第61話 地下牢へつれていかれた日

 元勇者討伐隊の隊長クロード(元シスタークロエ)が、勇者に処刑されたことで、動揺した元勇者討伐隊参謀マルクはエリク王子に処刑された。




 俺は、テンドロン国でその一報の噂を盗み聞いた。リフニア国からは国外へ難民の流出が止まらず、国内は国家魔術師とエリク王子ら王族以外はほとんど残っていないとか。




「リディ聞いたか。あいつら自業自得だな」




 リディはまだ、火傷が治っていないので俺はずっと葉っぱで作ったベッドで寝かせつけてやってるんだ。




 俺、実は器用で折り紙の要領で葉を使って色んなものを作ることができる。リディには自分で回復魔法をかけてもらって、俺ができる看病はままごとみたいな程度しかできないのだが。




「明日には良くなるといいな」




 女神フロラ様ならリディを宝石に戻せばすぐに回復させてくれそうなのに。俺にもリディにも厳しいね。ま、基本神様ってのは、放任主義だもんな。




 俺の頬の剥がれた皮はまだ、傷が塞がっていないが、リディが癒えてから治してもらうつもりだ。にしても、やっぱり痛いよな。痛み止めの草でもすりつぶして塗っとくか。




「今夜、処刑サクるのは踊り子メラニーだな」




 金の亡者の踊り子メラニー。旅をしているときは踊りのほかに、手品とか火吹きとか色々と楽しませてくれたな。いわば、旅芸人で俺のことは豊満な胸でよく抱いてくれた。マルセルとアデーラにはこっそり内緒で。でも、あの強欲女は俺が拘束されたときの原因を作ってくれたんだもんな。







 マルセルが俺の目の前でエリク王子と長い接吻をした地獄の日。

「いやー、マルセルに告白したんだ――」

「――不思議よね。勇者一人を除いて、三人の意見が一致したの」




 俺の思考は停止していた。マルセルが俺のことを少し哀れむような目で見ている。アデーラの衛兵への無常な命令も俺にはよく分からなかった。




「勇者を地下牢へ連れて行きなさい」




 両腕をつかまれたときに我に返った。




「マルセル!」




 マルセルは俺に向かってはにかむだけ。何だよ、その隠しきれていない照れ笑い。




 お、俺はお前がエリク王子と手を繋いでいるのが理解できないぞ! ちゃんと説明しろよ。俺をまさか捨てるって言うのか? この俺を? 嘘だろ! 俺はお前のことを一番愛している。誰よりも。お前の隣のエリク王子よりな! 




 俺を見ろ、俺の目をちゃんと見ろ! あんな男の何がいいんだマルセル。




 俺は衛兵につかまれた腕を振りほどいて、両腕を広げて大声で抗議する。




「マルセル! 本気じゃないよな? お前の口から聞いてない。まだ聞いてないぞ」




 マルセルはエリク王子と繋いだ手を放して、俺に満面の笑顔を見せた。慎ましく手をスカートの上でそろえて。何がはじまるって言うんだ。そ、そんな、嫁に行くような顔してるんじゃないぞ。




「あたしあんたと付き合ってて、嬉しいなって思ったことなんか……一度もないから」




「!」




 マルセル……。俺にそんな幸せな顔で言う必要、あるのか。俺のことそんなに嫌いだったのか。




 俺の女癖が悪いのだって、冗談で笑って済ましてくれてたじゃないか。俺の傷、いつでも一番に治してくれてたじゃないか。俺、お前をかばって攻撃を食らったこともある。お前が傷つくのが怖かった。痛い思いはしてほしくなかった。魔族は回復師をよく狙うから、俺が守らなきゃって。




 マルセルは俺が守らないといけない! 俺が守ってやるって、ずっと。これからも。



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