第32話 彼氏の特権?(2)


 ユリカちゃんが起きるまでに俺はお腹に優しい料理を作ることにした。タマゴ粥か、それともふわもちになるまで茹でたうどん?

 とりあえずの鶏ガラスープの素で献立を考える。休日デートはできなかったけど、同棲をはじめて一緒にいるんだし……家にいても同じだよな。


「ゆうくん」

「あら、起きちゃったすか」

「電話なってましたよ〜」


 寝室から眠たそうな顔でやってきたユリカちゃん。手には俺のスマホ。

 俺はユリカちゃんをみてスマホを寝室に置きっ放しだったことに気がついた。ってかこんな休日に誰だろう? 兄貴かな。


【非通知】


「ありがとっす」

「ん……」

 ユリカちゃんからスマホを受け取って俺はスマホを耳に当てた。


「もしもし」

「あ、えっと藤城さんですか」

「はい、そうですが……」

「相馬です」

(相馬さん? どうしてこんな休日に)

「どうしたんですか? 何か問題でも……?」

「いえ、その、いま少し大丈夫ですか?」

「えっと、大丈夫……ですけど……」

 俺はちらっとユリカちゃんの方を見る。ユリカちゃんはコクリと頷いた。

「よければ、ご飯とかって……」

「いえ、今日外出するのはちょっと……」

「あっ、そうですよね。ごめんなさい」

 相馬さんはシュンとした声で言った。

「ランチとかなら、そのオフィスにいるときに声かけていただければ」

 相馬さんには結構重めの仕事を任せているから悩み事が多いんだろう。俺も一応部長として話を聞かないといけないな。

 とはいえ、ユリカちゃんを放っておくわけにはいかないし……。

「じゃあ、そのまた来週に」

「はい、すみません。失礼しました」

 通話が切れると、ユリカちゃんが心配そうに

「誰から?」

「あぁ、相馬さんっすよ」

 ユリカちゃんが「むぅ」と膨れるとこちらに近寄ってきて俺の服の裾を掴んだ。

「ゆうくん」

「はい」

 ユリカちゃんはぐぐっと近寄ってくる。

「あんまし、お仕事以外は女の子とはなしちゃヤです」

 眉を八の字にして下唇が少し大きく見える。まるで子供みたいだ。

「だってゆうくん優しいから……」

 ぎゅうとユリカちゃんが抱きついて俺はお手上げ状態になる。でも、こんな風に嫉妬するのは初めてなような……?

「わ、わかったっすよ」

「本当にぃ〜?」

 ユリカちゃんは俺のスマホをジッと見つめる。

「心配ならみます?」

「何を?」

「俺のスマホ」

 ユリカちゃんはパッと真っ赤になると俺から離れてもじもじする。

 な、なんなんだ、そのリアクションは……!

「いいの……?」

「いや、別にそのいいっすけど……」

「ぱ、ぱすこーどは?」

「全部1です」

「ゆ、ゆうくん」

「は、はい」

「パスコードかえないと」

「へ?」

「さっ、流石にセキュリティーがガバガバだよ!」

 ユリカちゃんはぷくっと口を膨らませると俺のスマホをぽちぽちっとタップする。

「私がチェックする前に……ほらゆうくん、パスワード!」

「え、えぇ」

「だって、もしも落としたら大変でしょう?」

 パスワード、パスワードかぁ

「ユリカちゃん、なんかいいのないっすか?」

「うーん・・・じゃあ私の誕生日なんていかがでしょう?!」

 といってユリカちゃんは入力する。

【0707】

「ゆ、ユリカちゃん……」

「ふふふ、とってもわかりやすでしょ?」

 満足げなユリカちゃん。

 いや、そうじゃなくて。

「セキュリティ的に? よくなさそうな……」

「はっ、そうでした! ゆうくん天才!」

「まぁ、今のよりいいしユリカちゃんの誕生日にしておきましょっか」

 嬉しそうなユリカちゃん。きゅるきゅるの瞳がこちらを見つめている。

「今、ご飯作ってたんすけど何か食べたいものあります? うどん? おじや?」

 お腹に優しいものを提案してみるが……

「激辛海鮮ラーメン!!」


 さすがはユリカちゃんである。


「カプサイシンはやめときましょ」

「えぇ〜」

「後でお腹痛くなってもしらないっすよ?」

「ゆうくんに甘えれば平気だもんっ」

「じゃあちょっとだけっすよ」

「んぅ〜、可愛いカノジョのいうことが聞けないんですかぁ?」

 スマホのことは何処へやら……ユリカちゃんは俺をキッチンへと押し込んだ。




***お知らせ***


 フォロワー様には近況ノートにてお伝えしましたが、こちらの作品の書籍化が決定いたしました!

 長い間、応援・お読みくださった読者様のおかげです(感謝

 詳細は発表ができる状態になり次第、近況ノートにて公開しますので是非チェックしてみてくださいね!

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