第29話 夏バテ間宮さん(1)
兄貴の店での企画、それから留学生の世話に新しいプロジェクト。夏も本格的に進む中でやっと取れた休日、どこにいくでもなくゴロゴロしていた。
「ゆうくん〜、つかれました」
間宮さんはゴロゴロとねっころがったままソファーから降りると体を起こして俺の背中に抱きついてくる。
クーラーかけてるのに熱い。あとちょっと重い。
「ユリカちゃん、頑張ってるっすもんね」
兄貴の店の企画を留学生のアリスと一緒に頑張っているユリカちゃん。月替りの海外郷土料理のメニューを外国語でPRするという結構大変な案件で、本来であれば木内さんか相馬さんにやらせたいところだったが、ユリカちゃんがどうしてもやりたいと聞かないので任せていた。
家族がいないユリカちゃんにとってうちの兄貴やマリコさんは初めての家族、大事にしたいというユリカちゃんの気持ちを尊重したかった。
「ゆうくんが癒してくれないと溶けちゃう」
ぎゅむぎゅむと背中に押し付けられるふわふわの肉の感触。熱い……。
じわっと汗が滲むのを感じて俺は腕時計を眺める。もうすぐ13時。昼時は少し過ぎてしまっていた。
「ユリカちゃん、お昼ご飯食べますか」
「うう〜、なんか食欲ないんです」
「夏バテっすかねぇ」
「ゆうくんが癒してくれたら治ります」
ぐりぐりと俺の背中に顔を擦り付けるユリカちゃん。完全に駄々をこねる猫みたいである。
「出前にする?」
「ううん、ゆうくんの手作りがいいもん」
「じゃあ、離れてくれないと作れないっすよ?」
「やだぁ」
「ユリカちゃんはわがままっすねえ」
「ゆうくんのいじわる」
ユリカちゃんの細くて白い腕がぐるりと俺のおなか側に回ってきてぎゅうと強く締め付ける。可愛らしい水色のネイルは一緒に選んだやつ。ネイルなんてのものは興味がなかったけど、ユリカちゃんに勧められるまま見てみたら意外とデザインが凝っていて面白い。
俺はデザイナーを目指していたわけじゃなかったけどちょっと楽しかった。
「ほら、ご飯食わないと元気でないっすよ?」
「むぅ……」
ユリカちゃんは嫌々ながら俺を解放すると「食欲がないんです」としょんぼりする。
確かに、疲れと暑さゲージがMAXになるとゼリーとかしか受け付けなくなるよなぁ。かくいう俺も正直がっつりは食えそうになかった。
「ユリカちゃん何食べたいっすか?」
「うーん、ゆうくんは?」
よいしょと立ち上がったユリカちゃんはキッチンに向かう俺にひょこひょこ付いてくる。
「何作るの?」
「うーん、ユリカちゃんが好きな辛い感じのやつで、簡単に作れて、そんでもって食欲なくても食べれそうなもの」
「ゆうくん天才?」
「そんなことないっすよ?」
「天才、好き」
ぎゅうと抱きついて離れないユリカちゃん。
「じゃあ、座って待っててくれますか?」
「くっつくのはダメ?」
「危ないからダメ」
「ゆうくんを盾にするからぎゅうしてていい?」
「ソファーでいい子に待っててくださいよ」
「うーん、お口が寂しいなぁ?」
いたずらっぽく笑うユリカちゃん。
俺は冷蔵庫からソーダ、氷を取り出してグラスに入れる。そんでお菓子の小さなグミをいくつかグラスの中に落として太めのストローを指す。
「なんちゃってタピオカです、飲んで待っててくださいな」
ユリカちゃんは透明でしゅわしゅわなソーダの中に落ちた色とりどりなグミに目を輝かせる。
「ゆうくん! これSNSにアップしていい?」
おっ、ユリカちゃんの興味が俺以外に向いた。よし、料理に集中できそう。
「もちろん」
「これ、グミの種類を工夫したらエモエモだぁ」
ソーダを持って我が家の撮影スポットに向かったユリカちゃんを見送りながら俺は材料の準備を始めた。
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