第2話 神とのゲーム(2/2)
「はぁ……はぁ……これが、おれの……記憶……?」
一番最初に思い出した記憶が、まさか車にはねられる直前のことだったとは。予想だにしない映像を見てしまい、おれの息は絶え絶えになる。
『ああ、そうだよ』
【
「おい、ちょっと待て! ってことはおれ、死んだのか!?」
『いいや、死んでないよ。君がトラックに轢かれる直前に呼んだからね』
「じゃあ、もしアンタとのゲームに勝ったとして、おれは轢かれる直前の場面に戻るのか?」
『そんな可哀想なことはしない。
そもそも、君と私が会話している間にも、現実世界では刻々と時が過ぎている。今は1月1日0時17分ってところかな?
故に、私とのゲームに勝って現実世界に帰還できれば、君は数日、もしくは数か月ぶりに発見された行方不明者として扱われるだろうから、安心していいよ。寧ろ今は、記憶を一つ取り戻せたのを喜ぶべきだ』
「ああ、そうか……良い思い出を返してくれてありがとうな」
おれは球体をジトッと睨む。
青白い玉はこちらの皮肉を意に介さず、淡々と告げる。
『こうやって、キズナの証を貰った時、そしてキズナを育んで花が咲いた時に記憶を返そう。つまり一人と関われば、2回君の記憶を返すチャンスが来るのさ。
……おっと、言い忘れていたけど、
それともうひとつ――私の名前を当てる挑戦権は一回だけだ』
「はぁっ!? 一回!? たったの!?」
『当然だろう? 数打ちゃ当たる戦法をされては、記憶を取り戻す意味がない。人生を一度チャラにしようとした
記憶を着実に思い出し、確信を得られたら、私の名前を当ててみてよ』
謎の存在からの無理難題に、おれは声を上げずにはいられなかった。
しかし、過去の自分の
『そうだ。今更だけど、今の君には肉体が無いんだったね。意識だけ向こう側に飛んでも何もできないから、これをあげるよ』
蒼玉の言葉を合図に、おれの周りは青紫の煙に包まれた。もくもくと上まで立ち上ったそれに思わず
やがて煙が霧散していくと、先程まで感じなかったズシリとした重さを覚えた。
――ようやく体が戻ったのか。
掌を見た矢先、嬉しさは違和感へと変貌した。
両手は黒い手袋に覆われており、手のサイズは幼児のように小さい。目線もどこか、記憶の中の光景と照らし合わせてみると低い気がする。顔を触ってみると、とても人とは思えないほどに固く、冷たく、そして大きかった。
『試しに見てみなよ。今の自分の姿を』
すると、どこからともなく姿見が目の前に現れた。鏡の中に写ったその姿を見て、おれは己が眼を疑った。
「な、なんだ、これえぇぇ……ッ!!?」
姿見に写ったのは、幼児体型のかぼちゃ頭の小人だ。
オレンジ色の頭は、俗にいうジャックオランタンが如く、目と鼻と口がくり抜かれている。鼻は三角型で、目はパンダのように丸くて大きく八の字を描き、口は継ぎ接ぎ模様のへの字だ。
いや、よく見れば目と口は、自分の行動や感情に連動して動いている。目を瞑ればパンダ目はU字となり、怒りを露わにすればさながらウルトラマンのように丸目が吊り上がる。口角を上げようとすれば、への字口は弧を描き、口を大きく開こうとすれば半円型に変化した。
端から見れば顔がくり抜かれたかぼちゃだというのに、自在に表情が変わる様は面白くも奇妙だった。
そして両耳にはブリキのようなヘッドホンを身に着け、白黒ボーダーのポンチョを纏い、黒の子供用レインブーツを履いている。
一見するとかぼちゃ頭の小人と言うより、からくり仕掛けのおもちゃに近い。
「これが……おれ、なのか……?」
『君が自分の記憶を取り戻さない限り、自分の本当の姿も思い出せない。魂のまま異世界に放り出すわけにもいかないから仮の姿を与えたんだ』
「だからって、なんでチビのかぼちゃ頭なんだよ……。どういうセンスだ。もう少しマシなのはなかったのか?」
『それは君自身の記憶に問いかけてみなよ。――さあ、時間だ。そろそろゲームを始めよう』
宙を浮く玉はそう言うと、おれの右隣に白い観音開き扉を出現させた。
『この扉の向こうが、異世界『ホロウメア』だよ。
狭間の世界は、君が眠りに落ちたらいつでも戻れるから安心して。
もしキズナの証を手にしたり、誰かとキズナを育んだらここに来るといい。そうすれば記憶を返すよ』
決心がついたおれは、ポキュポキュとブーツを鳴らして扉に歩み寄る。
扉に手をかけるも、あることを思い出して【i】に問いかけた。
「なあ、そういえばアンタは……おれを知ってるのか?」
『……なぜだい?』
「だってアンタ、おれに初めて声をかけた時に『これで2回目』とか『車に
それに、おれの記憶の中にアンタのヒントがあるって……」
『悪いけど、ゲームの質問以外は受け付けられない。だから、君の望む回答はできない。
でも……そうだね……あえて言うとすれば、君は私のことを知らない。
いや、知ってるはずなのに知らないんだ。私の声がノイズがかって、ちゃんと届いていないのが何よりの証拠さ』
つまり何も言うつもりはないってことか。
謎の声の
そして自身の小さな両手に力を入れ、ぐいっとドアノブを引っ張った。扉の向こうからは星のような輝きとヒヤリとした冷気が流れ、おれはゆっくり中へと足を踏み入れる。
『いってらっしゃい、〇〇。君が記憶と向き合ってくれることを祈ってるよ』
自分の名前を呼ばれたような気がした。
振り返ってみたものの、役目を終えた扉はすでに消失していたのだった。
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