第6話 超大型新人(2) 間宮さん視点


「三木隼人です。よろしくおねがいします」


 私の前でお辞儀した彼は社長のコネで入社した初めての後輩だ。社長に「広報が二人体制になるよ」と言われた時、てっきりゆうくんと一緒にまた働けると思ったのに。残念。


「よろしくお願いします! 間宮ユリカです」


「間宮さん、SNS見ましたよ。バズった会社広報さんで有名ですよね」


 三木くんはふわりと笑顔になると席についた。多分、可愛い彼女でもいるんだろう。私に下心のある目線を向けてこないのがわかった。彼は芸能人。きっと住む世界が違うんだ。

 そんなことより、問題はゆうくんの部署に入った女である。


【木内さん!】


 私は木内さんにチャットを送る。カメグラマーケの案件を私のSNSに掲載する関連で話すようになって、少しずつ仲良くなった。最初は私のこと苦手だったと言われた時はびっくりしたけど……でもすごくいい子だ。私がゆうくんと付き合っているのを知っている社内の数少ない一人。


【わかってる。情報は適時渡します!】


 可愛い絵文字は木内さんらしい。普段はクールに見えるのにチャットはすごく可愛い感じ。私も見習おう。


 そう、ゆうくんの部署に元アナウンサーの超絶美女が入ったのだ。ちらっと全体挨拶の時に見たけど……あざとくて嫌な感じの子。男の子なら誰でも好きって感じの服装に……上目遣いで。

 ゆうくんなら大丈夫だと思うけど……でも不安だ。私なんかよりずっと優秀で美人で……それに同じ部署で仕事したらきっと揺らいでしまうだろう。ゆうくんは私のことを好きだと言ってくれるけど……付き合うのも同棲も全部私がプレッシャーをかけたから、きっとそうしてくれているだけで……。


「間宮さん?」


「あっ、ごめん、なんだっけ?」


「俺の仕事の部分ですね。一応カメグラのSNS企画を作るってところでとまってます」


「ごめん、ごめん。えっと、バズりそうな企画をガンガン考えてもらって挑戦していくのがしばらくのお仕事になるかな。それと、先方さんへのご挨拶は機会があれば一緒にしましょう」


 あれ……?

 だめだ、ゆうくんは私の希望を聞いてくれた。やって欲しいことを押し付けるんじゃなくて私の希望を聞いてくれたのに。


「あっ、三木くんはどんなお仕事をしていきたいとかそういう希望はある?」


***


「緊急会議……ですね」


「意外に……はじめて、ですね」


 木内さんがごほんと咳払いをした。ちょっと高めのファミレス。私と木内さんは作戦会議に来ている。議題はもちろん、相馬梨花子である。


「雲行きは怪しいかも」


 木内さんはスープをくるくるとスープで混ぜながら言った。私は内臓がひんやりとして心臓が嫌な音を立てるのを感じた。


「めっちゃ嫌な子。私がレクチャーしてる時は上から目線で前の会社のことばっかり話してたのに、藤城くんの前では猫なで声だしちゃってさ。藤城部長とお仕事ができて嬉しいですっ。だって」


 私はやっぱりな……と思った。ミスコンに出る女の子のほとんどがそういう子だ。全部自分のものにしたい強欲で何よりも自分を認めて欲しいという思いが強い。どんなことをしても相手を蹴落として自分が一番になる。

 もちろん、そんな子じゃない人もいるけど……相馬梨花子の経歴を見るに多分人格に問題ありだろう。


「もうちょっと探ってみる必要はあるけど……ちゃんと捕まえといたほうがいいかもですね」


 木内さんはまるで探偵みたいに頷くと私の方に運ばれて来た料理を「先にどうぞ」と言ってくれた。


「でも、藤城くんは浮気するような人じゃないと思うし、それにあぁいう女はタイプじゃないと思いますよ。多分」


 そうやって木内さんは励ましてくれているが私は不安で不安で仕方なかった。いくら思い返しても……ゆうくんから私を求めてくれることはなかったから。いやいや付き合ってくれているんじゃないか、そんな風に思えてきた。

 

「ケッコン……ケッコンするんだもん」


 ほかほかのハンバーグを見ながら私は涙が出そうだった。もしも、ゆうくんが取られてしまったらどうしよう。

 私みたいな中身のない人間に飽きてしまったらどうしよう。


「うぅ……」


「とりあえずは、藤城くんを信じて……様子見しましょう。ほら、冷めちゃいますよ!」


 そうだ。ゆうくんを信じないで騒いでいたらそれこそ嫌われてしまう。きっとゆうくんは私のことを好きでいてくれるはずだ。大丈夫、大丈夫。

 今日帰ったらたくさん甘えて好きだって言って……たくさん伝えればいい。

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