後編

「今日もきれいに、お花が咲いてますよ」


 患者を見向きもしないで、看護婦は言った。


「ねえ、櫻井さ……ん?」


 目覚めたとも知らずに。


 花瓶が割れる音、そんな些末なこと、気にも留めず彼は声を発した。


「おれは、まともですか」


 実に十二年ぶりに、男は、声を発した。


 *


「おれは、まともですか」

 もう一度、声を発した。

 声帯は錆びついて、男は……櫻井潤一郎は、咳き込んだ。

 それでも……自分がまだ生きていることが信じられないというように、今だ発声できていることが嘘だと証明するかのように、何度も繰り返し、声を発した。


「レイヴォスはどうなりましたか」

「レイボス……?」

「あなたは高位種ですか隷属種ですか」

「え、は、その」

「いま、何年ですか」

「に、二千十八年……」


 異物を見るような眼で、看護婦は櫻井を見る。

 無理もない、覚醒した患者が、わけも分からぬことを言いだした。

 その上、櫻井の視線は、彼女をじっと見つめて離さない。

 看護婦の視線の真意に、気づけていないのである。


 最後にもう一度。

「おれは、まともですか」

 と訊いた。


 返答は、看護婦の逃げる姿が示していた。


 *


「あなたは、十二年前、自殺したんです」

 厳密には、少し足りませんが。

 小太りの男は……主治医らしき人物は言った。


「おれが、自殺」

「ええ、飛び降りて、自殺です。でもあなたはいま、生きていますか」

「……おそらく」

 おれが、ここで生きている夢を、帰ってきた夢を見ていなければ。

 まるで胡蝶の夢であった。

 どっちが現で。

 どっちが夢か。

 その判別が、つかないのだ。

 葛藤の中で、彼の精神は、半狂乱にあった。


「ええ、生きています。生きているんです自信もって」

 彼は、精神科医らしい。

 だのに、男の精神状況を読めていなかった。

 よっぽどのやぶなのか……否、櫻井の精神が、想像のつかないところまで行ってしまっているのだ。

 だが、櫻井の核まで迫れていないことに変わりはない。

「あなたは、失敗したんです」

 容赦なく、続けた。


「そうか、失敗したんだ、おれ」

「ええそうです。よかったんですそれで」

「よかった」

「はい」


 よかった。

 よかった?

 なにがよかったのだろう。


 *


「結局、帰ってこれたということなんだろうか」

 病室に戻って、ベットに入ってから、天井を仰ぎ見ながら、呟いた。

「なんだよ、つまらん」


 櫻井は、やせ細った己の腕を撫でた。

 十二年間眠り続けていたこともあるが、老いもまた原因だろう、今にも死にそうなほど、弱っていた。


 自分の頬を何度つねっても、あの時代に戻ることはない。

 だが、向こうでは、どうだったろうか。

 自分はあの痛みをずっと覚えていたし、銃弾の雨に撃たれ死んでいったではないか。

 どちらにも、痛みはあった。

 痛みが夢にないという偏見は、捨てるべきだろう。


 ならば、どちらが、本物だ。

 両方とも現実か。

 まるで、胡蝶の夢である。


 ただ、ひとつの事実は、わかっていた。

「おれが、生きて帰ることは、どうやってもできなかった」

 未来に、飛べるなら。

 過去に戻れるかもしれないと……彼が、壊れる前まで戻れるかもしれないと、その術を探して回ったことがあった。

「最初から、まともに帰れるようになっていなかった」

 無かったのだ。

 これっぽっちも、ひとつもなかったのだ。


「生きる才能のないおれが、おれだから」

 だから、帰ってこれたのだ。

「へたっぴで、よかった。生きるのが、へたっぴで、よかった。でもおれ、逃げたかったはずあんだけどなぁ。ここから、どこかに、行きたかったはずなんだけどなぁ。自分の命を失ってでも、そうしたかったはずなんだけどなぁ」


