18.心の力

 アミにとって、奪ったそのエネルギーは身に余る物だった。言い換えれば長くそのエネルギーを身に留める事が不可能。膨大故暴走して、アミの体が壊されると脳より先に体が反応してしまった。


 つまりそれはアミの意思ではなく、アミの体の意思である。


「今だマモル! 動けないすきに殺せ! 何処をやれば良いか分かるよな? 残念だが私からは言えない! 兎に角直ぐにやれぇ!」


「―――ああ」


 アミが吸血鬼の急所を言えない理由を知っているマモルは一言返事をしてそのまま吸血鬼の元へ近づく。

 その足取りは速いとは言えなかった。寧ろ逆で遅い。


「金縛り……か。これは奴の力か? 竜人……。甘過ぎるなぁ。体は動かんが、口と源の動きは止められなかったようだな。そして竜人は私に力を使っているから源を奪われる心配はない。圧縮。高圧縮。『開闢魔弾』」


 高圧縮された吸血鬼のエネルギーは拳程になった後、吸血鬼の手から放たれマモルの方へ飛んでいく。

 高圧縮されたエネルギーの塊は重く、さらに自らのエネルギーでどんどん加速する。

 その化け物じみた攻撃をマモルは右手で作った拳一つで粉々に粉砕する。


「緑だ……」


 遠くのアミからは、マモルの拳が緑に光るのを確認した。

 そしてその光にはきちんと流れていた。アミが言うエネルギーという物が。


「おかしい。おかしいぞ。いくら貴様が本能と入れ替わろうとも、今の攻撃は防げない筈だ……。貴様何をした?」


「俺には心がある。だから効かなかっただけだ」


「『心』だと!? 例え貴様がそれを使いこなせても―――」


「違う! 心だ。お前が持っていない、ここにある物の事だ」


 そしてマモルは己の心臓に拳を当ててそう言う。思い出してしまったマモルにはそれが懐かしい行為であった。


「心だと? それが何に関係するんだ!」


「教えてやるよ。……心っていうのはな―――」


 そうしてマモルは吸血鬼に近づいて、拳になっていない右手を引き、指先まで力を込める。そしてそのまま前へ突き出す。

 案の定マモルの指は心臓の所まで届き、そしてその勢いのままマモルによって掴まれた心臓は外界へと無理やり引き出される。


 そしてそのままマモルは口を開く。



「「心ってのは、仲間を守る力だ」」



 勿論それはマモルの言葉であった。だがもう一人、マモルの声に被せて言った人物がいる。

 それは力を使い果たして動けなくなっているアミでは無く、また天国にいるマモルの父でも無い。


 現在マモルに体を貫かれている吸血鬼であった。

 意外な人物の意外な発言に、未だに吸血鬼の心臓が波打っている事をマモルは一瞬忘れる。

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