第75話 カールの奮闘

「お兄様、リフニア国の騎士団長に剣を返してあげて下さい」


「断ったら?」


「お兄様は騎士道精神がなさすぎです。いいから、返してあげて下さい。俺が必ず倒します」




 面倒な弟を引き入れたな。指で挟んでいた剣をぽとりと、落とす。


 マルセル弟、いや、カールだっけ? カールはそれをそそくさと拾って、敵の騎士団長様に投げて渡す。




 戦場が騒がしくなってきたな。リフニアの騎士団の数に、ノスリンジアの騎士団が押され始めた。


「グールども。騎士団は剣と槍を使う。どんな卑怯な手を使ってもいい。まず、馬を襲って転倒させて、鎧を剥がして食らいつけ」


「はい、勇者様行って参ります」


 グールは直接的な武器としては剣、こん棒、鎖鎌、モーニングスターとか、持ってきている。


 ゴブリンと変わらない感じか。まあ、あいつらの強みは心臓以外の攻撃無効だから。あと、首切断はだめだけど。




「カール。三分やる。三分で倒せ」


「お、お兄様! 名前で呼んでくれましたね! このカール、お兄様の恨みを晴らします」


「あああああー、そういうのはいいんだよ! 俺はそういう情に厚いの、嫌いなんだよ!」


「お兄様、照れ屋ですか」




「貴様らうるさいぞ! 戦場は一刻と変わる。いい加減に死に腐れ!」


 お、リフニア国の騎士団長様も熱血系か。カール、そんな奴の剣、一太刀も浴びるなよ。


「ぐああああ」


 やられるのかカール! 見損なったぞ。


「右によけろ」


 騎士団長様の斜めに振り下ろされる剣。この騎士団長は、だいたい利き腕の方から斬り下ろしてくるよな。


 カールは見極めが足りない。


「はい、お兄様」


 俺がアドバイスしないと勝てないとか、やめてくれよ。


「次、斬り上げが来る」


 斬り下ろしてからの左から右上への斬り上げ。カールの左肩辺りを狙う攻撃。


 俺のアドバイスでカールは剣でそれを防ぐ。困った弟分だ。


「元勇者、小うるさいぞ」


「ふははは。悔しかったら俺をドラゴンから叩き落すか? できないだろ」




「ふん、私の任務は前線を維持すること。こうしている間にも、リフニア国内は貴様を迎え撃つ準備を着々と進めている。私の命一つでそれが叶うなら本望だ」




 なるほど、こいつは時間稼ぎ。まだ、戦闘魔術師は出てきてないもんな。国土に踏み入った瞬間が戦争の本番ってわけね。




「カール、踏み込んで、右から斬りつけろ」


「はい、お兄様」


「無駄だ」


 当然のように騎士団長様は剣で受け止める。


「次、左」


「はい!」


 忠実でいい動きだな。カールは、やればできる男なのかもしれないな。でも、受け止められる。と、ここでカール自身の意思で剣を弾き飛ばしてからの、蹴り。


「お、いいね。騎士道精神捨てたか」


「俺は別に、騎士道は捨てるつもりは。でも、お兄様がリフニア国を恨む気持ちも分かるんです」


「だから、同情はするなって!」




「き、貴様らうるさいぞ」


 突進してくる騎士団長様。俺は剣を突きつけろと言おうとしたが、カールはそれをやってのけた。


 命令する前に。騎士団長様の腹に突き刺さる。カールの剣。


「っく、元勇者の犬が」




「俺は、リフニア国を正したい! そのためにはマルセルお姉様が裁きを受けるのも、無理はないと思っている」



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