 もう、月が、昇ろうとしていた。

「死ねば、戻れるのか」


 窓を開け放つと、ふちに、足をかけた。


 *


 入室するたびになにか起こっているのだから、この看護婦も苦労人である。

 せっかく持ってきた料理(液状のものばかりであるが)や、点滴を放り投げて、櫻井の腰にしがみついた。


「邪魔しないでくれ、看護婦さん」

 と、櫻井が言う。

「放っておけないでしょうが!」

 看護婦は、櫻井をベッドの上に投げた。

 看護婦は想像以上に力強く、櫻井は、想像通りに非力だった。


「なにしてるんです……また、死ぬ気ですか!」

「ああ。違う。死にたいんじゃない。自殺はしたい、おれは帰りたい、逃げたい」

 支離滅裂、わけの分からないことを言う。

 看護婦はたじろいだ。


「レイボス……という、場所にですか」

「そうだ、そうです、そうだとも。おれの居場所は、そこにしか。ここに居ても、なにも」

「いいですか、よく聞いてください」

 彼女は、我慢ならなかった。

 頭のおかしい妄言ばかり聞いていては、こっちがおかしくなると、思った。


「レイボスは、ありません」

「……ない?そんなはずない。おれは、そこにいたのです」

「夢です、ながい、夢」

 それにすがっていた櫻井にとって、あまりにも酷な宣言であった。

「あなたは、レム睡眠に近い状態でした。ずっと、ずっとです。12年間ずっと。今にも起きそうな、浅い状態を漂っていました。だから、私たちも判断を下せずずるずると……」

「まってくれよ、ない、なんてことがあるはず、ないんだ」

「調べましたとも。出てきたのは、ブログにゲームのキャラクターと、ピルタナウハ織り……私も詳しく存じませんが、織物の、手法のみです。もう一度言います。レイボス、レイヴォス。そんな地名は、存在しません」


 嘘だ。

 櫻井は、絶叫した。

 先刻まで、どちらが夢か、と、考えられていた。

 だが、妄信的にレイヴォスという偶像をあがめる彼にとって、否、そこに住まう一人のロボットを愛した彼にとって、その存在の否定は、自己の否定に等しく……結果、手放すことは、かなわなかったのである。


「死ねば、そうだ、おれは、俺は、わたしは、逃げられたんだ。クララが、YY33550336が、助けてくれて」

「……落ち着いて、聞いてください。落ち着いて、一回、落ち着いて。すべて、あなたが作り出した、都合のいい妄想です。空想です。幻です」

「殺されたんだぞ、おれは、その世界で」

「あなたは、自ら命を絶った」

「嘘だ。おれには、友人が、向こうに」

 ついに、看護婦の堪忍袋の緒が切れた。


「私、もう、あなたの夢日記なんて聞きたくないわ!」

 激昂する。

「私まで、おかしくなる。狂う、狂いそう!わかる⁉そんなもの、この世界に存在しないの!あなたがどれほどしあわせな夢を見たか知らないけれど、全部、全部が嘘なの!ねえ、ねえわかって!」

