第24話 好きな男(3)
日曜の夜、遅くまで映画を見ていたせいで疲労が取りきれないまま、俺は洗面台に向かった。今日はユリカちゃんが朝ごはんの担当。ユリカちゃんのレパートリーは少なめだが作ってくれるだけで嬉しい。
「ゆうくーん、ご飯できましたよぉ」
急いで顔を洗って適当に髪を整えて、食卓へ向かう。和食か、味噌汁のいい香りが朝から食欲をそそった。ユリカちゃんは朝ごはんのために早起きをしていたどころか化粧も髪も完璧ですごいなと素直に思う。
食卓に並んでいるのはちょっといびつな厚焼き卵と豆腐多めのお味噌汁。しらすおろしに納豆。質素ではあるが完璧な和朝食だ。
「おいしそうっすね」
ユリカちゃんは自慢げに腰に手を当てると「頑張りました!」と言った。はい、朝から可愛い。
「じゃあ、片付けは俺の担当っすね」
「ゆうくんが片付けの間に私はゴミ集めしますっ」
家事の分担もちゃんと始めた俺たちは同時に「いただきます」と手を合わせた。しらすおろしに生姜と醤油をかけて、納豆をご飯にかける。あぁ、行儀は悪いけど最高。
ユリカちゃんは納豆よりもしらすをご飯に乗せる派らしい。それもうまそう。
「月曜日は憂鬱ですねぇ」
「そうっすね」
ユリカちゃんにしては後ろ向きな発言だ。でも、社会人にとって月曜日とはすごく嫌な曜日だったりする。無論、サービス業なんかは曜日関係ないから人によるんだろうけど……。
「土日はずっとゆうくん一緒だから好きだけど月曜日は……」
俺が会議続きだからか。と答えを言い出しそうになったが急に恥ずかしくなる。こんなに堂々と惚気ます??
俺はてっきり、家でゴロゴロできないから〜とか仕事するのは疲れるから〜とかそういう理由かと思ったよ。
「最近はオフィスも一緒だけどね?」
俺は熱々の卵焼きを頬張る。ユリカちゃんは甘めが好みだからしらすおろしと一緒に食べると最高。
「でもでも、ゆうくんがお仕事を一緒にするのは木内さんや相馬さん、それにアリスちゃんでしょ?」
あぁ……そうだ。アリスちゃん。やっかい留学生。だけど天才で飛び級しているから女子高生なのにクッソ若いとかいうわけわからんやつ。日本の労働基準法に引っかかるとかどうとかで「見学」ってことになってるけど本人は仕事をやりたがってて当然、困っている。
なんでもアメリカでは本人が望めば現場協力できるからどうのこうのって木内さんが言ってたけど……その塩梅難しすぎません??
「あぁ、アリスちゃんなぁ」
「まさかゆうくん、外国人が好み……」
「んなわけないでしょうが。ほら、働くことはできないけど彼女が勉強したいっていうややこしい立ち位置だからどうしようかなってさ」
ユリカちゃんは「むぅ」と不満げな顔を漏らしてから味噌汁をずずっと飲んだ。まぁ、確かにアリスちゃんはモデルみたいに可愛い顔だし賢いし好みのやつも多いだろう。とはいえ、年が離れすぎているし何よりも俺には彼女がいるし。
そんなことを思いながらやきもちを焼いているユリカちゃんを見る。
「アリスちゃんは子供っすからねぇ」
「確かに、14歳かぁ。色々食べさせてあげたいなぁ」
「確かに」
「ゆうくん、アリスちゃんに日本食を食べさせる会やりましょう! グローバルをアピールして……」
ユリカちゃんも変わったな。
ぽんこつ広報だった彼女が今では自分でネタを集めてちゃんと広報している。自分に自信がなかっただけでポテンシャルはあったんだろう。
「それに……」
お、突然嫌な予感。この顔は悪いことを企んでいるユリカちゃんだ。
「ゆうくんの子供に対する態度チェックできるし……」
「ア、ハイ」
「もー! 私は本気なんだよ〜??」
ユリカちゃんは今日も可愛い。
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