第16話 決闘?
お兄様はかっとなって剣を振り下ろしてきた。あくまで決闘は続けるつもりらしい。
でもなぁ、俺は暑苦しいのが嫌いなんだ。
さっと、身をかわす。今度は横から剣で
剣を
俺これでも処刑が趣味だから。再び俺に向かってくる切先。突き。俺の漆黒色のマントがかすったけど、この辺は余裕でかわせるな。
「貴様に、マルセルのマの字も言わせない!」
「えー。あんなに小さくてかわいいのに? マルセ……」
おっと、いけね、首をかすめた。白銀の軌道が眼下を通り過ぎる。
「貴様に
騎士団長ヴィクトルより骨があるな。でも、マルセルのマの字は言えちゃったぞ。
「貴様のような外道が! このグスタフの妹に手を出したとあっては、ノスリンジア国の一生の恥!」
「なんだ、結局自分の身分が汚れるってだけじゃん」
「それでも、貴様に妹の屈辱が分かるか? マルセルははじめから貴様を愛すと思うか? お前は右も左も分からぬまま召喚されたにすぎない。そして、回復魔法師という職業の妹に泣きついたのではないか?」
確かに、彼女に癒してもらうのはたまらないなぁ。身も心も快感に浸れる。でも、泣きついたことなど一度もない。いい加減黙らせないとな。
お兄様の剣が、今度は斜め上から振り下ろされる。剣をかざすだけでも、受け止められる。
と、そこへ空いた胴を狙ってのまさかの膝蹴り。
おっつ。痛いなぁ。
近距離戦に持ち込まれたな。これじゃあお互いに剣は邪魔になって振るえないぞ。
え、何? 何、人の髪の毛つかんでくれてんの? 騎士道精神どこ行った? やっぱり殴りたくなっちゃう?
「さぁ勇者。泣いてもらおうか?」
「え、お兄様。泣くのってそっちじゃない? 腕、ちぎれてるけど」
「ぎぎゃがああああああ!」
お兄様の腕は右肩から切断してやった。
近距離戦に持ち込んだのはお兄様のミス。怒りで我を忘れちゃったみたいだな。俺の方が近距離戦、得意だ。剣がずっと邪魔だったんだよな。俺の指の方が切断力あるから。
切断魔法は、人体破壊魔法に含まずとも、この世界の常識。だって、包丁持ってない人とかどうやって野菜切るのさ? でも、それを鍛えて戦闘に使おうなんて変態は、俺ぐらいしかいないんだな、これが。あ、俺変態じゃないから。
俺は指についたお兄様の血を眺めた。マルセル亡き今、マルセルに一番近いもの。マルセルの血筋。マルセルの舌を噛み切ったときの、舌の弾力を思い出して身震いした。
あの体験を、もう一度したい。
俺、異常者にまっしぐらになりそうだなという、抵抗が少し芽生えた。でも、俺はもうマルセルの血の味を知っているんだ。お兄様の味だって知っておいていいだろう。人差し指から順番に舐めてみる。はっきり言って美味しくない。黒砂糖が焦げたような味。
「おっさんの血は、やっぱおっさんだな」
だけど、何で食べ物の味がしたんだろうな。女神フロラ様は生まれ変わった俺に、新たな味覚を与えたのかもしれない。見る人によって変わるあの姿。俺に対象によって味が変わる魔法でもかけたのかもしれないな。
女神様って、もしかして悪魔的な存在だったりして。だって、俺が復讐することを知ってて生き返らせたんだもんな。
俺は魂を売ったらしい。
引き返すなら今だぞと心の隅で思ったけど、視界に入った切断されたお兄様の腕が俺の銀色の髪を握っているのが見えて戦慄する。
うわー、人様の髪の毛を抜いてくれている。最悪だ。
俺は神聖なる勇者様だぞ。女神より命を与えられた奇跡の存在――。
「なあ、おっさん。
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