第28話 義姉さん(2)

「なるほどねぇ」

 

 電話口の兄貴の元気のなさに俺はなんとなく察したがやっぱり経営状態が良くないらしい。オフィス街の洋食屋。もちろん、兄貴の料理は最高に美味しいし、ディナーに出てくるワインも絶品で俺は大好きだ。

 けど、世の中ってのは流行り廃りがあってやっぱり人間ってのは新しいものが好きだ。


「まぁ、でも喧嘩はよくねぇよなぁ」

「ついな」


 兄貴は「あとで謝る」と言っているが、マリコさんと兄貴は幼馴染(俺もだけど)だから喧嘩するとお互い素直になれなかったりする。


「とりあえず、今日はうちに泊まってもらうよ。兄貴も頭冷やせよ」

「おう、サンキュ。間宮さんによろしく」


 電話を切って、俺はスマホをポケットに突っ込んでコンビニへ向かう。

 女二人、アイスに甘いものに……酒は悪酔いしそうだから炭酸にでもしとくか。マリコさんとユリカちゃんの好きなものを買って、俺は家へと戻った。


***


「ゆうくん、おかえり〜!」

 インターホンの音を聞いてお出迎えしてくれたユリカちゃんはなんだか楽しそうだ。

「おぉ! お姉さん! 物資がどどきました!」

「あらぁ、ありがと」


 てっきり沈んでるかと思ったがこいつらなんか楽しそうだぞ……?


「ユリカちゃん、何してるんすか?」

「あっ! ゆうくんみちゃダメ! お部屋でねんねしててくださいね!」


 ユリカちゃんはテーブルの上に広がったあれこれを見ようとした俺の目を手で優しく塞ぐと抱きつくようにして俺を部屋に追いやった。

 なんだ、なんだ。

 兄貴は結構落ち込んでたぞ! 女たちはすごく楽しそうだ。なんだろう、俺と兄貴の杞憂だったみたいだ。


「ゆうくん、今日はさみしいけれどおあずけです」


 ユリカちゃんが俺をベッドに座らせると「あしたね?」囁いて、部屋を出て行った。


 あぁ……まじで結婚したらあの二人義理の姉妹になるんだよなぁ。気が強くてサバサバしたマリコさんとポンコツで天然なユリカちゃん。合わなそうって思ってたけど……なんか意気投合してね?

 なんなら俺よりも仲良くねぇ??


(きになる)


 俺はそっと足音を立てないようにドアまで向かって聞き耳をたてる。


「へぇ、それいいかも」

「あの辺って実はたくさん外国籍のビジネスマンが多いんですよ! 今日留学生の子が言ってたんです。故郷の味がたま〜に恋しくなるって。商社に勤めていたお姉さんなら月替わりの海外の料理企画を作るのもささっとですし、お兄さんもレシピ開発のモチベが上がるんじゃないかと。それに、新しいものを出してちゃんとPRすれば流行り物好きの方や新しもの好きの方の来客、それから少し飽きてしまっていた常連さんも呼び戻せると思います!」

 ユリカちゃん……なんて成長なんだ。

 俺は思わず拍手しそうになって我慢する。ユリカちゃんは広報として客足が減っている兄貴の店に提案してるのだ。

 料理はできなくてもPRに関してはプロ。ユリカちゃんにしかできない仕事。それをするために兄貴たちの良さやマリコさんの良さ、そして海外で働きたかったというマリコさんの夢を日本にいながらも叶えられるような企画。

 確かに、大手のレストランは「変わらない味」と「季節限定、期間限定」のメニューを作ることで客離れを回避し、流行り物好きや新しいもの好きの客の取り入れにも成功している例がある。

 モチベーションが「売上」のみだった兄貴も毎月メニュー開発があればモチベーションが保てるだろうし、海外に触れる仕事が好きだったマリコさんもやりがいを感じられるかもしれない。

 これはユリカちゃんの人を思いやる気持ちが大きいからこそ出てきたものだろう。

「それでいうとね……こっちもいいかも」

 マリコさんが言った。

「そ、そうだったんですか!」

 ユリカちゃんは大きな声を上げる。

(あぁ、俺が出てくひ必要はないよなぁ、寝るか)


 俺はきゃいきゃいと騒ぐ女子たちをバックに眠りについた。

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