第12話 新居でペッパーランチ!(2)
口の中に広がるニンニク醤油の香り、程よく歯ごたえのある牛肉とおこげ混じりのコメ。甘いコーンがいいアクセントになり止まらない。
ユリカちゃんのグラスに赤ワインを注ぐと彼女が艶やかに微笑んだ。
「ゆうくんのご飯は世界最強です!」
ほろ酔いのユリカちゃんが満足げに目を細めると俺は少しだけ誇らしい気持ちになる。どんなことでも兄貴に勝てなかった俺。
——ユリカちゃんの世界一になれたんだな
ユリカちゃんはぐいっとワインを飲み干すと「もういっぱいです!」と差し出してくる。飲みっぷりがいいな。全く。
「さてと」
「さてと?」
ユリカちゃんはワインに口をつけながら不思議そうに俺の方を見る。グラスの中の赤ワインが反射しているのかユリカちゃんの顔がふんわり赤くなっていていつもより色っぽいな、と思う。
「追いチーズの時間です」
俺の言葉にユリカちゃんはグラスを置くとパチパチと可愛く手を叩いた。
ヘラで肉を細かくしながら少しだけニンニク醤油を足してチャーハンみたいなものを作る。いい感じに炒められたらピザ用チーズをかけて蓋をして1分。
「待っている時間も楽しいですね」
俺が声をかけるとユリカちゃんはにっこり。ほろ酔いだからか目が潤んでいてなんとも可愛い。
世界一なんて褒められたら俺も調子に乗ってしまう。
「暑いので気をつけてくださいよ」
「はいはーい」
ユリカちゃんがミトンをつけて蓋を掴む。蓋をあけると広がる湯気とニンニク醤油の香り。そして、チーズの香り。
俺は溶けたチーズの上にガーリッククルトンを適量乗せて黒胡椒を少々。食事というよりおつまみ感が増す味付けだが美味しいはず。
とはいえ、付き合いたてのカップルにはオススメしない。ニンニクパラダイスである。
「いただきまーす!」
熱々になったペッパーランチ炒飯にとろけて伸びるチーズ、カリカリのクルトンの食感がおもしろく、黒胡椒のスパイスがピリッとお酒を誘う。
***
——ちゃぽん
乳白色のお湯が少しだけ揺れる。
俺の前に座る小さくて華奢な白い肩。髪をまとめているので若干俺に当たってくすぐったい。
酒を飲んだのでシャワーで済ませようと思ったのにユリカちゃんに乗せられて半身浴に付き合わされている。
「ゆうくん、最近オフィスに女の子増えましたね」
「えっと、そう?」
「うん……。あの綺麗な人とか」
「綺麗な人?」
考えて見る。木内さんもヒナちゃんもユリカちゃんレベルではないが普通に見たら美人だ。高校のクラスで言えばトップ5には入ると思う。木内さんはおしとやか系の美女で、ヒナちゃんは人懐っこい小動物系の美女。
「相馬……とかいう子」
あぁ! そう言えば、入社後数週間は本社研修でほとんど顔を合わせていなかったので忘れていたがそう言えば……。
「最初の顔合わせ済ませてからほとんど会ってないから忘れたよ」
「あの子、ミスコンの頂点に立ってて……しかも元アナウンサーだよね?」
「確か」
「私、心配なんだ」
ユリカちゃんの背中が少しだけ小さく見える。最近の様子がおかしかったのはこれが原因か。
「俺と一緒じゃないっすか」
「えっ!」
ユリカちゃんがバッと振り返るとすんごい近くで見つめてくる。期待と関心がおり混ざったような瞳がキラキラと輝く。
「俺も実は、心配だったんです。ほら、イケメンくんが入ったでしょ?」
それを聞くと、ユリカちゃんが「はぁ」と軽蔑するように鼻を鳴らすと
「奴はライバルです」
と眉間にしわを寄せた。そうか、ユリカちゃんは三木隼人を異性としてではなくライバルとしてみたのか。
俺は勝手に嫉妬していた自分を恥ずかしく思った。ユリカちゃんを信用せず、自分をまたバカにしてどうせダメだとネガティブになる悪い癖だ。
「大丈夫、ユリカちゃんは立派な広報ですよ」
ブンブンと首をふるユリカちゃん。
「いやいや、業界でも結構有名な広報だと思いま……」
言い終わらないのにユリカちゃんが眉間にしわを寄せるものだから俺は言葉を止める。いつもは褒めたら喜んでくれるのに……いや、ストイックに頑張っているから嫌だった……かな?
「三木くんは……」
「うん」
「偽物さんガチ恋勢だったんです」
——はい?!
三島部長が口を滑らせていないといいけど……。それって、そういうことだよな?
あのクソイケメンが俺のファン?!
ぷくっと頬を膨らませてから俺の首に腕を回し抱きついてくるユリカちゃん。「絶対に三木くんに渡さないもん」とわけのわからんことを言いながらユリカちゃんはぎゅっと力を入れてきた。
(男の子にも嫉妬するんだ……可愛すぎ)
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