第26話 襲来(2)
「マリコ・・・さん?!」
ユリカちゃんとスーパーでの買い出しを終えて家に着いた俺たちを待ち伏せていたのはマリコさんだった。俺の義姉。元バリキャリの現ソムリエで俺の幼馴染。いつもは気が強くて自信満々で男子顔負けの強さを誇っている彼女だが、俺たちの部屋があるマンションのエントランスで待ちぼうけする姿はどこか悲しげだった。
「ゆうちゃん、ユリカちゃん」
「義姉さん」
ユリカちゃんは悲しげなマリコさんに駆け寄ると心配そうに顔を覗きこむ。
さらっと言ったけど、ねえさんって。
「今日、泊めてくれないかな」
俺は頷く。
ちょうど今日は三人でも十分な量を作れる炊き込みご飯の予定だし、食うには困らない。それに、マリコさんがあの顔をするのはよっぽどのことが起こった時である。
兄貴の野郎。なにしやがったんだ。こっちは職場でも忙しいのに、ったく。
***
「美味しいっ」
インスタントの炊き込みご飯も一手間加えてあげるだけで一段と美味しくなる。ちょっと鰹節とゴマを混ぜて握り飯にし、ごま油で焼く。だし汁をかけてお茶漬けにしてもいいし、そのまま食ってもうまい。
メインは海鮮ちゃんこ。ちゃんこ鍋っていうと冬のイメージがあるが、夏野菜を使ってもうまい。今日はナスとミョウガを使ってさっぱり味噌ベース。海鮮はユリカちゃんチョイスでイカとエビ。
ミョウガでさっぱり食べながらも食欲がグイグイ進む。夏にオススメのメニューだ。
「んで、どうしたの」
俺の質問に笑顔だったマリコさんがまたあの悲しい顔になる。
「喧嘩した。アイツと」
アイツってのは俺の兄貴である。
まぁ、いい意味で兄夫婦は対等でいや……なんならマリコさんの方が強いはずだ。
「なんのことで??」
「それは、言えないの」
「心配です」
ユリカちゃんが心配そうにマリコさんを見つめる。マリコさんは困ったように笑って「しょうもないことだからさ、でも少しだけ頭を冷やしたくて。ごめんね、二人の邪魔して」
マリコさんらしくない。
こりゃ重症だな。
俺はこっそりユリカちゃんに目配せをする。ユリカちゃんは瞬きで返事をするとマリコさんに
「女同士裸の付き合いをしましょう!おねえさん!」
とマリコさんの両肩をがしっと掴んだ。
「で、でも」
尻込むマリコさんに
「大丈夫! お風呂が広いお部屋を選んだんです!」
ユリカちゃんは自慢げだが俺がだんだんと恥ずかしくなってくる。毎日お風呂に一緒に入っているのが人に知られるのはなんというか、小っ恥ずかしい。俺がガキの頃からの知り合いで本当の姉ちゃんみたいなマリコさんが相手ならなおさらである。
「あっ、ゆうくん! 今日はおタバコはお外でね!」
とユリカちゃんが追撃。兄貴に事情を聞く電話を外でしてこいってことだ。そのついでにおそらくユリカちゃんはご褒美のプリンをねだっている。
俺はユリカちゃんに「へいへい」と了承するとちゃんこ鍋のスープをぐいっと飲み込んだ。
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