第71話 勇者の進軍
「さぁ、俺の新しい仲間たち。今夜、
リフニア国に国民なんてもういない。
毒の溢れる土地で暮らせるのは、回復魔法が使える回復師とヘイブン宮殿にこもっている王族とその関係者だけ。
平民は回復魔法の心得がないからな。
国民のいない国に国なんて呼ぶ価値があるのか?
「進軍だ進軍!」
セスルラ国で野生になったドラゴンの一匹にまたがって俺は、隊列の先頭に踊り出て命令する。
ノスリンジア国の兵は、俯き加減で黙々と馬に鞭打つ。
俺のドラゴン「アイブルーンド」は、青い目と青い肌が自慢のかわいい少年ドラゴンだ。さっき命名した。
全長、二十五メートル。
的としては、大きいから戦争になったらこいつ、真っ先に死ぬかもな。ははははは!
でも、俺が乗ってるんだ。ギリギリまで生かしてやる。あ、活かすの方かも。
ノスリンジア国エルマー王は、俺のドラゴンが左手で握っている。じじいなので、恐怖で失神してるなぁ。
ノスリンジア国の騎士団も魔弾の弓兵も、もう俺の手中に陥った。
後は、駒として進めるだけ。
ノスリンジア国の奴らだって嬉しいはず。そうだろ?
「元々、敵同士の国。お前らも進軍できて嬉しいだろう?」
ノスリンジア軍の先頭、王国騎士団長の新米が嫌そうな顔をするので喝を入れる。
「もっと飛ばせ! リフニア国を恐怖に陥れろ。お前らの国王エルマー王がどうなってもいいのか?」
「は、はい勇者キーレ様! た、確かにリフニア国陥落計画は、エルマー王も同意していますよ! だから、乱暴はおやめください」
「あ? お兄様だろ」
ノスリンジア国の新しい騎士団長は、なんとマルセルの弟のカールだった。
まさか、三人兄弟だったなんてな。顔もあんまり似てないし。
「はい、お兄様!」
マルセルと同じ栗色の髪だが、兄グスタフと違って寝ぐせのついたようなパーマ髪で、おまけにヘタレだ。
こいつの存在もマルセルから聞いたことはない。言い出さなかった理由が分かるような、へたれ具合だ。
一発殴ったら、俺のことをすぐに勇者様と敬うんだからな。
だからこいつには、お兄様と呼ばせることにしたんだ。滑稽で面白いだろう?
「よく聞け。もし万が一、隙をついて俺に魔弾の弓兵の一人でも矢を撃ってみろ。お前の部下の
「っは、はい! そんなことは絶対にいたしません! お兄様の計画は必ず遂行してみせます!」
マルセル弟は物分かりがよさそうだが、部下には闘志を燃やす者も多い。ディルガン国の処刑場で殺しあった仲だ。
本当はうずうずしてるだろ?
「くはははは。どうした? 俺を殺したいか? まだ殺したいか言ってみろ? 反逆者ども」
隊列の後方にドラゴンと共に移動する。最後尾は腸を引き抜いて、その腸を馬に引かせている。
先に俺は、ノスリンジア国王エルマー王を拉致するために、ノスリンジア国を訪問したんだ。
そのとき俺を攻撃してきた奴らは、こうして見せしめにする。ノスリンジアの軍はもう俺のものなんだよ!
「可哀そうにな。腸が出てるだけじゃ、人間って死ねないもんな」
「ぅう、は、早く殺せぇ。この外道勇者」
「無理な相談だな。リフニア国をびびらせるためには、こっちの軍は多い方がいい。見せしめもな」
まだ来るぞ。
「グールども! 来る気になったか」
「もちろんです勇者様!」
馬に乗って脇の街道からそいつらはやってきた。
ユスファン国のラグンヒル邸の門番やラグンヒルの配下のグールたち。
ラグンヒル亡き後、俺はユスファン国に舞い戻った。
元々血肉に飢えた奴ら、人間を襲うことに標的を選ぶ理由もない。つまり襲う理由さえあれば誰でも襲う。
主のラグンヒルを失い、統率も取れず職も失っていたグールたち。あ、食の方かもしれないけど。
だから俺が考えた、リフニア国陥落の計画の誘いに乗ってきた。
ノスリンジア国の王国騎士団、二千名。魔弾の弓兵、二千名。そして食人グール、百名。
総勢、四千百名とドラゴン一匹が俺の軍。
俺はドラゴンを空高く飛ばし、全部隊に聞こえるように扇動する!
「魔王討伐以来の
全軍が俺の為に合唱する。
「はい! サクサク、
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