第14話 あざとい系女子には要注意(2)


「彼女さんが作ってくれたんですか?」


 相馬さんは俺の弁当を覗き込むとにっこりと微笑んで俺を見つめる。


「いや、料理は俺が担当なんで」


「へぇ〜、じゃあ藤城部長がつくったんだぁ。よかったら交換しません?」


 相馬さんは可愛らしい女の子っぽいピンク色のお弁当箱をパカっと開いた。さっぱり系の塩唐揚げと赤いソーセージ、黄色い卵焼きに小さな胡麻団子。お米は少ないが古き良き紫蘇系のふりかけが彩豊かだ。

 

「えっと……」


「もーらいっ」


 まるで悪戯っ子みたいに顔をくしゃりと笑顔にした相馬さんは無邪気に俺の弁当の中のポテトを掴んで食べた。


「んふっ、おいひぃ。これ、シーズニングかけてますよね?」


 おぉ、さては料理好きだな?

 俺は相馬さんの揺れる胸を見ないようにしながら「ありがとう」と礼を言った。


「あっ、これ本当は鶏肉にかけるシーズニングだ」


「そうなんすよ。ハーブ鷄用のシーズニングを冷凍ポテトに絡めてからフライパンで焼くだけで味付きポテトになるのでオススメです」


「一回、ワクドナルドのポテトにシーズニングかけて焼くアレンジがバズりましたよね〜。おつまみ感あるって感じだけど、お弁当にも良いですねぇ。私も明日やってみようっと」


 相馬さんは人の懐に入るのがとても上手い子だな。と思った。不器用な間宮さんとは真逆で、とても自然に「この子いい子だな」と思わせてくる。俺みたいな陰キャにもまっすぐ瞳をみて話してくれる、笑ってくれる。元アナウンサーレベルの雲の上の存在がまるで俺のことを好きみたいに……。


「あっ、スクランブルエッグは甘い方なんでふね」


 もぐもぐ。小さな口いっぱいにスクランブルエッグを食べる相馬さん。


「代わりにどうぞ」


 と俺の弁当箱に彼女が作ったであろう形の良い卵焼きが乗せられた。俺は「いただきます」と彼女に言ってから卵焼きを口へと運ぶ。卵の風味を壊さない良い出汁、塩味だがかすかに砂糖の甘みが舌に広がる。


「うま……」


「ありがとうございまーす」


 相馬さんは満面の笑みだ。俺の前で有名キー局の元アナウンサーが微笑んでいる。彼女お手製のお弁当を食べ、微笑みかけてもらっているのだ。なんだろう、エンタメ業界で働いていて……よかった。


「そうだ、彼女さんってどんな方なんですか?」


「まぁ、それはいいじゃないですか」


「えぇ〜、でも結婚はしてないんですよね?」


「あぁ、まぁ……でも前提ではあります」


 俺の言葉に相馬さんは口を尖らせた。どうして彼女が拗ねたような表情をするのか理解できなくて、俺は一瞬フリーズする。いや、既婚者じゃないと信用できないとかそういう系か?

 それは関係ないだろう。

 間宮さんに嫉妬? 間宮さんと俺が付き合っていることは知らないはず。


「えっと、どうかしましたか?」


「私、藤城さんのことタイプだなぁって思ってて」


 さすが陽キャのトップオブトップである。ミスコンの中のミスに輝いて、さらには日本で数人しかなれないキー局のアナウンサーの座を手にした女の子は男にアピールするときはこんなにもストレートに口に……


 俺はわけのわからん思考を止めて冷静になる。


 ——俺が……タイプ???????


 

「絶対に、彼女さんよりも私の方がいいって思わせて見せますから。ねっ、ぶ・ちょ・お」


 相馬さんが掴んだ塩唐揚げが俺の口元に、相馬さんはちょっとセクシーに唇を開いて「あーん」という。

 俺はまるで生まれたばかりの雛鳥のように口を開け放り込まれた唐揚げを食べる。オフィスランチ用にニンニクなしのシンプルな塩唐揚げ。某チェーン店みたいにくるっと丸められた鳥もも肉がジューシーで下味は塩麹だろうか。うまい、程よく味が濃いのも良い。


「えっと……その」


「私、諦めませんよ。藤城部長は絶対に私を選びます。彼女さんには悪いけれど、私を好きにして見せますから」


 にこっと微笑んで相馬さんはおとなしく弁当を食べ始めた。


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