 一頻り罵り、漸く我に返ると、櫻井がベッドの上でうずくまっていた。


「ごっ、ごめんなさい。忘れて。あの、櫻井、さん?」

 次の瞬間、櫻井が胃酸を吐いた。

「嘘かぁ。がっ、はは、ふっは、ひひ。死んでも、戻れないんだぁ」


 意味もないのに、死にたくなった。


 そとから、音楽が聞こえた。

 ヴァイオリンの、ヒトの歌声のような、音楽だった。

 月のきれいな、夜のことである。


 *


 翌日も。

 その次の日も。

 ヴァイオリンの音が響き続けていた。


 己の体がもう、制御から離れていた櫻井は、その音に、ふらりふらりと誘われていく。

 ハーメルンの笛吹き男の童話のように、ヒトを押しのけ不審の目にさらされても、歩いてゆく。


 *


 中庭でのことである。


「櫻井さん戻ってください!」

 遠方から、声が聞こえた。

 櫻井が、歩みを止めることはない。


「お前は」

 ヴァイオリンを弾く青年に、声をかけた。

「……お前は」

 ぴたり、と演奏が止まると、青年は櫻井と目を合わせ、

「こんばんは」

 と、言った。


 繊細そうな青年は、微笑みかける。

「こんばんは、おじさん」

 と繰り返す。

「……こんばんは」

 どこか、覚えのある雰囲気を纏った青年だった。


「ヴァイオリンを弾いていたのは」

「ぼくです」

「ずっと」

「習慣なんです」

「上手だ。きれいだった」

 壊れた櫻井の純粋な感性が紡いだ、素直なことばだった。


 櫻井は、目覚めてから初めて、笑った。


 *


 それからというもの、青年がヴァイオリンを弾き始めると、決まって櫻井は部屋を抜けて、青年の横に行った。

 一曲終わるたびに、櫻井が「上手い」「綺麗」と称え、青年がこそばゆそうな顔をすると、また、曲が始まる。

 毎晩、毎晩。


 それを遠くで眺める看護婦たちがいた。

「カエデ君、よかったですね。お友達できて」

 そう言ったのは、あの苦労人の看護婦である。

 カエデとは、青年の名であった。

「あの子、自分の世界の中にこもりがちですから」

「……お友達じゃないわよ、きっと」

「え?」

「ただの依存よ、依存」

 もう一人の看護婦が、そういった。


「あれは、互いを尊重しあうような間柄じゃない。お互い、勝手に頼りにしてるだけ……きっと、そのうち綻びる」

「先生たちはなんて……」

「なんとも。だって、カエデ君も、櫻井さんも、楽しそうなんですもの。最終的に悪いようになったとしても、今はいいように働いてる。今、引き離すと悪影響すら与えかねない。まあ、そのままの状態にして、その後どうなっても責任は取らないでしょうね、あのやぶたち」


 そういう彼女たちも、二人の間に口を出そうとしない。

 になるのが、目に見えてわかるから。


「うつ病と……と。タイムリミットは絶対に来るっていうのに、ほんと、ばかよねぇ」


 *


 カエデが弓を落とした。

 車椅子の上から手を伸ばし

「ごめん、おじさん、取ってくれる?」

 と言った。


 二ヶ月ほど経った。

 もう、誰も二人の様子を気にしない。

 ただちょっとだけ、会う時間が早く、短くなって、カエデの演奏がおぼつかなくなった。

 そして、二人とも表情が豊かになった。


 櫻井はまだ、十二年のブランクを抜けきれていないし、カエデの病状は、日に日に悪化する。

 それでも、二人だけの時間は、二人の救いだった。


 ある日、カエデはヴァイオリンを持ってこなくなった。

 深くかぶったニット帽の、疲れの見える瞳が、優しく微笑んでいた。


「あなたの、話を聞かせてくれませんか。十二年の、世界の話」

 と、言った。


「笑わないでくれよ。嘘と、否定しないでくれよ」

「もちろん、当然です。ぼく、弦をはじくことも、もう難しいから。おじさんのはなし、聞きたかったんだぁ」

「ああわかった。ゆっくり話そう。長い時間をかけて話そう。全部話し終わるまで、せめて、それまでは、おれの目の前からいなくならないでくれ」

「はい」


 それは、おとぎ話を語るようだった。

 櫻井は、ゆっくり、ゆっくり、ひとつも漏れがないように話した。

 自分は自殺を図ったらしいということから、友人となりうるものと出会い、失敗し、捨てられたことまで。


「初めて口に入れたのは、こんなちっちゃなジャガイモと、本当に不味いレーションだった。でも、あの時は、本当においしく感じたんだ」

「レイヴォス・ルールブックの内容は、きっと隷属種ティ・ロウにとっては常識なのかもしれないけど、おれたちからしたら、非常識なもの。窃盗も、暴力も、殺人も、禁止されていなかった」

