*100話記念* 特別編 ① 間宮さんと……
このお話はどこの時系列ともわかりません。
本作がほとんど100話記念に、たっぷりの糖分をお届けするために書きました
特に時系列や場所にこだわりなく糖分摂取してくださいませ
*** *** *** ***
ジジジジ——
セミの声がうるさいくらいに響いている。お盆休みだと言うのに俺もユリカちゃんも家の中でゴロゴロしていた。
タンクトップにショートパンツ姿のユリカちゃんは大変無防備で色っぽさが増している。手に持ったアイスバーをぺろり、ぺろり。うまそうに食べやがる。
「ユリカちゃん。せっかくのお盆休みだしどこか行きますか?」
「出不精のゆうくんからお誘いなんて……嬉しくて泣いちゃう」
と言いながらもにんまりと笑顔になったユリカちゃんは食べかけのアイスバーを俺の方へ向ける。俺が戸惑っていると無理やり口に押し付けて
「おいしい?」
と上目遣い。汗ばんだ肌とタンクトップの高い露出。棒状のアイスを手に持ち、とろりとしたアイスがユリカちゃんの唇にもついている。
男泣かせなユリカちゃんの表情は無邪気だから、それが逆に刺激を増している気がする。
「おいしいっす」
「えへへ〜、間接キッス〜」
それ以上のことなんて何度も……。でも、間接キスにドキドキしてしまう自分がいた。ユリカちゃんが可愛すぎるせいだ!
「で、どっかないっすかねぇ」
「ゆうくん、暑いの嫌いじゃん?」
「ま、まぁ……その屋外でスポーツとかは嫌かなぁ」
「うーむむむ……」
ユリカちゃんはアイスを口にくわえると膝を抱えて考え込んだ。俺の彼女はなんて可愛いんだろう。考え込むってことはスポーツがよかったのかな?
「あっ!」
突然思い立ったようにユリカちゃんは立ち上がると食べかけのアイスバーを俺の口にねじ込んで玄関の方へとかけて行った。バタバタ、バタバタ。秒速で戻ってきたユリカちゃんは俺の目の前に一枚のビラを広げる。
「じゃじゃーん! 明日、近くの公園で夏祭り! 絶対に行きたいっ! 花火も見れるよ!」
というのも、この地区の自治体が開催する小規模のお祭りだ。そういえば、そんな時期か……。このお祭りは区が主催する花火大会に合わせて毎年開かれていて、太鼓と盆踊りの音色が心地よくて俺はよくベランダから眺めていたっけ。
「夕方からだから涼しくなっているし、乗った!」
「えへへ〜。ゆうくん、楽しみにしていてね」
意味深な笑顔。ユリカちゃんはアイスを食べ終えると立ち上がり。
「ちょっと行ってくる!」
と拳をあげると爆速で着替えてどこかへ出て行った。置いてけぼりを食らった俺は呆然としながらも彼女の背中を見送った。
***
「んーしょ!」
向かい合って立っている俺とユリカちゃん。ユリカちゃんが俺の脇腹あたりでゴソゴソと手を動かす。くすぐったくて俺はつい身をよじる。
「動いちゃダメっ!」
ぺしん。とお尻を叩かれて俺はぐっと笑いを堪える。浴衣ってこんなにヒモで縛るっけ??
つい数分前のこと。兄貴の奥さんであるマリコさんから借りた浴衣を持ってユリカちゃんが言い出したのだ。「着付けてあげる」と。なんでも、ユリカちゃんは着物の着付けを習っていたことがあるらしい。
「やっぱり、男性の着付けは初めてだから……むずかしいっ! むんっ!」
「ぐっっ」
俺の腰がしまって変な声が出る。
「ゆうくん、ごめんっ、痛かった?」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
全然大丈夫じゃないけど笑顔を作って不安げなユリカちゃんの頭をぽんぽんと撫でる。まるで子猫みたいに頭を手のひらに擦り付けてユリカちゃんは顔を真っ赤にした。
「ゆうくん、似合いすぎ……」
さっきの腰への痛みは最終段階だったみたいだ。結構渋めの帯がぐっとしまって、それをユリカちゃんが腰骨まで下げる。様になってきたな。確かに、かっこいいかも……? 俺みたいな陰キャ地味顔でも浴衣って結構様になったりするんだよな。
「じゃあ、ゆうくんはリビングで待っててねっ。絶対にみちゃダメだからねっ、あと、着崩さないように!」
ぴしゃりと寝室のドアが閉まった。そうか、ユリカちゃん着替えるのか……。いや、なんで見せてくれないんだい。
俺は可愛い彼女の浴衣が見たい気持ちと、暑すぎるせいかこの帯を外してもうハーフパンツとTシャツでいいだろうという気持ちが交互に現れていた。1分が長く感じる。もう少しで夕暮れ。夏祭りも本格的に始まる頃だ。ユリカちゃんに言われて両替もしてきたし、たくさん食べるためにお昼を少なめにしてお腹も空かせている。
あとは———
「おま……たせ」
寝室のドアが開いて、現れたのはまるで天女のような美しいユリカちゃんだった。浴衣はユリカちゃんらしいネイビーの地にヒマワリをあしらった華やかなもの。白いレースの帯には黄緑色の刺繍が入っていいバランスを取っている。
ふわふわに巻かれた髪を結い上げて絶妙な後れ毛とうなじ、それから可愛いお魚のピアス……。
俺はかつてこんなに美しく浴衣を着こなす人は見たことがなかった。まって、誰にも見られたくない。
「ユリカちゃん、やっぱり私服でいきませんか……?」
「な、なんでっ? 似合って……ない?」
「いえ、そうじゃなくて……」
こんなに可愛い彼女を誰にも見せたくないと行ったら怒るだろうか。
「か、可愛すぎて」
俺の言葉を聞いた瞬間に、不安げだったユリカちゃんの瞳がうるっと輝き、俺の胸に彼女が寄り添った。
「ゆうくんだけの……だよ??」
ユリカちゃんは背伸びして口紅がつかないように俺の頰にちゅっとキスをする。あまりにも可愛くて、息が荒くなる。
「だーめっ。お祭りと花火を楽しんだら……ね? それまでは我慢だよ?」
お姉さんぶって俺のおでこをつつくと、すぐに悪戯っぽい笑顔になるユリカちゃん。ぐいっと俺の腕を引き
「さっ、たくさん食べるぞぉ!」
俺たちは夏祭りへと出かけるのだった。
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