ワンナイトソウル
人生で二度目に寝た日。僕はその日初めて夢を見た。
それは長い長い、一人の男の夢。強く、しかし人の持つ優しさを知らず生きてきた男の夢だった。
もう血が落ちなくなって茶色に変色した鎧を着込み、真新しいツーハンデッドソードを肩に担ぐ。そうして天幕を出ると既に辺りは騒がしい。
外では参集した兵たちが一方を必死の形相で睨み付け、その場の異様な雰囲気を感じたのか馬たちは順々に嘶き始めていた。
風が運んだ空気を鼻一杯に含めば嗅ぎ慣れた戦場の匂いがした。吹き上がる鉄と掘り返された土の香り。
まだ戦地は遠いと我関せずを貫く兵が多くいる中、堪えきれずに適当にそこらにいた馬の背に乗り風上へと向かう。
土煙と怒号、敵と味方、弓と剣の混じり合う混沌。それこそが我が日常と、熱くなる血を抑えつつ馬を走らせた。
風の元へと辿り着いてもう何人を斬っただろうか。乗っていたはずの馬はとうに打ち倒され、真新しかったツーハンデッドソードは折れたので落ちていた剣に変わっていた。唯一変わらないのはまだ血を吸い続けるこの汚れた鎧のみ。
突然背筋に走る嫌な予感に従い、振り向き様に刃を持ち柄でモルトシュラークを叩き込む。
また一人、敵が倒れた。
「
まだ息があったらしい、敵兵の呟きが耳に入った。
この戦だけでその言葉を何度聞いただろうか。
僕の意識が浮上し始めた時、ふと何か大事なことを思い出していた気がした。それは長く、そして遠い昔の記憶。
しかし次第に覚醒するにつれ、そんな感覚も記憶も薄れゆく。この白い部屋を認識した頃にはもうよく寝たという思いしか残らない。
生まれてから二日。僕はまだ、夢というものを見れていない。
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