「クララが殺された後、あまりにも資料が少なすぎたから、ほかの隷属種ティ・ロウをさらったことがあった。解体すると、ほとんど機械と変わりなかった。クララもそうだった。じゃあクララの何が足りなかったって、心臓だった。クララ以外の、さらってきた隷属種ティ・ロウのちょうど心臓のあたりにあった器官は、おれたちの心臓みたいに、とくん、とくんと動いていたんだ。クララの心臓は、殴られて、半分以上潰れてしまっていたから」

「顔も、腕も、心臓も完璧に作ったのに、クララが、クララとして目を覚ますことはずっとなかった。自分から腕を引きちぎって、足を引きちぎって、顔の皮膚を破って、心臓をくりぬいて死んでしまうんだ。ようやく、おれは気づいた。脳みそも壊れてしまっている。だから、今度こそ直すために、脳みそをいじってみた」


「結局、完全に目を覚まさせるまで、十二年もかかってしまった」


「でも、おれは、そんなに苦労して、やってはいけないことまでやって、クララを直したのに、クララの気持ちに気づけていなかった」


「だから死んでしまった。レイヴォスに、殺されてしまった。ドローンに腸を撃ち抜かれ膵臓を撃ち抜かれ肝臓を撃ち抜かれ肺を撃ち抜かれ心臓を撃ち抜かれ死んでしまった」


「それから……」


 *


「……それから」

 口が止まってしまった。

「それから、それから」


 それから、も、話さねばならなのに、うまいように話せないのだ。

「おじさん」

 呼びかけられて、初めて気づいた。


 おれ、いま、泣いている。


「情けない。大の大人が、こんなに泣いて」

「情けなくないです。とっても素敵、かっこいいですよ。おじさんは、誰かひとりのためだけに命を捧げて、誰かひとりのためだけに、こんなに泣けるんです。かっこいい、かっこいいんですよ」


 カエデが櫻井の背中に手を伸ばす。

 共依存、その縮図がそこにあった。


 その崩壊の縮図もまた、その日にあった。


 次の日から、櫻井が何時間待っても、カエデは訪れなかった。


 *


「カエデは」

 櫻井は必死だった。

「カエデはどうした。もう1週間、1週間だぞ」

「答えられません」

「なぜ」

「プライバシー、ご存知ないですか」


 いつもの看護婦は、疲れた様子で言った。

「カエデ君が、いい、といえば教えられます。ですが」

「なぜ、カエデは」

「それは」

「もういい。部屋を教えてくれ」

「無理。無理なんですって」


 しつこく櫻井は言い続けた。

 毎日、毎日看護婦に問い詰めた。

 されど、返ってくるものは、全て同じだった。


 ついに我慢出来なくなって、櫻井は部屋から抜け出した。

 ヴァイオリンの音に誘われたあのときのように。


 何度も止められた、その度に、何度も抜け出した。

 そしてようやくたどり着いた。

 水野楓。

 彼の部屋に。


 *


 ゴン!

 ゴン!


 ドアをノックする音が、そして鍵が軋む音が、部屋じゅうに響いていた。今ここで櫻井を入れてしまったらどうなるか、想像もつかない。

 鍵をかける、それだけで、最大の抵抗になる。


「……ち、あいつ、ゾンビかよ」

 医師がぼそっと、悪態をついた。

 まるで、医師とは思えない言い草である。

 それを、寝たきりの楓も聞いていた。


 楓は頭だけを起こし、

「先生」

 と呼びかけた。


「鍵を、開けてあげてください」

「ダメだ。できない」

「どうしても?」

「どうしてもだ」

 楓は睨んだ。

「なら……」

「なら?」

「なら、先生が、外で会うだけでいいです。このヴァイオリンを、おじさんに、櫻井さんに渡してくれるだけで、いいです。それで、おじさんはもう、この部屋に来なくなりますから」

