第18話 結婚したら(2)間宮さん視点
ゆうくんの腕まくりをしながら私は彼のちょっぴり広い背中にきゅんとする。ほそっこく見えて触って見るとやっぱり私とは違う男の人って感じだ。
きっとドキドキしているんだろう。ゆうくんはガチッと体に力を入れてあわあわする。ちょっといたずらしたくなって私は「ちゅう」と彼の首筋に吸い付く。
「ゆ、ユリカちゃんっ?」
ドギマギしたリアクションだけど、洗い物中のゆうくんは私を振り払うことはできない。背伸びして彼のうなじあたりをスンスンする。本能的なのか私が一番好きな匂いだ。
好きな人の……運命の人の匂いが好きになるとどこかの本で読んだことがある。やっぱり、ゆうくんは私だけのゆうくんだ。
「お風呂……先に入る?」
***
ベッドで寝息を立てるゆうくんは付き合い出した時よりもちょっぴりリラックスしてくれるようになった。昔はベッドの端っこで私を気遣うように寝ていたのに。
私はそれが嬉しくてぎゅっと彼の背中に抱きついた。ゆうくんだけの匂いがして、すごく好きだ。
——この人と結婚するんだ。
そんな私には最近不安がある。
あの、相馬さんとかいう新しい社員だ。ゆうくんのことを信頼していないわけじゃない。でも、私が彼女に勝てる……自信もない。
そして、私と木内さんが感じたあの相馬さんへの嫌な勘。あの子はきっと「他人のものが好きな子」だ。
***
私はいつもより早く起きて、キッチンに立ってみる。ゆうくんがいつも美味しいご飯を作ってくれるキッチン。几帳面に整頓された食器や料理道具、一緒に選んだグラスと家電。
私は何がどこにあるのかわからなくて涙が出そうになる。私は男の子の理想の女の子になれているのだろうか。
「ユリカちゃんはそのままでいい。美味しく食べてくれるユリカちゃんが俺は好きです」
優しくてあったかい、ゆうくんの言葉。
本当は我慢してたら? 他に完璧な子が見つかったら?
私はお母さんみたいに……ぽいっと捨てられてしまうんじゃないの??
初めて好きになった人を、ずっと一緒にいたい人を取られてしまったら私……。
エプロンを引っ張り出して、冷蔵庫から卵を取り出す。えっと、調味料は……あれ? どこだっけ……。そうだ、シンクのほうの引き出しで……やばいっ、火が強すぎたかも??
あっ、換気扇回さないと!
ガチンと換気扇を回し、焦げ臭い匂いの卵をひっくり返して、それから炊飯器のスイッチを入れる。焦れば焦るほど、うまくいかない。
「みんなが憧れる理想の奥さん」、ゆうくんだってきっと好きなはずだ。
「で、できない……」
「ユリカちゃん?」
寝ぼけた顔でゆうくんが寝室から出てきていた。私は大好きなゆうくんを見てしまったら涙が堪えられなくなってうわっと溢れてしまう。
「ど、どうしたんすか」
心配そうにゆうくんが言った。
「ゆうくんに……ごはんっ……奥さんになりっ……うぐっ」
ゆうくんは私に近寄ると卵を焦がしていた火を止めてそっと私を抱きしめてくれた。
「俺にご飯、つくってくれるんですか?」
「うん……でもうまくいかなくて、私……理想の奥さんに……」
「ユリカちゃんには……俺の理想の奥さんになって欲しいです」
——えっ……?
予想以上の言葉に私は涙を止めることはできない。そんな私を見てゆうくんはあわあわと慌ててティッシュを取りに走った。
私、勝手に心配してバカみたい。ゆうくんは私のこと好きでいてくれているんだ。
「ゆうくん……一緒にお料理しませんか……?」
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