裏切られない異性の見つけ方

常世田健人

裏切られない異性の見つけ方

 好きだったアイドルがグループ卒業と結婚を同時に発表した。

「何で同時に!」

 そのニュースを知った僕の第一声はこれだった。ファミレスにて友人が目の前に居る状況で大声を出してしまう。申し訳ないとは思いつつ、絶望にうちひしがれるしかない。

 これまで握手券やグッズを買い集め、かなりの金額を彼女に費やしてきたのに、その彼女が一瞬で離れてしまった。

 卒業だけなら良かった。

 芸能活動を続けていく姿を応援し続けることが出来るからだ。

 だが結婚となると話は違う。

 ましてや、恋愛禁止のグループ卒業と同時になると、絶望しか感じられなかった。

「仕方ないだろ。アイドルも人間なんだから」友人が呆れながらも慰めてくれる。

「いや、お前、この発表の意味がわかんないのか」

「わからんよ」

「よく考えてみろ! 卒業と同時に結婚ってことは、アイドルとしての活動をしながらこの結婚相手と付き合ってたっていうことなんだよ!」

「あー、なるほど。それは確かに」

「納得して頷いてるんじゃねえ! 納得出来るかこんなもん!」

 裏切られたといっても過言ではない。

 これまで彼女をトップアイドルにしたいがために応援してきたのに、最後の最後でこの仕打ちだ。

 もうアイドルは信じられない。

 心の中にぽっかりあいた穴は埋められなかった。

「悲しい様子だな・・・・・・。それならさ、今度はこっちを応援するのはどうだ」

 友人はオレンジジュースを飲んだあと、スマホを取り出し、横向きにしながら画面を見せてきた。

 そこには、あるゲームの画面がうつっていた。

「何のゲームだ、これ」

「アイドル育成ゲームだ。二次元のな」

「二次元のアイドル?」

 友人のスマホの画面を一度押すと、アニメ絵の女性キャラクターが表示された。画面をクリックしていくと様々な女性キャラクターが表示される。この中から所謂『推し』を決めていくというわけか。

「二次元追いかけて何になるんだよ」

「これだから素人は!」

 友人は憤慨とばかりにこう宣言する。


「リアルアイドルは歳をとるし今回みたいに結婚するだろ。そうするともう応援しようにも出来ない」

「いやもうほんとその通り!」

「しかし二次元アイドルは違う! 歳もとらないしスキャンダルも起こさない。ゲームを進めていきながら応援も出来る。アニメもそろそろやるからより楽しめる! こんなに良いコンテンツはないぞ!」

「・・・・・・ううむ、まあやってみるか」

 正直あまり気乗りはしなかったものの、友人の熱にあてられてゲームアプリをダウンロードしてみた。

 始めはログインボーナス目当てに毎日ログインしているだけではあったものの、やれることが広がりアイドルのキャラが成長していくとともにどんどんのめり込むようになっていった。会社の休憩時間にもアプリを開いてゲームをするほどだった。

「もっと何か出来ないか・・・・・・!」

 色々調べていくと、友人が言っていたアニメの他に、ライブも行われていることを知った。どうやらキャラを演じる声優が歌やダンスも行うらしい。実際のキャラの外見とは大きく異なるものの、そのアイドルキャラのライブに参戦するような体験を味わえるそうだ。

「これは行くしかない!」

 チケットを応募し、後は抽選待ちーーというところで、事件は起きた。

 休日に家でゆっくりゲームをしている中、急に友人から電話がかかってきた。

「珍しいな。どうしたよ急に」

「どうしたもこうしたもねえ! お前の好きなキャラ、とんでもないことが起こったぞ!」

「は?」

 鬼気迫る口調にうろたえながらーーその言葉を聞いてしまった。

「キャラの声優が不倫していた!」

「・・・・・・えぇええ」

 驚きよりも先にどん引きしてしまった。

 二次元アイドルの声優が不倫騒動。

 こうなったらそのキャラの声優は交代せざるを得ず、別の声優が担当するということだったがーーそのキャラの人気は最下位まで落ちた。存在を削除されることはないものの、そのキャラのイベントは全く行われないようになってしまいーーもちろんのこと、ライブにも声優は登場しない自体になってしまった。

 というわけで、俺は二度目の裏切りにあってしまった。

 二次元アイドルは歳もとらないしスキャンダルもないと思っていたのに、その声優が何かを起こしてしまうと一気に収束してしまう。

 何を信じれば良いのかわからなくなった僕が何も考えずに動画サイトの動画を自動再生しているとーーある動画を見つけた。

 それは、好きなキャラと会話が楽しめる装置を紹介している動画だった。

 特定のキャラを写し出し、会話が行えるようになるらしい。

 これだーーと思った。

 ゲーム内でイベントが行われなくてもライブに元々の声優が出演出来なくても、この装置内であれば自由に会話が出来る。

「買いだ!」

 一万円くらいしたが何も躊躇することはなかった。その装置を買い、ゲームのアイドルを写し出し、家でずっと会話をしていた。

 ーーそれから一年が経った。

 僕は、その装置内のアイドルと結婚しようと決意をした。

 この装置さえあれば何かに裏切られることはない。他の誰に何を言われようと構わない。このキャラクターとずっと一緒に居られれば良い。その証とするべく、結婚するしかないと思った。

「そうかい。おめでとう」

 この話をしたところ、友人は苦虫を噛むような表情をしながら祝福してくれた。

「ありがとうよ。早速保証人になってくれ」

「他に誰かいなかったのか?」

「お前が俺とこの子を結びつけてくれたんだろ」

「まあそうだが・・・・・・しかしなあ・・・・・・」

 ぶつぶつ言う友人を背に、スマホが震えたようすを見た。アイドルキャラのニュースが何かある度にバイブがなる設定にしている。ちらりとその画面を見たときにーー衝撃のニュースを見た。

 好きなキャラを写し出して会話が出来る装置のサービスーー終了。

「うっそだろ!」 

 勢いよく画面を表示させてニュース画面を開く。

 どうやらその装置を開発した会社が倒産するらしく、同時にサービスも終了。会話内容や情報蓄積は全てその会社が管理していたため、その装置にキャラを写し出すことは出来るが会話は出来なくなるとのことだった。

「・・・・・・・・・・・・」

 もう何も言えなくなってしまった。

 何も信じることが出来ない。

 どうしようか迷っていた僕に向けてーー友人はこう話しかけた。

「普通に誰かと結婚した方がまだリスク低いかもな」

「じゃあ誰か付き合ってくれよ! 誰も僕と付き合ってくれないじゃないか!」

「そしたら、私と付き合ってみるか?」

 何を突然と思いその声の主である友人を見るとーー頬を赤らめ、唇を震わせていた。

 どうやら冗談ではないらしい。

 アイドルや二次元のキャラ以外でこんなに可愛い人が居るのかと、思った次第だった。

「私だったらお前を裏切らないし、離れるとしたら死ぬときくらいだ」

 友人の言うとおり、何か起こる可能性はある。

 だがそれはアイドルや二次元のキャラでも同じだと思い、一言ーー「よろしくお願いします!」と叫んだ。

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