*100話記念* 特別編 ③ 間宮さんと……


「花火、終わっちゃいましたねぇ」


「終わっちゃったね」


 花火の煙が消えてしまった。まだ俺はあのキスの余韻で心臓がドキドキしている。俺の前にいるユリカちゃんに聞こえてしまっていないだろうか。ちらり、とユリカちゃんをみると……うなじから覗く背中がなんとも言えず色っぽい。


「ゆうくん、ご飯の前にお風呂入りたいな……? 汗、かいちゃったし。お風呂のあとにご飯食べて、お酒のも?」


***


 夏らしい涼しげなミントの香りの泡風呂の中で俺とユリカちゃんは珍しく向かい合っている。ユリカちゃんは俺を見てニヤニヤ。


「浴衣を脱がしてって言った時、ゆうくん動揺しすぎだよ」


 にへへ。と笑うと俺の方に泡を手ですくって吹いてくる。そりゃそうだ。あんなに可愛い浴衣を脱がしてなんて言われて……それに浴衣って意外と薄着なんだなって思ったら……

 俺は邪気を振り払うように意識を無にしたんだ。全く。


「浴衣は着るのは大変なのに脱がすのは簡単だねぇ? ゆうくん」


 とニヤリ。そして少し俺に近づいて俺の胸に手を当てる。


「あっ、ドッキドキだ」


 俺は顔が熱くなるのを感じで思い切りそっぽを向く。恥ずかしすぎる!!


「そ、それは……ユリカちゃんがいつもより、セクシーだから」


「ゆうくんのえっち〜!」


 バシャバシャと水を掛け合う俺とユリカちゃん。可愛いメイクを落としても可愛いまんまだ。

 ユリカちゃんがぎゅっと俺の腕を掴んで自分の胸に押し当てる。ふわりとした柔らかい触感の後に大きな鼓動を感じた。ドキドキ……してる?

 ユリカちゃんは真っ赤になって、恥じらっているように俯くと


「浴衣のゆうくんカッコよかった……し、それに……一緒に花火見れて嬉しかったから」


 と言った。お互い胸に手を当てた状態でしばらく時間がたった。いつもと全く違う状況で、新鮮で、心臓が飛び出そうなくらい音を立てている。


「来年もこうして二人でお祭り行ったり花火を見たりしたい。他にもたくさん、クリスマスとか、バレンタインとか……全部のイベントの初めてをゆうくんにしたいの」


 ——初めて……?


「ユリカちゃん?」


「ん?」


「はじめて……だったの?」


 ユリカちゃんは「ムッ」と不満げに眉を寄せると


「好きな男の子と夏祭りデートするのなんて初めてに決まってるじゃないですかっ……ゆうくんが初恋の人……なんだから」


 ユリカちゃんくらい可愛くてキラキラした女の子ならもっと経験があるって思ってた。パリピでやりらふぃーなことだってあったろうって思ってた。

 でも……俺の目の前で恥じらっている彼女は嘘なんかつかない。


「俺がはじめて……」


 ちゃぷん、と水音がなった。ユリカちゃんが俺に抱きついて、俺はあまりの勢いで沈みそうになった。背中が湯船に強く押し付けられて痛い。でも、ユリカちゃんの話してくれた事実が嬉しくてそんなことどうでもよかった。


「だから、これからたくさんデートして、いろんなイベントに付き合ってほしい……な」


 俺はそういうイベントとか、苦手で避けてきた。というか一緒に行く相手もいなかったから……。


「私のお祭りの思い出は……母と食べたりんご飴のことと、今日、ゆうくんと楽しかった思い出だけなんです。来年は……売り切れだったチョコバナナを食べて、それから、花火をみて……何年も子供が何人増えてもしたい……な」


 どうしよう。

 今日のユリカちゃんは可愛すぎる——!


***


 ベッドの中で眠っているユリカちゃんを起こさないように、俺はそっとベッドを出た。キッチンの換気扇の下に移動してタバコに火をつける。


(ユリカちゃんと住み始めてから本数減ったよな)


 ユリカちゃんは別にタバコを嫌だとかそういうことは言ってこないし、家の中が禁煙って訳でもない。

 でも、やっぱり……彼女のことを考えると控えるべきかなって思うようになった。俺の中でユリカちゃんが大切な人に、かけがえのない人になったと認識して心の底から嬉しくなる。


「ふぅ……」


 じゅっとタバコの火を消して、もう一本吸うかどうか悩んでいた時だった。


「ゆうくん……」


 俺のTシャツをきたユリカちゃんが眠そうに目をこすりながらキッチンまできていた。これが彼シャツ!!! 破壊力抜群!


「すんません、起こしたっすか」


 ユリカちゃんがブンブンと首を振って、俺の方に手を伸ばす。ブカブカのTシャツの首元からチラりと見える可愛いピンク色のレース。


「ゆうくんがいないから……寂しくて」


「ごめんっす」


 ユリカちゃんは俺に抱きつこうとするが俺は一歩引く。


「なんで……いやいやなの??」


「ほら、今タバコ……」


 ユリカちゃんはぼすっと俺に抱きつくと「いいもん」と言った。


「ゆうくんだから、タバコの匂いがしてもいいんだよ? でも勝手にどっかに行かないで」


むぎゅうと抱きしめられて俺は2本目のタバコを諦める。寝起きのユリカちゃんは体温が高い。彼女を抱きしめているうち、俺にも眠気が襲ってくる。


「ゆうくん、寝よ?」


「う、ん」


 ユリカちゃんが俺を引っ張るようにベッドにひきいれてすやすやと寝息を立て始めた。



*** *** ***


ほとんど100話記念の特別編をお読みいただりありがとうございました!

いつもに増してイチャイチャな二人お楽しみいただけたでしょうか・・・?

今後は本編に戻ってライバルあり、新しいヒロイン登場あり?? のドタバタイチャイチャをお届けできればと思います!

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