第2話 神とのゲーム(1/2)

 おれは謎の存在【アイ】の提案に疑問を持つ。


「ゲーム? どんなゲームだ?」


『まあまあ、落ち着きなよ。まだ説明は終わってない。単純な話さ。君が私の本当の名前を当てるだけ。ね? 簡単だろう?』


「つまり……名前当てゲーム、ってことか?」


『そう。さっきも言ったけど、私は便宜上べんぎじょう【i】と名乗ってるだけで、本当の名前は別にある。

 もし君が私の名前を当てられたら君の勝ち。君が勝てば、約束通り記憶を全て戻し、元の世界に返そう』


 ――確かにルールは簡単だ。一度でもこの青白い浮遊物の真の名を当てられれば、おれの記憶は元に戻る。


 しかし、こいつの名前が一体何なのか、まったく予想がつかない。


 可能な限り自分の記憶の引き出し――といっても、自身に関する記憶はないので、一般常識から漁ってみたが、眼前の謎の存在に対して当てはまりそうな名前が見つからず仕舞い。


 強いて言えば『神』であろうか。

 だが定義が広すぎて、明確な答えにはなっていない。


 ヒントはないのか、と問おうとしたが、おれはあえて玉の言葉を待った。


『ふふ、偉いね。ちゃんと学習したようだ』


 相手の言葉を待ったのは、どうやら正解らしい。


『私の名前を当ててごらん――と言ったはいいけど、ヒントがなくてはゲームの終わりは見えない。

 ヒントはね、君自身の記憶の中にあるんだよ。そして君の記憶は、あの世界の住人とキズナを育んだ分だけ取り戻せる』


「あの世界……?」


『そう。君が渇望かつぼうした異世界。永遠の冬の夜にとざされた世界『ホロウメア』。

 そこの住人達からキズナのあかしを貰って、キズナを育めば記憶を返すよ。少しずつ、だけどね』


「つまり、おれが異世界の住人と仲良くして記憶を取り戻しつつ、記憶の中にあるヒントを探って、アンタの名前を当てる……ってことでいいのか?」


『そうそう。理解が早いね』


「……なんだよ。結局、おれが異世界に行くことに変わりないのか……。で、キズナの証ってなんだ? どうやったら貰えるんだ?」


『ふふふ。これのことだよ』


 青白い球体が笑うと、中から小さな粒が出てきた。その粒は眼前でふよふよと宙に浮いている。


「これって……種か?」


『ああ。これがキズナの証――つまり種だ。見ててごらん』


 おれは言われた通りに目を凝らす。種はポンッと音を立て、小さな煙に包まれた。そして気づけば、小さな種は溶液に満たされた細長い試験管の中に入っていたのだ。


『厳密には、これがキズナの証の本当の姿さ。相手から種を貰って容器に入れて、相手とキズナを育めば、その容器の中で種は成長する。

 今回は特別に私の種をあげよう。勇気ある英断えいだんをした君への餞別せんべつとしてね』


「ってことは――」


『そうだ。おめでとう。記念すべき一つ目の記憶だ。君に返そう』


 蒼玉の言葉と同時に、種の入った試験管から光り輝く小さなカードが出てきた。

 すると、カードから突然光が溢れ出て、おれの脳内に砂嵐がかった光景が駆け巡る。


「うああぁぁっ……!?」



     ♢



 こんこんと雪が降る夜の街。


「はぁ……」


 己の口から洩れた溜め息は少年の声だった。

 指の感覚がなくなるくらいに冷え切ったおれは、何故か俯きがちでどこかを歩いている。


 すると、横から急に照らされて、あまりの眩しさで目をおおった。


 車だ。大きな車が猛スピードで自分目掛けて突っ込んできている。

 避けようとするも時すでに遅し。自分と車の距離は、残り1メートルまで差し掛かる。


 頭の中に流れた映像は、ここで途切れた――。

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