第70話 ノスリンジアの裏切り?
情欲まみれのうじ虫勇者キーレ。あいつの醜い笑顔をマルセルの代わりに引き裂いてやりたい。
勇者の標的である元仲間の処刑は、あいつのもくろみ通り全て完了してしまった。
同時に勇者の目撃情報はほとんどなくなった。最初こそ尾行できていたが、特殊なブーツを装備しているとかで、残った元勇者討伐隊も追跡できていない。
手詰まり感があるが、こちらは王国騎士団の再編成に時間をかけることができた。
詠唱団は全滅させられたが、まだ主戦力の国家戦闘魔術師と、国家回復師が残っている。
そして、何と言っても喜ぶべきは、マルセル復活だ。
メラニーの姿で酷い目に遭わされたマルセルは二週間、口を聞かなかったが今日復活の日を迎えてからは僕に、情欲うじ虫勇者の悪口を言えるまでに全快した。
「あの、うじ虫があたしの背中に指を十本も突き立てたのよ!」
「分かったよ。マルセル。必ず仇を打とうじゃないか。ほら、君も素敵な身体が戻ったことだし、その美しい顔をよく見せて」
元魔王の配下の四天王ベフニリウスと契約し、僕はマルセルの完全復活を成功させた。
僕は来世での人生を売った。まあ、俗にいう魂の売買に手を出した。
でも、来世など本当に来るかどうか分からないものは売りさばいたって構わない。
だいたい、あの情欲うじ虫勇者が生き返ることがこの世の間違いだというのに、何を信じればいい? でも全てはマルセルのため。
マルセルの死体は、元勇者キーレに犯されていることもあって、復活の素材として使わなかった。
その代わりマルセルの母上の骨をノスリンジア国から拝借した。
向こうのエルマー王は、勝手に貴族の墓を荒らしたとかで僕を訴えるとか抜かしていたが、それよりも今は元勇者討伐が優先だろうと説き伏せておいた。
「どう? あたしの新しい身体。母上の顔、あまりよく覚えていないけど。目の色は同じ緑で、頬も前のあたしよりかわいいかも」
マルセルの魂を人形から抜き取って、マルセルの母上の骨と混ぜ合わせた。
そうして完成したマルセルは、面影を残した別の美人になった。
年齢的にも十代後半から二十代前半に少し上がった。
「前よりも大人びて、素敵になったよマルセル」
マルセルと抱き合おうと言うとき、空気を読めないモルガンが部屋をノックしてきた。
「エリク王子様、少しお時間をいただけますか?」
僕はやれやれと思ってマルセルに別れの口づけをする。
「元勇者が君を脅したんだね。喉に食らいつくって? そんなこと絶対にさせないよ。あの、キーレにはお前に次のチャンスはないって分からせてやらないと」
「あたしも、会議だったら参加したいわ」
「恐らく報告だけだと思う。こんな夜更けだ」
部屋を出るなりモルガンは僕を早歩きで促した。
「出たか元勇者が」
「いえ、ですが大変なことに。隣国ノスリンジアがこちらに軍を進めているとの情報が」
「馬鹿な! ノスリンジア国とは先日、勇者討伐に合意して同盟を結びなおしたばかりのはずだ!」
ノスリンジア国、リフニア国、共にそれぞれ新しい騎士団長を据えて勇者討伐の準備は整ったばかりだというのに。
裏切ってきったのか?
「それと、もう一つの件ですが」
「まだあるのか!」
僕が声を荒げると側近モルガンは深々と頭を下げる。
「申し訳ございません! セスルラ国から借り入れたドラゴンと竜騎士ですが、ドラゴンの爪が剥がれ、牙も全て抜かれ、火も吐けないように喉を潰されているのが発見され、竜騎士はドラゴンを連れて帰国の途に」
「そのまま行かせたのか! 爪がなくても、ドラゴンはドラゴンだろう。尾で殴るなり何なり戦闘に使えるはずだ! 治療するにしてもリフニア国内で行えばいい。それに、原因は調べたのか」
「それはまだですが。報告が先かと」
「ノスリンジア国と戦争している場合じゃないと分かっているのか?」
「もちろんですとも。エルマー王宛てにすぐに進軍をやめるよう、警告の文を届けてまいります」
「それで、止まるのか?」
「戦争を起こす気ならば、返事も来ないと思った方がよろしいかと」
「た、大変です。モルガン様、エリク王子様!」
駆けてきたのは新しく就任したばかりの王国騎士団長。
「ノスリンジア国の進軍を指揮しているのは、元勇者キーレであるとの情報が!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます