15.マモルを殺さなかった理由

 アミは無くなった左腕の根元を強く締めながら後方へと、邪魔にならない位置に。そして対象に届く範囲ギリギリの所で座った。


「さぁ! 返してもらうか! 千年前5つに分けた内の1つの力を!」


「返せって言われて、本当に返す奴が居るか? まぁ俺にとってはそんな事どうでもいいんだよ。力がどうとか、返す返さないとか、そもそも何をって思うけど、全部どうでもいい」


「どうでもいい、か。無関心。まるで抜け殻のような発想だなぁ」


「無関心? 違うな。俺はただ聞きたいたけだ。お前を殺す前に」


「クッ! クッハッハァ。これは、これは! センスのあるギャグだなぁ。お前を殺す前に、かぁ〜。良いだろう、答えてやろう。ここまで私を不快にさせたのはお前が初めてだ。答えた後に殺す」


 怒りなのだろう。爪を光らせ質問を待つその姿は待っているという言葉とは似ても似つかぬ存在。すぐにでも遅いかかり、殺そうと、そう顔に書いているようにマモルの目に映った。


 だがしかし、そんな事はマモルにはどうでもいい事。


「なんで俺を、10年前に殺さなかったんだ? 10年前、目の前に居たお前は、俺と目が合った後姿を消した。あの時お前は俺を殺せた筈だ。何故俺を殺さなかった?」


 マモルの意思を未だに堰き止めていたのはその謎だった。ここまで来てもなお、マモルは一つの希望にかけていた。

 目の前の吸血鬼が本当は人を殺すのを躊躇している。殺すのには理由があると―――。

 まったく馬鹿な発想である。もしアミが心を読める能力を持っていたなら、今にでも殴られそうな、もしくは罵倒されそうな内容であった。


「なんだ、その事か。ふむ、先に貴様が言った『目的はなんだ』に対する回答も含めてしてやろう。理由もなく殺されるのは食料のみと決まっているからなぁ」


 『食料』が何なのかが分かってしまう自分に嫌気が刺す。


 いや、嫌気を刺す対象が自分にならまだ良かった。既にマモルは誰にどのような怒りを向けているのか分からなくなった。

 吸血鬼が言っている言葉はおかしい。おかしいと思うが、理に適っていると思う自分が居る。その考えがおかしいと思う自分も居る。そんな馬鹿げた論争で目の前の敵を見失うなと叫ぶ自分も居る。そして―――。


 その全てを否定する、目の前の吸血鬼は悪人では無いと主張する自分までも存在する。だからこそ目の前の吸血鬼の答えを待っていた。


 単純な話、引っかかった物が取れたら全てが解決し、自分が一つになると思ったのだろう。


「私が力を5つに分けた内の1つ。貴様の中に入っているのは『心』だ。貴様を殺さなかったのは貴様が子供だったからだ。子供は心が未熟。故に貴様を殺したところで私の目的の『心』は手に入らないという訳だ。だから私は貴様を泳がせた。心が成長するまでなぁ」


 複数の感情が自我を持ち、それぞれの答えを導こうとしていたマモルの自分は、すんなりと一つになった。何故なら方針が一つに固まったからだ。一つしかない。たった一つ。


「貴様の父親が貴様に力を受け継がしておくとはな。おかげて遠周りをする事になった。ん? どうした? まさか私が良心で貴様を生かした、などと場違いな事を思っていないだろうなぁ」


「そんな事、今は考えていない。ただ安心してるだけだ」


「安心?」


「あぁ。お前を心置き無く、―――ぶち殺せることにな」


「殺す? 逆だろ逆。貴様が殺される立場なんだよ。『円柱黒鉄』」


 再びマモルの目の前で奇怪な事が起きる。

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