第4話

 これも<帝国>による実験の成果なのか、僕は恐ろしい早さで立ち直っていた。


「落ち込んで悩んでたって仕方がない。ラブ、僕はそのリベラティオとかいうロボットで戦うしかないんだね?」

「ハイです。ロボに搭載されて戦う。それが脳だけになったジェイさま唯一の取り柄なのですよ!」


 その物言いは馬鹿にされたようで顔をしかめたが、ラブは相変わらず邪気のない笑顔。きっとただ事実を言っているだけなのだろう。

 いちいち反応していても仕方ないとため息を吐いて質問を続けた。僕にある知識は半端で、例えば脳だけになって働く方法はロボットで戦うという程度のものしかない。


「それで、そのロボットについては記憶にないんだけれど、それも僕が買わなきゃいけないんだよね?」


 <帝国>は徹底した成果主義。成果を挙げる準備や過程も当然のように与えられたクレジットを元に自分で何とかしなければならない。

 僕が<帝国>の実験という一方的な都合で脳だけになったからといって、一生涯の保証などされないのだ。もちろん働くために必要なリベラティオの支給だってされはしない。

 戦うしか生きる道はない。やっと現実を受け止めて覚悟を決めた僕の表情にラブは大きく頷く。


「ハイです。それではリベラティオのカタログを出すのでモニターを見てください!」


 ラブの言葉とともに中に浮かんでいる大型モニターの映像が切り替わった。そこに写し出されていたのは人の形を模した機械、リベラティオ。そのデータが次々流れていく。

 しかし流れてく専門知識を素人が瞬時に理解できるはずもなく、慌ててラブを呼び止めた。


「色々あるのは分かったけどね。ええと、ラブ。たしか<帝国>には手元で見られるタブレット端末があったよね?」

「もちろんありますよ!」


 生成しますか、という問いに肯定する。すると僕の手にはちょうどいい大きさのタブレット端末が現れた。

 網膜に直接情報を映し出すほどに技術の発展した<帝国>においても、まだこういった物理端末は仮想空間用にデータ化される程度には需要がある。

 僕は受け取った端末に写し出されたそれぞれのリベラティオの簡易情報を読んでいく。

 簡易情報はおおよそのスペックと機体の全体像、値段が書かれたもので、リベラティオは当然どれも高い。

 しかし、払えないというほどではなかった。自分に残された寿命を半分も支払えばもっとも安い機体に加えて基本的な武器を買える。

 自分の寿命の値段はさておき、この安さは得た知識を考えても異常だった。

 思わずラブに聞く。


「思っていたよりも安いんだね」

「ハイです。<帝国>も鬼ではないですからね。生体ユニット化措置を施された方には百日間限定でリベラティオの機体と武装を大幅割引きしているのですよ!」


 ほお、と何とも言えない声を出した。<帝国>にも良心や常識はあったのかと。

 それからも僕は欠陥品が生かされているだけましだという事実を棚にあげて、知識にもないリベラティオの情報を映す端末を更にいじった。

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