21.一人だけ選べ
「動いたら……殺すわよ」
マモルの行動を先読みしてか、後ろの存在はマモルを脅迫してくる。その殺すが誰に対してなのかマモルには分からなかったが、本当に殺る気であるとマモルに思わせた。
だからこそ、マモルは硬直する。
「安心しろ、マモル。こいつとは親友なんだ……」
「元だけどね。あんまり馴れ馴れしく呼ばないでくれる? はっきり言わなくても迷惑だから。……毒にやられたのね。惨めだわ」
会話の内容からして安心できる要素が一つも無かった。なにせアミが親友と言い張る相手の言動の全てが軽口でも嘘でもなく本当に聞こえたからだ。
ここに来て初めてアミの言葉に信用が持てなくなる。
「クロ、頼む。龍神様に合わせてくれないか……?」
「懐かしいあだ名ね。今呼ばれて虫唾が走るけど……。龍神様にお合わせさせるなんて嫌だわ。けどあの方が直々にお会いしたいとおっしゃっていらっしゃるの。仕方ないわ、ついて来なさい」
そうしてようやくマモルは先程まで後ろで喋っていた人の顔を拝見する。髪色は黒で、片目がその髪で覆われている。現在の夜に同化しており、付いていくのもやっとであった。
それよりも衝撃的だったのが、瀕死状態の、アミを引きずりながら連れて行く事であった。
やはり親友とは呼べない光景に、マモルは若干顔を引きつりながら後を付いていった。
そうして連れて来られたのは広場の様な場所だった。広く、ただ広い。それがなんの為なのか、後で分かることになる。
その広場の中心に居たのは巨大な生物だった。人に似ても似つかぬ、ドラゴンの様なその体。だが驚く事にその生物は人の言葉を使っていた。
「貴様が始祖を……。なるほどな」
「頼みがあるんだ! 何でも治せるんだろ? ユミと……、こいつとユミを治してくれ!」
そうしてマモルはアミを指差す。その行動にアミは目を丸くして驚く。
「治すのは構わん。私も貴様の願いは何でも聞くつもりだった。だが貴様、混じっておるな。私は今貴様が嫌いになった」
「は?」
「だが竜族の仇を打ってくれたの感謝する。だからとっておきの提案をしてやろう。―――。一人だ。貴様が持っている娘か、そこで倒れている腕無しの瀕死の娘か、どちらか一人を選べ。悪鬼の血を引くよ」
「おい! それはおかしいだろ。なんで二人じゃ駄目なんだ? 出来るんだろ? ならやってくれよ!」
「私は吸血鬼が嫌いだ。同様にそこから生まれた半吸血鬼の貴様を私は不快に思う。だから貴様の願いを素直に聞きたくない。だが同じ人間が交じるもの同士のよしみだ。もう一度問う。助けるのはどっちだ? これ以上は聞かんぞ」
これ以上言っても無駄だと悟った。己の心情や気分のみで行動を決める者に対してこれ以上なにか言った所で帰ってくるのは不可能の三文字だけであることは目に見えている。
だからこそ、マモルはその一瞬で思い返していた。
―――ユミとの、思い出を―――。
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