第15話 お兄様!

「さぁ剣を取れ。これは死にゆく貴様への情けだ」




 マルセルの兄と名乗るおっさん騎士は親切に、側近モルガンに頼んで一本投げて寄こしてきた。何の属性もない至ってシンプルな剣。


 ゴーレムとかには普通に折られるやわな代物だけど、人同士で斬り合うには十分に凶器だ。




 こいつが俺のお兄様になってたかもしれない人か。それが、人の喉元に剣を突きつけてくるなんて、ますます命が欲しくなってくるよな。




「貴様、勇者の剣はどうした? 紛失でもしたか?」


 剣は魔王討伐時に魔王撃破とともに、折れている。


「ま、色々あってね。でもいいのか。俺、剣術は飽きるぐらい、やり込んでるんだけど」


「心配するな。私がその手から再びその剣を取り上げて見せよう。貴様は、ここで私の手にかかり苦痛の末に、断末魔を上げてもらうぞ」




 マルセルの敵討ちか。そういうのも歓迎ウェルカムだな。眠くなかったらだけど。


「やれやれ、困った熱血お兄様だな。マルセル、お兄様がいたなんて一言も言ってなかったけど。あんた妹に嫌われてるんじゃない?」


「軽口を叩くな。貴様の方こそどうなのだ? マルセルのことは何も分かっていないようだ。あの、愛すべき妹を貴様ごときに寝取られたと思うと、虫唾が走る」




 あ、お兄様にとっての俺は寝取った側! これ、嬉しい! 嬉しいぞ! 




 お兄様、決闘なんて馬鹿なまねはやめて、和解したくなってくるな。


 男同士だが胸が躍った俺は、唇を結びなおして告白するように宣言する。




「お兄様、聞いて下さい。彼女の緑の瞳は俺ばかりを映して素敵でした」


「なっ?」


「そして、紅潮した頬と、唇を奪ったときの息を飲む仕草。少し抵抗する両手。とても最高でした。あ、当然、彼女の歯の間から、舌をねじ込んで惚れ惚れと、舐め回しました。お兄様! 俺ってなんて罪深いんでしょうか? お兄様という方の存在をもっと早くに知っていればこんなことにはならなかったかもしれないのに!」


「き、貴様、妹にそんなことを! 節度というものを知らんのか! 侮辱する気か!」


 俺はやめるつもりがない。マルセルを抱き寄せるイメージで自分の肩を抱く。




「後ろからそっと彼女の腰に手を添えて、服を脱がすのを手伝いましたよ、お兄様!」




 お兄様をおちょくるのって楽しいな。だって、歯ぎしりまでしてるし。


 お兄様の中ではこれは決闘なんだろう? 




 最後まで冷静に剣を振るうことができるかな? 殴りたくなってきたんじゃないか? 



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