1 超大型新人現る!

第5話 超大型新人(1)

 相馬梨花子そうまりかこは華やかな女性だと思った。彼女は元アナウンサーという経歴を持ちながら、超大手の代理店で働いていたものの「自分の裁量のない大企業に嫌気がさした」という理由で転職活動をしていたとのことだった。そんな時、三木に声をかけられてうちの会社に入ることを決めたそうだ。

 ユリカちゃんもとんでもなく美人だが、相馬梨花子はなんというか別次元といった感じだ。


「藤城部長、よろしくお願いします」


 俺は「よろしくお願いします」と挨拶をしてから木内さんに話を振ろうと思ったが……なんだか木内さんは機嫌が悪そうだった。そりゃそうだ、相馬梨花子はアメリカ人のおじいさんを持つクウォーターで英語・フランス語・日本ををネイティブで話せるトリリンガルで、韓国語もビジネスレベルで使えるという。

 さらには社長や三木と同じ一流大学卒の超がつくエリート。正直、スペック的には木内さんの上の役職になってもおかしくないのだ。


「木内さん、えっと相馬さんにはカメグラのトレンド調査から始めてもらおうと思ってるから簡単に社内を案内して最初はインターンの子たちと一緒に仕事を振ってあげて」


 木内さんは「承知です」と短く答えると相馬さんを連れてミーティングルームの外へと出て行った。木内さん、変わったな。

 ライバルなんて作らないで身を引くような子だったのに、きっと今の仕事が大好きだからこそ取られたくなくて敵意が出てしまっているんだろう。

 こういう時、上司である俺がうまく立ち回って両方が気持ちよく仕事ができるように配慮しないといけないんだよな……。


「国内のクライアントを少しずつ任せるかぁ……」


 木内さんの希望は海外クライアントや海外のカメグラマーとのやりとりだから彼女と衝突させないためには一旦、国内の仕事を相馬さんに任せるのがいいだろう。相馬さんは語学も堪能だが、大手の代理店にいたこともあって顔が広いしそっち方面で力を伸ばしてもらうことにしよう。もしくは、英語圏は木内さんに、アジア圏は相馬さんと言った風に分けてもいいか。


「ぶちょお! みてくださいよ!」


 と俺にクソデカボイスで声をかけて来たインターンのヒナちゃんはスマホの画面をこれでもかと俺に見せてくる。

 大学留年決定のこの元気っ子はとにかく明るい。留年してるんだから勉強頑張れ……ほんと。


「なんだ、なんだ」


「うちの会社にハヤトが入ったって! 聞いてたけどガチだったんですねぇ。ほら、会社のカメグラ!」


 ヒナちゃんのスマホには笑顔のユリカちゃんと三木隼人。元モデルの新人広報担当の紹介写真だった。


 ——距離近くない?

 ——ってか……めっちゃお似合いじゃんか……。


「ぶちょお?」


「あ、あぁ。この前挨拶したよ。そうそう、今日入った相馬さんも三木くんのリファラルでさ。みんな社長と同じ大学の出だって」


 ヒナちゃんは「上流階級すごぉ」と言いながらスマホをタップする。


「スマホもいいけど、木内さんから依頼されたのできた?」


「はいっ! 有名サークルの洗い出し完了しました!」


 ヒナちゃんはかなり優秀だ。ムラっ気があるから木内さんに怒られることもあるが企画力・行動力共にインターンの域を軽く超えている。


「じゃあ、買い出しお願いしようかな」


 俺の言葉にヒナちゃんは瞳を輝かせた。ギャルっぽい見た目だが童顔なのでまるで小さい子と話しているみたいだ。

 おしゃれな金髪ウルフヘアーはなんというか若いなって感じだ。


「私ケバブがいいです!」


「じゃあ、俺の分も」


 財布から現金を取り出してヒナちゃんに渡す。正直、昼飯なんてなんでもいい。自分の彼女が……もしかしたら他の男性になびくかもしれない。そんな恐怖が俺の胸の中を渦巻いているのだ。

 俺みたいな顔も良くない普通以下の男が、どうやって若くてイケメンで高スペックな男に勝てるというんだ。


 俺は自分のスマホで会社のカメグラを見る。すでに数千のいいねがついていて、三木隼人のファンと思われる人たちの祝福コメントがたくさん書き込まれていた。


【先輩と初ランチ!】


 俺はそっとスマホをスリープボタンを押してため息をつく。そう、これは仕事なんだ。ユリカちゃんも三木も仕事で一緒にいて、仕事でランチをしているだけさ。大丈夫、大丈夫だ。


***


「じゃあ、私は一旦は藤城さんの下でお仕事をする感じですかね?」


 相馬さんは総務からもらったPCを可愛らしく抱えながらにっこりと微笑んだ。正直、不安なのは俺の方だ。優秀な新人と信頼関係を築くのは……初めてだし。木内さんのように同期であればなんとかなるが、彼女の場合はそもそも俺なんかとは住む世界が違う。


「よかった。私、藤城さんの噂はかねがね聞いていて、一緒にお仕事できるって木内さんから伺って嬉しかったです。よろしくお願いします」


「至らないところも多いけど、よろしくお願いします」


「一個聞きたいんですけどいいですか?」


 相馬さんは黒目がちな瞳を俺に向けて首をかしげる。


「藤城さんって彼女さんとかいらっしゃいますか?」

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