第30話 夏バテ間宮さん(2)


 簡単で辛くてするっと食べれるといればこれである。

 ゴロゴロする間宮さんを見ながら俺はレトルトの麻婆茄子のパックを開ける。ナスはダイスになっている冷凍食品のでいいや。

 あぁ、暑い。食欲もない。

 一人暮らしならマジでアイスで済ませるレベル。

 でも、ユリカちゃんに不摂生させるわけにはいかないし、これが責任感ってやつかぁ……主婦側の。

 キッチンは鬼のように暑い。

 というのもぶくぶくといい感じに沸騰した鍋のお湯。俺はそうめんを2束。湯の中にぶちまけてタイマーをセット。一方でフライパンの上ではなんちゃって麻婆茄子の辛味調整中。

「ユリカちゃんは山椒と唐辛子の辛いのはどっちがいいですか?」

「豆板醤がいいです」

「おけ」

 ごろごろ転がりながら答えるユリカちゃん。寝っ転がって撮影するグラドルみたい。

「ユリカちゃん、冷たいのお願いしてい?」

「しかたないなぁ〜ゆうくんは」

 なんて冗談を言いながらユリカちゃんは冷蔵庫を開けると氷をボウルにいれ、シンクで氷水を作る。

「そうめん、しめるのお願いしようかな」

「ぬるぬるですねぇ」

 シンクにザルを置いて、そこに茹で上がったそうめんを出し、でお湯を切ってからユリカちゃんの持つ氷水の中にザブン。

 ユリカちゃんが流水と氷水でそうめんをしめている間に俺は麻婆茄子の方の仕上げにかかる。

「ゆうくん、どんくらい食べる?」

「ユリカちゃんと同じでいいかな」

「食いしん坊ですねぇ」

「ユリカちゃんがね?」

「あっ、デリカシーないんだからぁ」

 プンプンと効果音が出そうなユリカちゃんはすぐに笑顔になると麦茶を用意するために食器棚に手を伸ばす。

 なんだろう、料理するにしても息が合うようになってきたぞ……!

 いい感じにさらに分けたそうめんにごま油と塩をちょっとかける。これがあるとないとじゃあ食欲がかわってくるんだよなぁ。

 ごま油って死ぬほど腹減らない?

 あつあつの麻婆茄子をどろっとそうめんの上にかけてできあがり。

「ユリカちゃん、フォークとお箸どっちがいい?」

「お箸かなぁ」

「了解っす」

 カランカランとこおりの入ったデカンタに麦茶が注がれて、ユリカちゃんが涼しげなグラスを運ぶ。夏っぽいなぁ。

「あっ、ゆうくん。Tシャツ着替えないと。白じゃあ飛んだら大変だ」

 ユリカちゃんは慌ただしく寝室に向かうと部屋着の黒Tを投げてよこす。そしてユリカちゃん自信も白っぽいシャツを脱いで汚れてもいい古いタンクトップに着替えた。

(家だからいいんだけど……そのタンクトップ透けるから目に毒……じゃなくて破廉恥なんだよなぁ)



「いただきま〜す!」

 ユリカちゃんはタンクトップ姿のままそうめんをすする。ちゅるちゅると不思議なくらいすすっていく彼女を見ていると本当にさっきまで食欲がなかったのかと疑いたくなるくらいだ。

「ん〜! からくておいひい」

 唇が麻婆茄子のオレンジ色に軽く染まったままにっこりと笑うユリカちゃん、ユリカちゃんがご満悦ってことは結構辛いな。

 さっき味見したときはそんなでもなかったけど……俺はそうめんをすすりながら若干辛さにむせそうになり冷たい麦茶で口の中をリセットする。

 香ばしいごま油のおかげでだいぶ緩和されているが結構辛い。じりじりと首筋から汗が染み出してくる。

 でも、止まらん。うま。

「やっぱりゆうくんは天才だぁ」

「いや、多分レトルト会社が天才っすね」

「いいえ、私のゆうくんが天才です。あっ」

 ぽとっと音を立てて麻婆茄子のひき肉がユリカちゃんの胸の上に落ちた。谷間があらわになったタンクトップの柔らかそうな胸の上に落ちたひき肉はユリカちゃんが動いたせいで谷間に吸い込まれていった。

「あっ……」

「だっ、大丈夫?」

 おれはとっさにティッシュをとってユリカちゃんに渡す。

「ゆ、ゆうくん、拭いてくれる……?」

「えぇっ?」

「だって、これ以上動いたらもっと下に行っちゃうし」

 俺は少し迷う。

 なんだろう、いつも以上に緊張するような……?

「ゆうくん、早く〜」

「わ、わかったよ」

「やさしく……ね?」

 ここでの必殺上目遣いは大罪である。

 どうやらユリカちゃんの夏バテはもう治ったらしい。

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