩く。


 精確な狙撃が必要だ。それで千本目が到達するころには、円筒の穴が空くことだろう。





「じゃ、俺は邪魔が入らないように焼いとくわ」




 仕方ない、見せ場を譲ってやるか。


 戦闘魔術師が炎を飛ばしてくると、矢の位置がずれてきれいな穴が掘れないもんな。


 戦闘魔術師は、俺のドラゴンばかりを狙う。やっぱり俺が第一ターゲットだもんな。


「楽しんでくれて何よりだな!」


 ドラゴンに炎を吐かせて、炎を打ち消す。


 煙が晴れたときには、俺の姿を認めるだろう。


 だが、ドラゴンでわきを通り過ぎるときに、切断魔法で首に線を入れておいてやるんだ。全員な。


「くか……」


「あ、ぐ」


 あっちもこっちも、ばったばた倒れてくれるな! お前らの血。美味しく舐めといてやるよ。この甘美!  




「千矢を射よ!」


 カールの指示ではじまったぞ! 


 千本が針みたいに次々降って、地面に穴を空ける。


 あの技、ヴァネッサの処刑場で使われてたら、よけるの面倒だったよな。というより、処刑場の広場がなくなるよな。


 うわ、地面が削れてるのはいいけど、毒も出てくるな。まあ、いいか。沈めるのはゴーレムだし。


 ゴーレムを処刑サクりますか。


 俺がドラゴンで向かっていくと、やっぱり俺が標的ですよね? 腕を引いて殴るそぶりを見せてくる。


「アイブルーンド、合図したら右下によけろよ」


 ゴーレムの狙いがつけやすいように、俺はドラゴンの背で立ち上がって両手を広げる。


「ウェルカーム♪」


 ぐぐっと、腕を引くゴーレム。まだ、ぎりぎりまでかわさない。


 おい、びびるなよ、アイブルーンド。たかがゴーレムじゃないか。


 空気を震わすような剛腕が繰り出される。風を切る音。


「今だ」



 


 アイブルーンドが高度を下げるために、左肩を上げ、右肩を下げる。


 羽が降下するために折りたたまれる。傾く俺。


 目の前を通り過ぎてくれたゴーレムの腕。俺の指の届く距離、角度もいい。


「サクサク、処刑サクリファイス


 指で通り過ぎる腕を触るだけでいいんだもんな。こいつ、電気をまとってるから、ちょっとびりびり痺れるな。


 でも、相手が岩だろうが切れ味は落ちないぞ!


 ゴーレムの腕、切断っと。更に、サイコロステーキ状にする。


 切っても切っても、岩だから、十本の指をずっと振るうことになる。明日は両腕、筋肉痛だなこれ。




「お兄様! 穴も掘れましたよ」


「じゃあ、埋めろ!」


 トドメに、破裂魔法っと。


 切断されたキューブ状のゴーレムをばらばらと吹き飛ばす。魔弾の弓兵が千矢で掘った穴に無事に落とした。


 じゅわっと、毒で溶けていくにも、かかわらずカールがにこやかに言った。


「やりましたね! お兄様! 後は石のサイズになるまで矢を撃って、念のため息の根を止めておきますね!」


「お、いいね。お前、だんだん俺に似てきたな!」



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