第22話 好きな男(1) 相馬さん視点
初めて彼を見た時、それがあの子だということはすぐにわかった。私、相馬梨花子はずっと病弱だった。院内の小学校に通い、中学校は保健室から通うような病弱で友達もいないような子だった。
そんな私に優しくしてくれた子……そう。藤城先輩。彼は覚えてないだろう。私の苗字は変わっていたし、中学の頃とは全然違うから。
藤城先輩は中学生の頃ぼっちで、陰キャだった。保健室で藤城先輩と話すゲームの話が楽しくて私は学校に通うことができた。
牛乳瓶みたいなメガネで髪の毛もベタベタの女の子。垢抜けてない私にも優しくしてくれた藤城先輩。
——でも、ちょっと遅かったみたい
私はちらりと仕事をする藤城先輩の横顔を見た。中学生の頃よりもずっとカッコよくてびっくりする。かっこよくなったのは、間宮先輩のおかげだという。
間宮先輩は幻のミス……なんて呼ばれている人だ。ミスコンの中のミスコンに輝いたのに表の世界から消え、何をしているかわからない。ネットでも私たちミスコンの後輩の中でも話題になった。
私の憧れだった。男に媚びる様子もなくただその美しさだけで階段を駆け上がって行く間宮先輩は眩しくて格好良くて可愛くて……。
「相馬さん、このクライアントなんだけどさ」
藤城先輩が私に話しかけてくれた。
でも、やっぱり覚えていないみたいだ。ちょっとだけ、寂しくなる。
「は、はい」
「どうかしたっすか? 具合、悪い?」
「いいえ、ちょっと寝不足で」
藤城先輩は「無理しないでね」と優しい言葉をくれてから丁寧な資料を送ってきた。やっぱり、この人はすごく……この人のことがすごく好きだ。
「そうだ、藤城部長。よければランチに行きませんか?」
「あ〜、今日はちょっと」
私は渋い顔をする藤城先輩を見て胸が苦しくなる。藤城先輩は間宮先輩と付き合っている。同性もしていて、二人はお揃いの指輪をつけている。真剣に結婚を考える年頃だし、藤城先輩はきっと……はじめて好きになった人と結婚するんだろう。そのはじめては、つい数ヶ月前……そう、間宮先輩だったんだ。
私がもっと早くここへ来ていたら? 藤城先輩の初めてに……私の初めてを藤城先輩にできたんじゃないんだろうか……
「すみません、ちょっとオフで話してみたいなぁ〜って」
「オフで?」
「はい、三木くんに聞いたんですけど私と部長って地元が近いらしくって。ちょっと話したいなぁ〜って」
藤城先輩のそばに座ってる間宮先輩がじっと藤城先輩に強い目線を送る。可愛らしくてきっと男の子なら嬉しくなるような可愛い視線だ。
「なんのお話なんですかっ? 私もご一緒しようかな」
「えっと、中学がいっしょっぽくて」
間宮先輩は「そうなんだ」ときょとんとする。藤城先輩は「相馬さんみたいな子がいたら目立つだろうしちがうんじゃないか?」と笑った。
そう、私は中学の頃とは別人だ。苗字も顔も全然違う。藤城先輩が卒業した後、藤城先輩に会うまでに彼が好きだと語ったアニメキャラクターみたくなりたくて努力した。整形……はしなかったけどダイエットもメイクも毎日研究してそれから誰もの憧れになるために必死で努力した。
藤城先輩のご実家が山奥へ引っ越したと噂を聞いたから、就職先はテレビ局にしようと思った。私には地元の友達はほとんどいなかったし、藤城先輩を探すすべがなかったから有名になろうと思った。そうすれば、きっと見つけてもらえると思ったから……。
「相馬さん、ランチはまた今度。そうだ、先方への挨拶回りするときにでも」
「あっ〜」
「間宮さん、これは仕事ですからね」
私はいちゃつく二人を後にオフィスを出た。財布を持ってコンビニへと向かう。後一歩、後一歩早かったら……。
でも、どうやってアピールしたらいいだろう? 私、彼女持ちの男にアピールする悪女みたいじゃない。どうしよう、ずっとずっと同じ人を好きだったせいでなにもわからない。
——間宮先輩が羨ましい
涙が溢れそうになってぐっと食いしばったときだった。
「相馬さん——」
私を呼んだのは木内さんだった。
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