第34話 久々のランチデート!(2)


 じゅうじゅうと肉の焼ける音と、ソーセージの焦げる香ばしい匂いでユリカちゃんのお腹がぎゅるるとなった。

 俺はその横でせっせと付け合わせのほうれん草のホイルバター焼きを作っていた。

「まだですかぁ?」

 じゅるり、俺の向かい側に戻ったユリカちゃんがアニメみたいな表情で言った。

「なま肉からなので待ってくださいね」

「むぅ〜」

 口を尖らせるユリカちゃん。

 じりじりとあぶられるソーセージに蓋をかぶせてあと数分。ユリカちゃんの首筋と額には汗がじんわりと滲んでいる。

 俺もメガネが曇ってきた。

「ユリカちゃん、スマホスマホ」

「へ? 写真はとったよぉ」

「ほら、蓋をはずして湯気がもくもくするところ動画にしたらいいと思って……」

「確かにっ、ゆうくん天才っ!」

 ユリカちゃんに褒められて嬉しい俺、ちょっと得意げにトングを持つとソーセージたちを覆っている銀の蓋を開いた。

「わぁ……」

 ユリカちゃんはスマホを構えながら思わず声を上げる。逆に俺は湯気のせいでメガネが曇って何も見えない。

「おいしそぉ……」

 俺はメガネを外して服で拭う。目の前にはこんがりと食べごろのソーセージ。網の形に焼き色がついて、蓋をしてちょっとスモークしたことでふっくら、今にも弾けそうなくらいまるまるとしてる。

「ユリカちゃん、お皿こっちへ」

「ありがとう」

 俺はユリカちゃんにソーセージを取り分けるとナイフとフォークを渡す。しかし、ユリカちゃんは「?」と不思議そうに首を傾げた。

「ナイフ?」

「あついんで切らないと」

「えぇっ、そしたらお口でできないじゃないですか!」

(いや、そんなことはないんだろうけど大声で言わないでくれ、なんか恥ずい)

「ぱりっ! ってやりたい〜」

「あつあつっすよ?」

「ゆうくんがふーふーしてくれるでしょう?」

「俺?!」

「せっかくの二人っきりなんだし……だめ?」

 ユリカちゃんの上目遣いはずるい。俺はソーセージを箸でつまむと何度か息を吹きかける。

 その間も俺にユリカちゃんからの熱い視線が注がれていて、自分の顔まで熱くなっているような気がした。

「は、はい」

 ユリカちゃんが目を閉じて口を開ける。やけに色っぽいのはリップのせいだろうか……?

「はむっ」

 ユリカちゃんはパキッといい音をたててソーセージに食いついた。その後、はふはふと暑そうに息をして幸せそうな顔でごっくんする。

「お、おいひぃ〜」

「お、焼き加減はどうっすか?」

 ユリカちゃんに「あ〜ん」したふわふわした心地で俺もなんだか変な感じだ。

「ゆうくんも食べて見てくださいっ」

 ユリカちゃんは手を伸ばして別のソーセージを箸で掴むと「あ〜ん」とまるで子供に食べさせるみたいに俺に言ってくる。

「あ……」

 俺は控えめに口を開けたのが間違いだった。

「あちっ」

「ほら〜、ゆうくんちゃんとお口あけないからだよ〜?」

「ご、ごめんって」

「はい、あーん」

 俺は素直に口を開けてソーセージを噛み切った。ぱきっ!っといい音がなって口の中は一気に肉汁と香草の香りでいっぱいになる。

(あぁ、白飯かっこみたい)

「ゆうくんの焼き加減さいこうっ!」

 ユリカちゃんは二つ目のソーセージをパキッと口に入れる。幸せそうに白飯も口にいれてハムスターみたいだ。


(あぁ、仕事の合間に幸せだなぁ……)


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