第2話 小腹が空いた! 間宮さん


「悠介くん、悠介くん。小腹が空きました」


 間宮さんは俺の腕をきゅっと掴んだ。あまりにも可愛いので「はい」と言ってあげたくなるがそうはいかない。

 

「もう日付超えるっすよ?」


「うぅ……でも今日はお仕事頑張ったからランチはコンビニのおにぎりだったんですよぉ?」


 間宮さんの甘えっぷりは見事なもんで俺はもう陥落寸前だった。俺の頭の中にはサクッと食べられるメニューがいくつか浮かび、冷蔵庫の中身と頭の中のレシピがぐるぐる回る。


「うぅ……そうじゃないとのりしお味のポテチ買いにいっちゃう」


 間宮さんは俺を脅すように言った。外はあいにくの雨だし、それにこんな時間い一人で行かせるわけにはいかない。それに、俺は外に出たくない。譲れない攻防である。

 でも、ジャガイモは昨日使い切っちゃったんだよなぁ。


「仕方ないっすね……俺もちょっと晩酌したい気分だったし何か作りますよ」


 よいしょと重い腰をあげると間宮さんが瞳を輝かせる。

 ポテチが手作りできないのは尺だけど、のり塩味のあれなら作ってあげられる。そうそう、特売のアイツを買っておいて正解だった。


 俺は冷凍庫の中から短冊切りにした山芋を取り出して解凍する。短冊切りにした山芋はすりつぶしてとろろにしてもいいが、そのままだし醤油をかけても美味しい。時間がない時の小鉢料理にぴったりだ。

 だが今回は違う。


「山芋さんですか?」


「はい、これでのりしおポテトを作ります」


 間宮さんは「えっ」と驚いたがのり塩味にするのなんて簡単なのだ。青のりと塩があればできるんだから。

 俺は水気をよく吹いた山芋にカタクリ粉と青のりで作ったバッター液をまぶして衣を作る。天ぷら粉があればもっとサクサクにできるんだけど今は切らしているのでこれで代用だ。


 フライパンにサラダ油をひいてあげ焼きにする。衣が色付けばOK。


「わぁ……いい香りですねぇ」


「青のり最強っすよ。まじで」


 間宮さんは冷蔵庫を開けると俺がよく飲んでいるビールを取り出す。間宮さんはオレンジジュースをコップにそそいだ。

 七味マヨネーズと、マヨネーズ醤油どっちでも美味しいけどどっちがいい?


「そのまんまがいいです」


 そっか、間宮さんはのり塩派だもんな。俺はちなみにコンソメ派である。ポテチに関しては争いを生みかねないので必ず二袋買う。

 だから太るんだろうな……。


***


 サクサクに揚がった山芋を口に放り込むとまるでジャガイモのようにホクホクだ。だが、さっぱりとした口どけで食べやすい。衣を片栗粉にしたからサクサクだし食べ応えもある。

 米粉の衣でやるとザグザグになって美味しいんだよなぁ……。


「悠介くんはてんさいです」


「あはは〜、でも明日はちょっと長めに歩きましょうね」


 俺に釘を刺されて間宮さんが膨れた。面倒臭いことに間宮さんは太りたくないくせにたくさん食べたいと駄々をこねる。俺としては今より全然太っていても問題ないし、むしろスリムなスタイルよりも豊満なほうが好きだ。

 ただ、女子ってのは大概細くないと機嫌が悪くなる。そういえば、新婚当初の兄貴のマリコさんがよく言い合ってたな……。


「七味マヨネーズ美味しいんです?」


「美味しいっすけど……太りますよ?」


「むぅ」


 間宮さんはまた俺を睨む。正直、俺は明日のランチをサラダだけにしようと思う。いや、いっそ休日は二人でジムに通うのもありか?

 とはいえ、新しい住居を探すために貯金もしているし俺的には自分自身の節制でなんとかしたいところだ。


「が、我慢します」


 間宮さんはまるで母親に言いくるめられた子供のようにつぶやくとサクサクの山芋を口に放り込んだ。


「うまぁ」


「次はちゃんと夕食に作るんでそん時はたくさん七味マヨネーズつけてください」


 揚げ物を食べた後の間宮さんは唇がテカテカしていてちょっと色っぽい。彼女は普段からあまりリップメイクを濃くしない。

 理由を聞いた時「食べちゃって気になるから」と言っていたがリップグロスって食べちゃうものなのか……と衝撃を受けたことをよく覚えている。


「なんですかぁ? ゆうすけくん、唇ばっかし見て。えっち」


「ふぁっ!?」


 俺の視線が間宮さんのスイッチを入れてしまったようだ。

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