冷凍うどんの話

第1話 うどんをすする間宮さん


 

「悠介くん、どうして冷凍うどんをこんなに買うんです?」


 間宮さんと俺は週に一度の食料買い出しに出ていた。お互いに忙しくて毎日一緒に食事が取れないこともあるし、ストックできる食材は休日に二人で買い出しに出て冷凍をしている。

 野菜なんかも下処理をしてから小分けにして冷凍をすると日々調理するのが楽だし、お肉なんかも切り分けてから冷凍すると良い。


「コスパいいからっすね」


「ええっ、そうですかぁ?」


 確かに、冷凍のうどんは5パック入って400円ほどだからそこまでコストがいいとは言えない。

 俺は「まぁまぁ」と言いながらパスタコーナーに入る。

 間宮さんは「おうどんよりもパスタの方がコスパよくないですか」とドヤ顔で言っていたが、コストってのは技術料なんかも入ってくるわけで……って料理しない間宮さんには関係のない話だ。


「冷凍うどんにパスタソースかけて食べるとうまいんすよ」


 間宮さんは味を想像したのかゴクリと喉を鳴らす。


「俺のお気に入りはボロネーゼですね。やっぱりお肉系はうどんとの相性もいいし、パスタソースもチンしてかけるだけなんで楽ですし」


「そっか! 悠介くんが楽できる分パスタやご飯なんかよりもコスパがいいんですね!」


「はい、しかも味のバリエーションがパスタソースだけじゃなくてうどんソースもありますし、レトルトカレーをぶっかけると即席カレーうどんになりますし」


 間宮さんは隣の棚のレトルトカレーを手に取った。もちろん、激辛である。


「カルボナーラとかペペロンチーノ風だとフライパンで一手間入りますけどかなりうまいっす。よければ今日のランチは二人で冷凍うどんアレンジにします?」


 間宮さんは元気よく頷いた。

 ぱっとかけられる系のソースは疲れた日の夜食にしたいし、今日は少し凝った感じのうどんにするか。


「辛い系だと韓国風キムチうどんとか……俺のおすすめはチーズクリームうどんっすね。ベーシックにカルボナーラうどんは有名ですし、あっペペロンチーノ風にするんであれば鷹の爪でピリッとできますよ」


 韓国風うどんはごま油でさっと炒めたうどんと焼いたキムチ、細かくしたスパムやワカメ、ゴマが食感で食べ応えもある。

 

 間宮さんはキラキラした目で俺に「これがいいです」とパスタソースを差し出した。

 俺たちは冷凍うどんの他にも作り置きできそうなおかずのメニューを考えたり、贅沢したいからと間宮さんがグリーンスムージーの材料を選んだり……結構な時間をスーパーで過ごした。

 免許とったら二人で業務用スーパー行ったら盛り上がるな。今度兄貴たちが仕入れに行くときに連れてってもらおう。


***


 卵を割って卵黄を2つ別容器に入れる。白身の方は軽くかき混ぜたあとフライパンに入れて崩した木綿豆腐とちりめんじゃこと一緒にごま油でさっくり炒める。今日のランチの付け合せにするのだ。

 

「もう少しですねぇ」


 間宮さんは電子レンジの中でぐるぐるする冷凍うどんを眺めて言った。間宮さんは料理が苦手だけど、温めてかけるだけのこの冷凍うどんレシピであれば俺が夜遅くなってもお腹を空かせることはないし、給料日前のピンチでも乗り切れるだろう。


「熱いので気をつけてくださいよ」


「は〜い」


 間宮さんがチョイスしたのは「明太子パスタソース」だった。俺はせっかくの休日ランチだしアレンジしようかと思ったが間宮さんは明太子が大好物だそうでどうしても食べたい! とキラキラした瞳で言われたら……。

 うどんが解凍したタイミングで俺は鍋の中で温めていた明太子ソースを取り出して皿と一緒に用意する。

 

「お皿はこれですねぇ」


 間宮さんはパスタ用の少し深い皿を用意し、冷凍うどんを1パックずつ分けて出すと俺が準備したソースをかける。さっとトングでうどんとソースをかき混ぜれば明太子のいい香りが俺たちの食欲をぐいっと掻き立てる。


「のりと刻みネギをかければ出来上がりっす」


 間宮さんがトッピングをしている間に俺はさっきの炒め物を小鉢に入れて運ぶ。飲み物は麦茶でいいか。


「いただきまーす!」


 ちゅるちゅる。

 予想以上に間宮さんがうどんをすする姿が可愛くて俺は全くご飯に集中ができずにいた。汁物じゃないから勢いよくすすれないのに、うどんをたくさん口に入れたいから間宮さんはうどんをすすっている。

 

 ——なんだこの可愛い生き物は……


「おいひいれすね!」


「パスタもいいっすけど、うどんもいいでしょ?」


「ふぁい。これなら私でも美味しく作れそう」


 確かに、乾麺のパスタだと茹でるのが難しかったり電子レンジでチンするタイプのパスタだとなかなかいい感じの茹で具合にならなかったりで難しいもんな。それに保存も大変だし。

 

 ハムスターみたいに口いっぱいのうどんをもぐもぐしながら間宮さんは幸せそうに目尻を下げる。ごっくんと飲み込む前に箸は次のうどんを掴んでいる。どんんだけ食い意地が張ってるんだこの人は。


「次はカルボナーラとお……チーズのやつもですね」


「まぁ、うどんは太るんで時々にしましょ」


「あっ、ひどおい!」


 間宮さんが顔を真っ赤にする。俺たちは幸せ太り真っ最中で絶賛ダイエット中なのである。ぷにぷにしたお腹を想像して俺はにやけてしまう。間宮さんはそれを察して照れてしまう。可愛い。


「冷めちゃいますよ〜」


「悠介くんのいじわる〜!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る