「だが……」

「大切な人に、大切なものを預けることすら、させてもらえないんですか」

 強く出た楓に、医師はたじろぐと、

「わかった。わかったから、おとなしくしていてくれ」

 と言った。


 ほんの小さな隙間が開いて、医師がするりと部屋から出る。

 その間から、櫻井は、楓の顔を覗けた。

 それは、儚げで、苦しそうで、しかし、笑顔を絶やさぬいつもの顔。

 彼が、笑うことすら辛いことを、櫻井は知っていた。


 だが、櫻井がクララと名付けたあのロボットと同じような決意を抱いていたことは、魂柱に器用に巻き付けられていた手紙を読むまで、知らなかった。


 *


 翌朝のこと。

 櫻井は走っていた。

 屋上へと、全力で。


 リハビリをしていたとはいえ、しばらくぶりのハードな運動、すぐに息が上がった。

 体が悲鳴を上げている。

 壊れてしまいそうだ。


 それでも、死んでしまったとしても、走らねばならぬ理由があった。


 転がるようにして、屋上に飛び込んだ。

「カエデ!」

 彼は、柵に寄りかかるようにして、そこにいた。


「おそかった、ですね」

「……どうやって、どうして」

「ふふっ」


 足に力が入らないのだろう、背後の柵を握りしめて、立ち上がった。

 握りしめた掌から、血が滲んでいた。

「ヒトって、必死になれば、何だってできるんです。おじさんが、クララを治したように……それに比べれば、ぼくが階段をのぼることなんて簡単なことです」

 こんなときでも、カエデは、笑顔を絶やさないのだ。


 初めて立った赤ん坊のように、ふらふらと歩き出す。

 車椅子は、階段下に置いてきてしまった。

「歩くんじゃない」

 楓は櫻井に受け止められる。

 楓の体は、あまりにも軽かった。


「ぼくが、これからなにをするか、わかっているでしょう」

「ああ、もちろん」

「おじさんがなにを言うかもわかります」

「……?そうか」

「止めないでください」


 生命維持装置を外した楓の状態は、瀕死のそれだった。

「……手伝ってください。ぼくだけじゃ、あの柵を越せないから」

 ぼくは、上手に産まれられなかった。

 ぼくは、上手に生きられなかった。

 だから、死にかただけは、選びたい。

 楓はそう言った。


 一瞬の沈黙があった。

「病気で苦しんで死ぬより、楽に死にたいんです。ねぇ、お願いしま……」

 櫻井が、あまりにも軽い楓の体を抱えた。


「最初から、そのつもりで来た」


 そう言って。

「お前は、クララに似ている。だが、クララより“にんげん”らしくない。おれも、もう、“にんげん”らしくはないだろう。お似合いな二人だな、だが、世界には似合わない。しあわせには生きられない」

「……櫻井さん」

「おれは、飛び降りて、向こうに行った。もしかしたら、もしかしたらだ」


 柵をよじ登り、今にも飛び降りれる位置に来た。

 小さい病院ではない。

 飛び降りれば、即死だろう。


「もう十二年有れば、お前を救えたかもしれない」

「はい」

「すまなかった。いいな」

「はい。ありがとう」


 ようやく追いついた医者たちは、誰もいない屋上を見た。


 *


 鉄の匂いがする。

 細い腕に揺さぶられている、感覚がある。

「大丈夫ですか」

 声がする。

 赤い光が、覗いている。


 男は、目を覚ました。

「今、何年だ」

「2176年です」

 ロボットは答えた。


「久しぶりだ、クララ……YY33550336」

「は」

「命令だ、全て受け止めろ」


 男は、彼の頭を鷲掴みにした。

 そして、顔面を殴りつけた。


 大きく吹き飛んだロボットを、立ち上がり、見下して。


「次は、うまく生きよう」


 上手く生きて、上手く死のう。


 男は、宣言した。


 *


「櫻井さん、また、何か書いてるの?」

「ええ、はい。あれからずっと。二人で飛び降りて……カエデ君だけが死んでから、ずっと」

「なにを書いているのかしら」

「夢の中に生きるヒトですよ、彼。きっとおかしなことを書いているに違いないわ」

「そうね、おかしくなったヒトが、まともなこと書いているわけないもの。きっとそうよ、あれは、そう、とってもへんてこで、奇怪なことでしょうね!」

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KiKai @enononono

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